お父さんと一緒


「おかえりなさい」
夜、仕事で遅くなった俺をサクラは窓を開けて出迎えてくれた。
7班以外の仕事が急に入り、サクラとのデートの約束は必然的にキャンセルだ。
その代償として、俺はサクラの家に寄ることを約束していた。

「ごめん。遅くなって」
「いいよ。先生が無事なら」
微笑むサクラを、窓から身を乗り出して抱きしめる。
なんて可愛いことを言ってくれるのだろう。
「お父さんは?」
「まだ帰ってきてない。最近いっつも遅いの」
「そう」
サクラの返答に、俺はほっとして息を付いた。
同じ家に彼がいたのでは到底安心できない。
サクラの父には、俺達のことは内緒だからだ。

 

「もう帰らないと・・・」
「えー」
不満げなサクラをなだめるようにして頭をなでる。
「ほら、もう夜遅いし、明日起きるの大変だろ」
「・・・・どっちにしろ先生、いつも遅れてくるじゃない」
半眼で言うサクラに、思わず言葉に詰まってしまった。
「こ、子供はもう寝る時間なの!」
「はーい」
わざと厳しい口調で言うと、サクラは素直に返事をした。
そしてにっこりと笑って俺に向き直る。
「キスしてくれたら帰っても良いよ」

サクラのおねだりを俺は快く受ける。
そして、唇が触れた直後だっただろうか。
サクラの部屋の扉が突然開かれたのは。

「サクラ、土産にケーキ買ってきたぞ。冷蔵庫に入れておく・・・・」
ミキヒサの口はすっかり「く」の形のまま止まっている。
当然のことかもしれない。
夜分遅く。
男が娘の部屋に侵入していたばかりか、寄り添って唇を合わせていたのだから。

 

 

以後、サクラは一切の外出を禁止され、任務にもやってこなくなった。
ミキヒサが厳しく監視しているらしく、電話一つよこさない。

そして休日の今日、俺はすることもなくぼーっとして過ごしている。
サクラがいない頃に戻ったようだ。
いつもなら、休みになると必ず出不精の俺をサクラが外に誘いに来ていた。
あまりに暇で、任務に追われて生活していた暗部時代を懐かしく思い出したりする。

来訪者を告げるチャイムの音にふと我に返り、俺は玄関へと向かった。

 

「はいはーい」
扉を開けるのと同時に、入ってきた人物に飛びつかれる。
気配で誰だか分かっていたとはいえ、あまりの勢いに何歩か後退ってしまった。
「先生!」
見上げるサクラの目は涙目だ。
「もー、あんな分からず屋のミキヒサさんのことろになんて帰らないわ!これからは先生のところに住む」
後ろをみると、大きな鞄が置いてある。
家でのつもりでうちに押し掛けたらしい。
直情的なサクラらしい行動だ。
俺は溜息をつくとサクラの頭に手を置く。
「サクラ、家に帰りなさい」

その言葉に、サクラは目を丸くして俺を見た。

「ミキヒサさんとサキさんが心配してるよ」
「嫌よ!ミキヒサさんなんて、私のこと閉じこめて全然話を聞いてくれないんだから」
「それは、サクラのことを大事に思ってるからだよ。時間が経てば、サクラの言い分も聞いてくれるって」
諭すようにして話す俺に、サクラの表情は段々と険しくなっていく。
「何よ!先生、私が来たら迷惑だからそんなこと言ってるんでしょ」
「違うよ」
俺はサクラを真っ直ぐに見詰めて静かに声を出す。
「サクラ、子供はいつかは親元から離れなければならないんだ。今のうちに甘えておいた方がいいよ。ナルトやサスケにはどんなに欲しても、頼るべき両親がいないんだから」

ナルト達の名前を出すと、サクラは急に口をつぐんだ。
自分がどんなに恵まれた境遇なのか、サクラには分かっていない。
失ってみないと、その存在の大切さにはなかなか気づけないものだ。
俺はサクラにそのことを伝えたかった。

 

暫く考えているようだったサクラは何も言わずに踵を返した。
まだ、サクラを受け入れなかった自分を怒っているのかもしれない。
一緒にいたいのは俺にしても同じ気持ちだ。
でも、サクラが両親と仲違いしてまで思いを遂げようとは思わない。
サクラが大事に育てられた掌中の珠だということを重々承知しているから。

 

再び鳴ったチャイム音に、俺は易々と扉を開く。
サクラが戻ってきたのかと思ったけれど、違った。
サクラとよく似た気配。
その正体はミキヒサだった。

「門限は5時です」
「・・・・は?」
何を言われたか分からず、俺は間の抜けた返事をする。
「守ってくださいね」

それだけ言うと、ミキヒサは俺に質問を許さず立ち去った。
元情報部員なだけあって、素早い身のこなしで追いかける暇もない。
結局どういう意味だったのか分からないまま、俺は一晩かけて考えるはめになってしまった。

 

 

翌朝、俺にしては珍しく集合場所に赴くと、すでにサクラがやって来ていた。

「門限守るなら、先生との交際認めてくれるって」
満面の笑みで言うサクラに、俺も顔を綻ばせた。
「昨日はごめんなさい。私、自分のことしか考えてなくて・・・」
俺が首を振ると、サクラは眉間に皺を寄せた。
「でも、許せないわ!ミキヒサさん、私の服に発信機と盗聴機を付けてたのよ!!」
いきり立つサクラだったが、俺は妙に納得してしまった。
急に変わったミキヒサの態度。
俺がサクラを追い返した会話を聞いていて、少しは考えを改めてくれたのかもしれない。

「それとね、おめでたい知らせがあるのよ」
「何?」
「春に、私の弟か妹が生まれるの」
喜々として語るサクラに、俺は驚きを隠せない。
「え、何、サキさんに子供できたの!?」
「そうよ。昨日分かったの」
サクラは心底嬉しそうに微笑んだ。

笑顔のサクラを眼前に、サクラに似た女の子が生まれた日にはミキヒサだけでなく俺も夢中になってしまうかもなぁ、なんて考えてしまった。


あとがき??
ようやく完結。ここまで長くなるとは思わなかったですよ。本当。
感想を下さった皆さんのおかげです。
ご愛読感謝致します。
余談ですが、ミキヒサさんがケーキ屋でバイトをしているのは、忍びの仕事をしているとサクラと一緒にいる時間がなかなか作れなかったからです。だから忍者を止めた。
転職先がケーキ屋なのは、そのケーキ屋のお菓子はサクラの大好物だったから。
・・・親ばか。

早くに完成していたのですが、アップするの忘れてました・・・・。
神威静さんから「このシリーズが好きv」というメール頂いて思い出した。感謝。


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