夢のにおい


カーテンの隙間から差し込む朝日がちょうど顔にあたり、カカシは眩しさで目を覚ました。
窓際の時計に目をやると、時刻はAM8:00。
確か今日の任務は午後からだし、もう一眠りするかなぁ、と寝返りをうった時に、ようやく布団に自分以外の存在がいることに気づいた。
思わず飛び起きる。
そのため掛け布団が半分はずれ、隣にいる存在の顔があらわになった。
安心しきった様子ですやすやと寝息を立てているのは年のころ二十歳前後の見たこともない黒髪の美女。

・・・これは、やはり自分が連れ込んだのだろうか。

片手を頭に当てて必死になって昨夜のことを思い出そうとするが、全く身に覚えが無い。
昨日は同じ上忍者仲間との飲み会で、深夜にここに帰ってきたはずだ。
まさか、間違えて隣の家に入ってしまったとかいうベタなオチなのでは、と部屋を見回すが、確かに自分の部屋だ。
時計は間違いなくいつも使っているものだし、写真立ての写真も自分が写ってるし、その隣にある植木のうっきーくんも・・・ん?
カカシが大切に育てている観葉植物のうっきーくんが、昨日見た時より、ちょっと、いや、かなり大きくなっている。
それに、カーテンの生地や色、家具の位置が多少変化し、物がやけに増えている。

い、一体何がどうなってるんだーー??

思わず有名なムンクの絵画「叫び」のようなポーズをしていると、彼女が目を覚ました。
軽く伸びををしながら彼女が上半身をおこす。
「あれ、今日任務がないってのに、私より早く起きてるんだ。珍しい。今日は雪が降るわね」
クスクス笑って彼女はカカシの唇にお目覚めのキスをすると、さっさと顔を洗いに洗面所に行ってしまった。
場所は分かっている様子で、かって知ったる我が家という足どりだった。
カカシの混乱は大きくなるばかりだ。
いや、一番の混乱の理由は初対面のはずの彼女の笑顔にかなりドキドキしている自分にかもしれない。

 

「私、前も行ったとおり明日からB級任務で里離れるから、ちゃんと任務に遅刻しないように行ってね」
「・・・ああ」
「多分一週間くらいで帰れるから」
「・・・ああ」
「冷蔵庫の中身はちゃんと賞味期限確かめて、古いものは捨ててね」
「・・・ああ」
「・・・ちょっと、さっきから上の空の返事しかしないけど、ちゃんと私の話聞いてるんでしょうね」
「・・・ああ」

何を言っても、心ここにあらずといったふうのカカシに、彼女は全く違う話題をふってみることにした。
エプロンのポケットから取り出したキーホルダーをカカシの目の前にちらつかせる。
「見て見て、これ掃除したら出てきたの。昔、いとこのお姉さんにもらったのよ。綺麗でしょう」
「・・・ああ」
目の前で動く物にも全く反応せず、うつろな目で相変わらず生返事を返すだけのカカシ。
これはダメだ、と彼女はため息をついた。

 

カカシは先ほどの彼女とテーブルに向かい合って朝食をとっている。
ご飯に油揚げの味噌汁に納豆に卵焼きに煮物各種に漬物。
カカシは里芋の煮っころがしを食べながら、彼女の料理の腕はなかなかなぁなどとのんきに思った。
ここは落ち着くことが肝心だ。
必死に頭の中で今の状況を整理しようとする。
とりあえず彼女の名前が知りたいのだが、今さら「あなた誰ですか?」と言える雰囲気ではない。
なんとなく。

「ちょっと、カカシ!!本当に変よ。まさか自分の奥さんの顔忘れちゃったんじゃないでしょうね」
「お、奥さんーー!?」
ようやく自分の言葉に反応したと思ったら目を丸くして驚いているカカシに、もーっと文句の声をあげて、彼女は左手の薬指の指輪を見せる。
カカシがとっさに自分の左手に目をやると、おそろいの指輪が薬指に光っていた。
いつの間にーーー!!
いや、落ち着け、落ち着くんだ。
カカシは額から脂汗をかきながら自分の記憶を反芻する。

名前は、はたけカカシ。これは間違いない。木の葉の上忍で、年齢は・・・。

 

様子のおかしいカカシの顔を心配そうに彼女が覗き込んでいる。
「ところで、俺がいくつだか知ってる?」
彼女の答えたカカシの年齢は、カカシの自覚しているものより6つも上のものだった。

カカシは彼女を散歩に誘った。
自宅付近の様子はたいして変化していないが、街中の店は全く様変わりしている。
ここが6年後の世界というのは間違いなさそうだ。
歩きながらカカシは自分の推測を彼女に話す決意をする。
狂ってしまったと思われたらと思うと怖いが、このまま彼女に全てを隠して生活していくのは無理だ。

 

 

「記憶喪失??」
「そう、かもしれない。6年間の記憶が綺麗さっぱりないんだ。それで、起きたら君がいてかなり驚いた」
「ふーん。6年前ねぇ」
彼女は何やら思うところがあるらしく、下を向いてぶつぶつ呟いている。
「信じてくれるのか」
「だって、朝からカカシの妙な行動見てると、納得するしかないじゃない。私の名前も分からないんでしょ」
「・・・済まない」
本当に申し訳ないという顔をしてうなだれているカカシを見て、何を思ったのか彼女は急にニコッと笑う。
「じゃあ、ヒントあげる」
「ヒント?」
「そう、私の名前のヒント!」
隣を歩いていた彼女はカカシの眼前に回りこみ、人差し指を立てる。
「カカシの今一番大切な人の名前をあげてくださーい」
「大切な人って・・・」

カカシの頭に浮かんだ存在は一人だけだった。
自分の生徒であり、部下でもある下忍の女の子。
まさか、と思ったが、目の前にいる彼女とは青緑の瞳の色は一緒でも、髪の毛の色が全く異なっている。

「ちなみに、私の髪、明日からの任務のために染めてるから。元の色だとかなり目立っちゃうのよ」
困惑した表情で考え込んでいるカカシに助け舟を出すように彼女が言った。
「早く思い出してね。カカシ先生」
そう言った彼女の顔が、大事なあの子の顔と重なる。

「サクラ・・・?」

その名前を出した瞬間、カカシは彼女がとても嬉しそうに微笑んだような気がした。

 

 

「おそーーーい!」
「先生、いいかげん遅刻はやめてほしいってばよ」
「・・・フン」
呼び出しておいて3時間も遅れたカカシに、7班の面々はそれぞれ不満の表情をあらわにしている。
「悪い。すっごく良い夢見てたんだ」
「何わけの分からないこと言ってるのよーー!!」
遅刻の原因が寝坊とわかり、彼らの怒りは増したようだ。
いつもの遅刻の原因が嘘だとわかっているが、はっきり寝坊が原因と言われて面白いわけはない。
「じゃあ、任務の場所にむかうから」
ナルト達の不満の声など全く頓着した様子は無く、カカシはさっさと歩き始める。
未だにブーブー文句を言っている3人を振り返った時、カカシはサクラのリュックについているあるものに気がついた。
兎の形をした小さな水晶のキーホルダー。
カカシはそれをどこかで見たような覚えがあるのだが思い出せない。

「サクラ、その鞄につけてるのは」
「これ?この間、いとこのお姉さんにもらったのよ。綺麗でしょう」


あとがき??
パッと頭に浮かんだ話。なぞの美女の正体は言わずもがな。
結婚してラブラブに生活してたら良いなぁと思った。ああ、人が夢見て儚いと書く。


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