ずっと海をみてた


「・・・・何、その色気のない水着は」
「カカシ先生に言われたくないわよ!」
自分を指差すカカシに、腕組みをしたサクラはふんと鼻を鳴らす。
そして二人を見詰めるサスケとナルトは彼らの恰好に対し、「どっちもどっちだなぁ」と思っていた。

 

今、7班がいる場所は海を臨む砂浜。
海水浴シーズンということもあり、周囲は人でごった返している。
ビーチパラソルの下、着替えを終えた7班の男女が集合したわけだが、サクラを見たカカシの第一声が冒頭のものだった。
ちなみにサクラの水着はアカデミー指定の紺のスクール水着だ。
競泳用の水着には当然何の飾りもなく、味気ない。
そして、カカシは黒のシャツに黒の短パンに黒のサングラスという出で立ち。

「先生、水着はどうしたのよ!」
「だって、お肌を焼きたくないんだもん・・・」
頬に手を当て、乙女のような恥じらいをみせるカカシに下忍達はすっかりしらけている。
ギャグだとしたら、全くの不発だ。
「なら海に来なければいいじゃないのよ」
サクラのもっともな意見に、ナルトも同意して頷いた。
「子供達だけで海になんて行かせられるわけないだろう。海には危険が一杯なんだからな」
「ふーん・・・」
納得したのかそうでないのか、ナルトとサクラは揃って声をあげる。
「ほら、俺ここで待ってるからさ。お前達は遊んでおいで」
カカシは下忍達を追い払うと、いつもの愛読書を取り出してレジャーシートの上にごろんと横になった。

 

 

1時間後。
ブイの見える地点まで泳いだサクラは、そのまま遊泳場所を3往復ほどしてカカシのいる場所に戻ってきた。
本を片手に寝ているカカシは、熟睡しているのか目を開かない。
サクラは起こさないようにと、そっとパラソルの下へと近づく。

クーラーボックスからジュースを取り出した直後、
「疲れた?」
急に声をかけられ、サクラは缶を取り落としそうになった。
「び、びっくりしたー。起きてたの?」
カカシの傍らに座り、サクラはジュースのプルタグを強く引く。
上半身を起こしたカカシは、サクラに向かいにっこりと微笑む。
「ん。ずっと見てたから」

サクラは怪訝な顔をしたが、すぐにその意味を悟る。
目の前にはどこまでも続く地平線。
海水浴客が少々邪魔だが、透明度の高い海の色は確かに綺麗だ。
遊泳禁止のブイの向こうには人影もなく、水辺が太陽を反射してキラキラと輝いている。
「そっか。こんなところで本読むことないと思ったけど、ちゃんと海を眺めてたのね」
にこにこと笑うサクラに、カカシは曖昧な笑みを返した。

「お腹すいた?」
カカシが訊いた直後に、サクラの腹がタイミングよくグーッと鳴った。
内なるサクラが大きく悲鳴をあげたが、カカシはさしてちゃかすようなことは言わずに立ち上がった。
「何か買ってくるよ。ナルト達もそろそろ戻ってくるだろう」
「あ、私も・・・」
「一人で大丈夫だよ」
胸ポケットに入れていたサングラスをかけると、カカシは財布一つを持って店の出ている場所へと向かった。

 

ため息をついたサクラは、膝を抱えるような恰好に座り直す。
カカシと離れてすぐにビーチボールや砂遊びなどをして楽しんだ3人だが、何かと張り合うサスケとナルトは今はどちらが長く泳げるか競争しているらしい。
すっかり夢中になっている二人はすでにサクラのことなど眼中にない。
少しは付き合ったサクラだが、すぐについていけずにギブアップした。
一人で海を漂っていても楽しくも何ともなく、しょうがなくこうして陸に上がってきたサクラだが、またしても一人になってしまった。
「あーあ・・・」
つまらなそうに呟くと、サクラはそのまま大きく伸びをする。

暫くぼんやりと海を見ていたサクラは、耳についた女性の黄色い声に何事かと振り返る。
サクラの視界に入ったのは、水着美女に囲まれたカカシの姿。
何を話しているのか、すっかりやに下がったカカシを見た瞬間に、サクラの表情がにわかに険しくなった。

 

