小鳥 1


「でっかいお屋敷だね――!!」

驚嘆するナルトに、イルカは苦笑してその門を見上げた。
3メートル以上の高さのあるいかめしい門は金箔を貼り付けた豪奢なつくりで、隙間から見える範囲で人の住まいらしきものは見られない。
それもそのはず。
屋敷の母家はこの門からさらに車で30分ほど移動した場所にあった。
案内人に連れられ車に乗り込みながら、ナルトは驚きのし通しだ。

「い、池があるよ、イルカ先生!白鳥がいる!!」
「そうだな」
「見て、今、木の間から鹿が顔を出したよ」
「ああ、見えたよ」
「これ、本当に門から玄関までの間の光景なの!!?」
ナルトの眼はこぼれ落ちてしまうのではないかと心配するほど見開かれている。

「あのー、お屋敷の方もやっぱり広いんですよね」
「ええ。一ヶ月ほど前、新しく来た召使が屋敷内で迷いまして、すぐに捜索隊を出したんですがまだ見つかっていません。何しろ、うちの敷地はサハラ砂漠より広いと言われていますから」
「嘘!!!!」
仰天するナルトに、イルカは吹きだした。
「冗談に決まってるじゃないか。ねぇ」
イルカは車を運転する案内人に同意を求めたが、彼は表情一つ変えずに前方を見詰めている。
「ちなみに、トイレに行くのにはジープで3日かかります」

ナルトはすっかり黙りこみ、玄関につくまで車内は静まり返っていた。

 

 

「冗談、きっついよなぁ」
イルカは頭をかきながらぼやくように言う。
屋敷についたイルカとナルトは、案内人が主人に取り次ぐまでの間、玄関のホールで時間を潰していた。
ちなみに、トイレは決められた間隔で設置してあり迷子になることはないとのこと。
たぶん、煩いナルトを黙らすための、方便だったのだろう。
だが、案内人は表情が少ない男なだけに、本気で信じてしまうところだった。

「イルカ先生、見て見てー。この額縁、高そうだよねぇ」
ナルトは階段付近にある絵画に見入っていた。
絵に興味があるわけではなく、その縁についている飾りの宝石に目がいっているらしい。
「これは代々の当主様の肖像画らしいね」
人物画の下にはそれぞれ生没年月日が記されたプレートが貼られている。
ナルト同様、うろうろとホールを歩いていたイルカは、ある一枚の絵の前で足を止めた。
生まれた年のみが書かれている、男の絵。
「これが現在の当主様か・・・」

 

暫し絵画を眺めていたイルカは、階段を下りてくる足音に振り返る。
その少女はホールに人がいると知らなかったようで、はっとして立ち止まった。
「あなたがこの家のお嬢様ですか」
イルカが少女を見上げて訊ねると、彼女は驚きに目を見開いた。

「いや。彼女はうちで手伝いをしてもらっている子ですよ」
少女が口を開く前に、廊下の角を曲がってやってきた男が答える。
彼は、今イルカの眼前にある絵に描かれているのと同一人物だ。
「これは失礼しました」
丁寧に頭を下げるイルカを、当主は一瞥する。

「君が巷で評判のイルカ探偵かね」
「はい。これは助手のナルトです」
自分の名前が出たことに反応し、ナルトは急いでイルカのところまで駆けてくる。
だが、当主はナルトのことなど目もくれず、応接室に向かって歩き出していた。
「さっそく本題に入ろう」

 

 

当主の依頼は、彼の一人娘であるサクラ嬢を守ること。

この家は先月にある泥棒に入られたが、大胆不敵なことに、同じ泥棒から盗みに入ると予告状がきた。
しかも、今度は金品ではなく令嬢を攫いに来るとある。
前回警察に任せて犯人捕獲に失敗した当主は、名うての探偵であるイルカの力を借りようと思ったらしい。

 

 

「何だか、嫌な感じの人だね・・・・」
案内された部屋に入り、二人きりになるなりナルトは不満気に呟く。
それが誰を指しているのかすぐに分かり、イルカは困ったように笑う。
「依頼主さまを悪く言っちゃ駄目だよ」
「でもさー、何、あの尊大な態度。俺の方なんて、一度も見なかったよ」
たしなめるイルカにも、ナルトはまだ不平を言っている。

「ところでさ、イルカ先生この家のお嬢様の顔知ってたの?」
「いいや」
首を振って答えるイルカに、ナルトは怪訝な顔をする。
「じゃあ、何で階段にいた女の子をお嬢様だと思ったのさ?ちゃんとメイドの服を着ていたのに」

紹介された令嬢は、確かに階段で見た少女とよく似た面立ちをしていた。
薄紅色の髪も、緑の瞳も同じだった。
彼女をよく知る人間以外なら、間違うこともあるかもしれない。

 

「んー、それがなぁ・・・」
イルカは顎に手を当て、何か思案するようなポーズをする。
「俺の思い違いかもしれないし」
何事かぶつぶつと呟くイルカを横目に、ナルトはソファにごろりと横になる。

「ところで、ナルト、あの子のこと気に入ったんだろ」
「あれ、分かる?」
満面の笑みを浮かべるナルトに、イルカも顔を綻ばせる。
「廊下を通った人にあの子の名前聞いてたじゃないか」
「ばれてたか」
ナルトはペロリと舌を出す。
「で、何て名前だって?」
「サクヤちゃんだよ。名前までお嬢様に似てるよね」
ナルトはクッションを抱きしめながら何故か頷いている。

ナルトのいるソファまでやってくると、イルカは屈んでナルトに顔を近づける。
「ナルトさ、明日あの子に近づいていろいろと話聞き出してくれないかな」
「うん。分かった!」
半身を起こしたナルトは、任せておけ、とばかりに腕まくりして答えた。


あとがき??
ナルチョ、可愛い、可愛いよーvv
この子のおかげですらすら筆が進む。有難う、有難う。


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