だから


サクラがうちに入り浸るようになって一ヶ月ほど経つ。
俺が外に出ているときは、管理人に頼んで部屋に入るか、扉の前で待っているか。
だけれど、何か差し迫っての用事があるわけではない。

「・・・なんで居るの」
「先生だから。生徒が遊びに来ても、普通でしょ」

サクラはクッションに頭を乗せ、寝そべった姿勢で雑誌を読んでいる。
普段着に着替えたサクラのこのくつろいだ様子は、まるでここが彼女の自宅であるような錯覚をさせた。
何かと「先生だから」の言葉を連発するサクラ。
彼女の面倒を見るべき担任だからと言ってしまえばそれまでだが、これも教師としての仕事の一環なのかほとほと疑問に思う。

 

「ところで、何で今日は荷物多いのよ」
玄関口に置かれたままのボストンバッグを気にして訊ねる。
「今夜、先生の家に泊まるからに決まってるでしょ」
「・・・・」

額に手を置いて考え込む。
何だか、とんでもない爆弾発言を聞いた気がした。
サクラはまだ足をぶらぶらとさせて雑誌を見ている。

「両親が旅行中で家に誰もいないのよね。子供一人じゃ、物騒だから」
「友達か親戚の家に行けば」
「親戚の家、みんな隣町で遠いの。急な話だったから、他人の家じゃご迷惑だし」
「・・・・」

自分の迷惑は考えないのだろうかと、ちらりと思う。
顔に出たのか、サクラはすぐに言葉を続けた。
「先生だから。困っている生徒を放っておけないでしょ」

何だか、うまく言いくるめられている気がした。
きょろりとした目で自分を見るサクラには、何の悪意も感じられない。
つい承諾してしまったけれど、納得したわけではなかった。

 

 

「俺はソファーで寝るから、サクラはベッド使って良いよ」
夜になって、風呂から出てきたサクラに寝室を指差す。
サクラは髪を拭いたタオルを手にしたまま、こちらをじっと見詰めている。
また、何か我が儘を言うかと、少しだけ身構えた。

「・・・先生、頭に糸くず付いてる」
サクラは身振りで俺に屈むよう合図をする。
何となく拍子抜けして言う通りにすると、身を乗り出したサクラに前触れもなくキスをされた。
思えば、身長の低いサクラに自分の脳天を見れるはずがない。
そしてサクラは、いつもの一言。

「先生だからよ」

にっこり笑ったサクラは、そのまま寝室へと引き下がった。
上手く煙に巻かれてしまったような感じで、俺はその場に立ち尽くす。

 

すでにサクラが部屋にいることが日常になっている風景。
いつの間にか、サクラの日用品がそこかしこに置かれている部屋。
加えて、サクラのとびきりの笑顔。

これは、サクラの作戦勝ちだろうか。


あとがき??
寝る前に5分くらいで考えた。
最後の「先生だから」は、今までのとちょっと意味合いが違います。
教師という意味の“先生”と、カカシという意味の“先生”。
その境目、どこからどこまでなのかが分からないから、カカシ先生はまいっちゃうわけです。(笑)
サクカカ楽しい。小娘に翻弄されてるカカシ先生ってのもいいな。
でも、本当の理想はカカシ先生に翻弄されるサクラ嬢なのですよ。書けないけど。


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