「サークラ、焼きそばとトウモロコシとどっちがいい?」
駆け足で戻ってきたカカシは買ってきたものをサクラの眼前にかざす。
「・・・あの女の人達に付いて行かなくていいの?」
とげのあるサクラの声に、カカシは首を傾げる。
「何で?時間を訊かれただけだよ」
「ふーん。それにしては楽しそうにしてたじゃないの」
頬を膨らませたサクラはカカシからぷいと顔を背ける。
サクラのピリピリした空気を不思議に思いながらも、カカシは彼女の傍らに座り込んだ。
そして思い浮かんだ、サクラの不機嫌の理由。

「あ、何、サクラ焼き餅?」
面白そうに言うカカシに、サクラの顔が瞬時に真っ赤に染まった。
「な、な、何言ってるのよ!!!!」
「そーか、そーか。俺があの女の子達のところに行っちゃうと思ったんだ。サクラってば、可愛いなぁv」
「ち、違うって言ってるでしょ!!」
サクラの必死の主張を無視して、カカシはサクラの頭にぽんと手を置く。
「大丈夫だよ。俺はサクラを置いて行ったりしないからさ」

カカシを見上げてその暖かな微笑を確認すると、サクラは口をつぐんだ。
これ以上何を言ってもからかわれるだけと察したのか。
カカシの言葉に安心したからなのか。
たぶんその両方なのだとサクラは思った。

 

 

「・・・サスケくんもナルトも、帰ってこないね」
「どっかで溺れてるんじゃないのか」
カカシはあまりシャレにならないことをしゃあしゃあと口にする。
「せっかくナルト達の分、焼きそば残して置いたのにね」
サクラは焼きそばの入った皿をちらりと見て大きく溜息をつく。

再び海に入る気にならず、腹が満たされたサクラはシートの上に横になった。
「食べてすぐ寝ると豚になるぞー」
「ちょっと横になっただけだもん。眠りこけたりしないわよ」
カカシの忠告に、サクラは口を尖らせて反論する。

だがその言葉に反し、サクラが寝入るのに5分と時間はかからなかった。
海ではしゃぎすぎたのか、すぅすぅと気持ち良さそうに寝息を立てている。
「言ったそばからこの子は・・・」
カカシは苦笑すると近くにあったタオルをサクラの肩に掛けた。
「ん・・・」
肌を撫でる風に軽く身じろぎをしたサクラは、ごろりとカカシのいる方へと寝返りをうつ。
その無防備な寝顔に、カカシは相好を崩した。

「・・・置いて行かれるのは、俺の方なんだろうなぁ」
カカシは海の彼方を見詰めたままぽつりと呟く。
どこか寂しげなその声は、サクラの耳には届かなかった。

 

 

 

「腹減ったー」
ほどなくして戻ってきたナルトとサスケは、口元に指をあて合図するカカシに気付き、すぐに静かになる。
カカシの傍らで、サクラはまだ居眠りをしている。
「・・・俺達の飯は?」
ナルトは空の皿を見つけ、小声でカカシに訊ねた。
「俺がお前達の分も食った」
「えええーー!!!」
不満げな声をあげるナルトを、カカシはじろりと睨みつける。
「お前達がちゃんとサクラと一緒にいないから、目を離せなくて疲れたんだよ」
「何、それー」
ふてくされたナルトは皿を見詰めてまだぶつぶつと呟いていた。


あとがき??
タイトルは大江千里の曲。
「ずっと海を見てた〜」って歌詞が途中で「ずっと君を見てた〜」に変わるんですよ。まぁ、そういう話。
歌は好きだった彼女に恋人が出来てしまって、ずっと好きだったのになぁって感じの歌なのですが、この話とあまり関係ないです。(笑)

あの、私にしては最大限にラブラブにしたつもりなんですが、駄目?
海水浴に行く下忍組にカカシ先生がついてきたといった感じですが、ナルトとサクラはともかく、どうやってサスケを海に誘い出したのかが気になるところ。
・・・・しかしこの話、何が書きたかったんだろう。うーん。
サクラを見詰めるちょっとセンチなカカシ先生と、焼き餅を焼くサクラだろうか??
いや、スクール水着サクラか。やはり水着はスクール水着!!レニ!!(←サクラ大戦)

4万打記念お持ち帰り作品ですが、あんまり関係ないですね。ああ。


戻る