小鳥 3


犯行予告日、前日の夜。

 

「それで、来月に結婚するんだってさ」
「・・・・・・誰が?」

会話の合間、意表を突くその言葉に、ナルトは思わず聞き返していた。
もちろん耳には入っていたが、にわかに信じがたい。
「だから、サクラお嬢様」
繰り返されたイルカの言葉に、ナルトはようやく目を丸くする。
「だって、彼女俺と同い年でしょ!!まだ12じゃん」
「お金持ちってのは、そういうもんなんだよ」

ナルトはどうも納得できないといった面持ちでイルカを見上げる。
「で、相手はどんな人」
「伯爵様。玉の輿ってやつだな」
「年は?」
「確か、サクラ嬢より30ばかり上だよ」
明らかに彼女の意志でないと分かる話に、ナルトは浮かない顔で面を伏せる。
人ごとながら、あまり気分のいい話ではない。

「何か、可哀相・・・・」
ナルトの呟きには、イルカも頷いてしまいたくなる響きがあった。

土地はあるが金のないこの家は、娘の結婚に家の再興をかけているらしい。
当主が怪盗の予告状に青くなったのは、切迫している家の内情があるからだ。
娘自身を思いやる気持ちからではない。

 

「それで、お前の方は上手くいったのか?」
「うん、サクヤちゃんの話をいろいろ聞いたよ。屋敷の中も庭も散々歩き回ったし、例の物も見つけた」
「よしよし。帰ったらラーメンおごってやるからな」
イルカは満足げにナルトの頭を撫でる。
暫らく黙り込んでいたナルトは上目遣いでイルカを見上げた。
「でも先生、サクヤちゃん例の怪盗のこと知ってるような感じだったよ」
「・・・・へぇ。何だろうな」
イルカは一応驚いた表情をしたが、ナルトにはその顔は何かを隠しているように見えた。

ナルトは腕組みをするとじろりとイルカを睨め付ける。
「俺さー、何だか嫌な予感がするんだけど」
「気のせいだよ」
意味ありげに微笑むイルカに、ナルトは諦めにも似たため息をついた。

 

 

 

翌日。

朝食前の僅かな時間に、サクヤは庭の花を眺めて歩いていた。
朝露にぬれた花を一輪手折ると、部屋の花瓶にさすために踵を返す。
鼻歌まじりに歩いていたサクヤの足は、彼の姿を認めるとぴたりと止まった。

 

「やぁ」
緊迫感のない顔で挨拶をされ、サクヤは自然と微笑む。
「おはようございます」
数週間前に見た怪盗が、マントを羽織って佇んでいた。
どこか眠たそうに見えるのは、朝早いからだろうか。

「あの小鳥は元気?」
「ええ。今日明日にも怪我は完治するわよ」
「それは良かった」
穏やかに微笑するカカシに、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ、どうして小鳥を盗もうと思ったの」
「気に入ったから。それに、小鳥が窮屈な檻を抜け出したいのなら、そのお手伝いをしようと思って」

その受け答えの中、サクヤは恐れることなくカカシに近づく。
眼前までやってくると、カカシの顔をまじまじと眺めた。
「・・・やっぱりあなただったのね」
感心したように呟くサクヤに、カカシは一層顔を綻ばせた。
「一目でばれるとは思わなかったけどね」

 

カカシはサクヤに向かって手を差し出す。

「さて、どうしたますか。お姫様?」
「連れて行って下さい」
即答すると、サクヤは迷うことなくカカシの掌に自分の手を重ねた。
「外の世界に」

 

 

 

朝食の時間に食堂へとやってきたイルカとナルトは、当主によって広間へ呼び出される。

道すがら執事に訊ねると、サクヤがいなくなったとの情報を得た。
そして広間には、落ち着かない様子のサクラ嬢と不自然なほどに動揺した当主がいた。
屋敷内のざわついた雰囲気をイルカは不審に思う。
「あの、小間使いが一人姿を消したくらいで、何でこんなに騒いでいるんですか?」
「違う!いなくなったのはサクラだ」

当主はここにきて初めて、娘のサクラと小間使いのサクヤとを入れ替えた事実を明かす。
年も近く背格好がよく似たサクヤは、丁度良い身代わりだった。
だけれど、カカシが間違うことなく本物を攫っていったことを、当主はまだ信じられずにいる。

 

「やっぱり・・・・」
蒼白の当主の顔を見詰め、イルカはしたり顔で呟く。
「イルカ先生、気付いてたの」
「階段で会ったサクヤ嬢を令嬢だと思ったのは、代々の当主さまの絵に顔がどこかしら似てたからだよ。それに、メイドの服を着ていたわりに、手も荒れてなかったし」
「なるほど」
イルカとナルトののんびりとした会話を耳にして、当主はいきり立った。

「この役立たずが!何のためにおまえを雇ったと思っているんだ」
「でも、あなたは私にいろいろと隠し事をしていたじゃないですか。お嬢様のこともだし、ほら、これも」
イルカは懐から取り出した袋を当主に放り投げる。
怪訝な顔をした当主は、袋の入り口を開くなり表情を一変させた。
「これじゃあ真剣に事件に取り組もうという気持ちもなくなりますよ」
まばゆい宝石を目にして、当主の手は震えている。

「悪いと思いましたが、ちょっと保管庫から拝借してきました。これですよね、あなたが盗難届を出した宝石は」
無言のままの当主に、イルカはなおも言葉を続ける。
「保険に入っていたおかげで多額の金が手に入ったみたいですし。カカシが“宝石の代わりに”と言っていたことを考えれば、サクラ嬢の値段と考えたほうがいいと思いますよ」


あとがき??
ようやく次で最後―ぉーー。
一応、イルカ先生が明智探偵で、ナルトが小林少年で、カカシ先生が怪人二十面相。
江戸川乱歩のシリーズは小学校の頃図書館に通って、夢中で読んでいた。懐かしい。

・・・・あの、総合的に物凄くふざけた話なのですが、エピローグ読んで怒らないでください。(汗)


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