ちち　�A

「ナルトー、ジュース買ってきたわよー！！！」
７班全員分の飲み物を買ってきたサクラは、離れた場所にいるナルトに呼びかける。
ナルトはすぐにサクラに向かって一直線に駆けて来た。

「有難うー、サクラちゃ、うわぁっ！！」
「えっ」
ナルトへ渡そうとジュースの缶を持つ手を伸ばしていたサクラは、何もないところで見事につんのめったナルトに唖然となる。
４人分のジュースを不安定に持っていたサクラには避ける間もない。
ナルトは間近にいたサクラを巻き込んで地面に倒れ込んでいた。

　

サクラの手を離れた缶はカラカラと四方に転がり、ナルトも慌ててサクラから身を離す。
「ご、ごめ」
目が合うなり、ナルトは謝罪の言葉の途中でサクラに思い切り叩かれた。
「あんた、触ったわね！！！！」
「え、ええ！？？」
サクラは顔を真っ赤にして物凄い剣幕だ。
確かに自分の転倒に巻き込んでしまったのは悪かったが、ナルトはここまで怒るサクラを滅多に見たことがない。

「な、何を？」
「胸よ、胸！！触ったじゃないのよ」
「・・・胸」
胸部を庇う動作をするサクラに、ナルトは地面に座り込んだまま自らの掌を見詰める。
そういえば、倒れる前に何かを掴んだ気がした。

「でも、あったのは厚い胸板だけだったような・・・・」

　

　

「ウスラトンカチ」

サクラにぼこぼこにされたナルトを見下ろし、サスケは呆れ返っている。
このときばかりは、その形容詞が自分に当てはまるとナルトも思った。
任務をボイコットしていなくなったサクラは、とっくに姿を消している。
自分の馬鹿正直さをひたすら呪うナルトだった。

　

　

　

　

「私、もう耐えられません！！！」

ワッと泣き崩れるサクラに、駆け込まれた家の住人は困惑するばかりだ。
「・・・それで、どうしてあなたはうちに来たんですか」
ハヤテは途方に暮れて呟く。
日頃親しく付き合っているわけではなく、サクラが自分に泣き付く理由が分からない。
事情はサクラに話して聞かされたが、ハヤテには関わりのないことだ。

「だって、ハヤテさんいっつも怪しい薬服用してるじゃないですか。自分でいろいろ作ってるって話だし、胸が大きくなる薬も知ってるんじゃないかと思って」
「・・・・」
確かにハヤテは自らの体が弱いこともあり、薬には詳しい。
知人に薬を分け与えることもあったが、胸が大きくなる薬についての知識などはない。

「むやみに薬なんかに頼らない方がいいですよ。あなたは成長期ですし、これからいくらでも・・・」
「これからじゃなくて、今すぐグラマーになりたいんです！」
サクラは必死な様子で叫んだ。
鬼気迫るその表情は、特別上忍のハヤテをも竦ませる迫力がある。

　

暫らく考え込んだハヤテは、サクラの肩にポンと手を置いた。

「じゃあ、健康的な方法でいきましょう」
「・・・健康的？」
「ええ。薬や道具を使わないやり方です。時間はかかるかもしれませんが、これしか手はありません。使えば大きくなるはずですから」
「ハヤテさん・・・・」
「私も協力しますよ」
熱っぽく語るハヤテを、サクラは瞳を輝かせて見詰める。

「じゃあ、まずは部屋を移動して・・・」
「ちょっと待ったーーー！！！」
サクラの手を引いてハヤテが居間から移動しようとしたときに、唐突に乱入した者がいた。
カカシだ。
どうやらサクラがこの家に入ってからずっと会話を聞いていたらしい彼は、怒りの形相でハヤテを睨みつけている。

「サクラからその手をどけてもらおうか！」
「・・・ああ、はい」
高圧的に言われ、ハヤテはあっさりと従った。
土足のままあがりこんだカカシは、呆気に取られるサクラを引っつかむようにして自分の方に持ってくる。
「今度うちのサクラに手を出したら承知しないからな！」
威し文句と共に、カカシは玄関の向こうへと消えた。

「効果的なストレッチ体操があったのに・・・・」
ハヤテの残念そうな声は誰にも聞かれることはなかった。

　

　

　

「サクラ、いい加減にしないと穏和な俺も怒るよ！」
「・・・うう」
カカシに怒鳴られ、サクラは目に涙を滲ませる。
「よく知らない一人暮らしの男の部屋にあがりこんだりしたら駄目でしょ」
「でも」
「でも、じゃないの！」
カカシはサクラの口答えを断固許さない構えだ。

「俺はそのままのサクラが好きだって言ってるのに、何が不満なのさ」
サクラは赤くなった目元をこすりながらカカシを見上げる。
「・・・だって、私のために無理してそう言ってるだけで、カカシ先生も本当は胸の大きい人の方が好きかと思って」
「俺！？」
「私、カカシ先生にもっと私のこと好きになってもらいたいの」

　

愛しいサクラに潤んだ瞳で見詰められ、さすがのエリート上忍も理性のたがが外れそうになる。
だが、幸か不幸か、今は往来の目があった。
いくらなんでも、この場でサクラを押し倒すわけにはいかない。

「サクラ、その気持ちだけで十分だよ」
「カカシ先生・・・」
「俺はサクラがそばにいてくれるだけで幸せなんだ」
歯が浮く台詞と共に鉄の自制心で微笑んだカカシに、サクラは歓喜の表情で応える。

　

　

「・・・バカップル」
手を繋ぎながら、スキップをしそうな勢いで歩く二人をサスケとナルトは遠巻きに眺める。
かなり周囲の目を集めていたが、カカシとサクラはまるで気にしていないようだ。

「なぁ。俺、もう帰っていいかなぁ・・・・」
一人では怖いから、という理由でサスケを連れ、サクラに謝りにきたナルトは涙ながらに訊ねる。
哀れなナルトに向かい、サスケは静かに首を縦に動かした。

あとがき？？
馬鹿です。全てが。私も含め。（笑）
一番の馬鹿は・・・・・・ナルトか？
これ以上カカシ先生がサクラのことを好きになったら大変だと思われます。ねぇ。

「ちち」に投票して下さった皆様、有難うございました。

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