ありがとう


ずっと見てきた。
この眼で。
生と死の境を。

里を守るため、仲間を守るために手に入れた写輪眼。
だけれど、救えないことの方が圧倒的に多かった。
仲間の死に顔を見るたびに。
苦痛になる。

写輪眼のおかげで、自分は一人生き続けている。
意味はあるのだろうか。
そうまでして生き延びることに。

写輪眼は命を繋ぐ大切な切り札であると同時に。
重荷でもあった。

 

 

「先生、カカシ先生」

先生って、誰のことだろう。
寝ぼけ眼で天井を見上げる俺の顔を、一人の少女が覗き込む。

「今日は身体動きそう?」

その緑の瞳を見るうちに、ぼんやりとしていた思考がはっきりとし出す。
彼女は俺の生徒の春野サクラ。
7班の紅一点。
そして、俺は任務の途中で写輪眼の使いすぎで倒れたんだった。
布団に寝る俺と、枕辺に座るサクラという情況。

 

「んー、起きるにはもうちょっとかかりそう。明日の午後までには何とか・・・」
答える俺の顔を、サクラがじっと見詰めている。
「何?」
訊ねると、サクラはすぐに表情を和らげる。
「写輪眼の力って凄いなぁって思って。先生の名前が里の外にも知られてるのも、納得できちゃうわ」
感嘆の声をもらすサクラに、くすぐったいような気持ちになる。
ここまで素直に感心されたのは初めてだ。

「使いすぎると、こんなになっちゃうけどね。ま、俺が今生きてるのはこの眼のおかげだよ」
「・・・ふぅん」
サクラは一層俺の顔を食い入るようにして見た。
俺の、左目を。
気恥ずかしい気持ちで顔をそむけようとしたら、サクラに顔を押さえられた。
驚く間もなく、左の目元にキスをされる。

 

唖然とする俺に、顔を離したサクラはにっこりと微笑む。
「お礼よ」
「お礼?」
「そうよ。その写輪眼があるから、先生がいるんでしょ。だから、私達をカカシ先生に会わせてくれたその眼にお礼をしたの。カカシ先生の命を守ってくれて有難うって」

柔らかく微笑するサクラに、俺の顔も綻ぶ。
そして、サクラの顔が段々とかすみ始めたことに驚いた。
「せ、先生!?」
目を見開くサクラに、ようやく気付く。
自分の左目から、涙がこぼれていることに。

「ああ、ごめん・・・」
「ど、どうしたの。具合でも悪いの?」
「違うよ」
俺はゆっくりとした動作で手を瞼まで持っていくと、目元をこする。
「俺の左目がね、喜んでいるんだ。サクラに会えて、良かったなぁって」
「・・・そうなの?」

俺の主観をそのまま述べてしまったけれど、これは当たりだと思う。
違っても、俺が思ってる。
俺に会えたことを喜んでくれて、俺の生を意味のあるものにしてくれて有難うって。


あとがき??
あの眼があるから、逆に辛い思いをしたりとか、あるのかなぁと思って。
執筆時間、20分・・・・。


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