カカシ先生のお見合い 2


アスマや紅に口止めをしようとしたカカシだが、後の祭りだ。
見合いをしたのは昨日のことだというのに、カカシが外を歩くと口々に「おめでとう」と言われる。
その度に否定することに、カカシは疲れきっていた。
ふらふらした足取りで家路を歩いていると、カカシの視線の先に元凶である片割れがいた。

 

「それで、俺もびっくりしたよ。あのカカシが髪の毛七三分けだぜ!どこの七五三かと思ったよ」
大げさな身振りで話すアスマに、集まった忍びがどっと沸く。
「お相手がまた見ごたえのあるお嬢さんでさ」
「・・・・それで?」
その場に似つかわしくない暗い声が響き、笑い声はぴたりと治まった。
いつの間にか、談笑の輪の中にいたカカシ。
冷徹な目でアスマを見据えるカカシに、人々は自然と散った。

「よー。カカシ、元気か」
「言いたいことはそれだけか」
「披露宴には呼んでくれよな!」
カカシはわなわなと振るえながら握り拳を作る。
「・・・・ぶっ殺す」

 

 

場所を行き着けの飲み屋に変えると、カカシは事情を洗いざらい話した。

「だから、俺は見合いを望んだわけじゃないし、結婚する気もないんだよ!!」
「ハハハ。そうじゃないかと思ってたよ。俺は信じてたさ」
アスマは全く悪びれずに笑い飛ばす。
その笑顔を横目に、やっぱり殴っておくべきだろうかとカカシは思った。

「で、本当のところどうするんだ」
「断わるよ。だけど、何て言っていいか分からなくて・・・」
断わるには、何か明確な理由が必要だ。
見合いをするからには、先方もこちらが結婚を前提に考えていると思っている。
火影に頼まれたから仕方なく、などという言い訳は通用しない。

「麗子さん。あの人、見てくれ強烈だけど話すと凄くいい人なんだよ。でも、あの外見のせいで見合いに何度も失敗しているらしくて、随分気落ちしてたんだ」
「ふーん」
「だから、あなたみたいに心の綺麗な人は他にいませんよ、って正直に言ったらよけいその気になっちゃったみたいで・・・」
「・・・・お前、断わるつもりなんだろ」
「・・・・そう」
「くどいてどうする」
的確に突っ込まれ、カカシは黙り込んだ。
「優しい馬鹿だなぁ」というアスマの呟きに、反論さえ出来ない。

「はい、焼き鳥!」
やがて店主が串焼きをのせた皿を二人の前のテーブルに置く。
のろのろとした動きで、カカシはそれに手を伸ばした。
「結婚したくないならしたくないで、はっきりとその理由を言った方がいいと思うぞ。遠まわしに断わったらよけいに相手は傷つく」
「だよねぇ・・・」
アスマの忠告に、カカシは深々と溜息をついた。

 

 

 

「カカシ先生、何なの?」
「いいから、いいから」
カカシは戸惑うサクラを半ば強引に腕を引いて歩く。
任務の休みの日に突然呼び出され、サクラは困惑していた。
友達と遊びに行く予定があったのに、キャンセルだ。
何か、重要な仕事があるからと電話で言われたが、向かった先は公園だった。
そこに何があるのか、サクラには見当もつかない。

「あ、サクラ。一言も喋るなよ。ただニコニコと笑っていろ」
「ええ?」
「いいから。言うとおりにしてろな」
カカシに厳しい眼差しで言われ、サクラは黙って首を縦に動かした。

 

噴水近くにあるベンチで、彼女はすでにカカシを待っていた。
遠目にもそれと分かる、カカシの見合い相手である麗子嬢。
「麗子さん」
カカシが呼びかけると、彼女はすぐに振り返った。
麗子嬢の装いは、先日とは違いラフな洋装。
対してカカシも、いつもの忍び装束で傍らにはサクラを連れている。

「急に呼び出してすみません」
「いえ」
麗子嬢は気にした風もなく笑顔でカカシを見詰める。
美人とは世辞にも言えないが、温和でふくよかなその顔は見る者を安堵させる空気を持っている。
異性には不評かもしれないが、同性には好かれるタイプだ。
サクラも、一目で彼女に好印象を抱いた。

 

 

「あの、この間の見合いの話なんですけれど・・・」
「辞退する、とおっしゃりたいんでしょ」
麗子嬢は微笑みながらカカシの続く言葉を代弁する。
「分かってました。カカシさんのような素敵な人が私を振り向いてくれるはずはないですし。実はお見合いの話は私が無理を言って伯母から火影様に頼んでもらったんです」
初耳のことに、カカシは目を丸くした。
第三者であるサクラも、わけが分からないなりに話に耳を傾ける。

「カカシさんはお忘れかもしれませんが、私、あなたに会ったことがあるんです。私の飼い犬が川に落ちたときに、通りかかったカカシさんが飛び込んで助けてくださったんです。私、嬉しくて」
麗子嬢は顔を綻ばせながら語る。
だが、麗子嬢の言うとおりカカシは全く覚えていなかった。
犬好きの自分なら、そんなことをしたかもしれない、と思う程度だ。
また思い出せない分、そうした恩義を忘れずに自分を慕ってくれた麗子嬢を、カカシは心底いじらしく思う。

 

「気になさらないで下さい。慣れてますから・・・」
「麗子さん!」
無理に微笑む麗子嬢に、カカシはたまらず声を出す。
「俺が今回の話を断わるのは、あなたが気に入らなかったからじゃないんです。他に好きな人がいるからなんです」
「・・・好きな、人」
「そうです。この子、俺の生徒でサクラって言います」
突然腕を引かれ、サクラは仰天した。
思わずカカシの発言を否定しそうになって、サクラは慌てて口を引き結ぶ。
喋るな、と言われたことが、頭に残っていたからだ。

「そうですか。分かりました」
瞳には僅かに涙が浮かんでいたが、麗子嬢は明るい笑顔で二人を見詰めていた。

 

 

「カカシ先生、ひどい!!」
麗子嬢の姿が見えなくなると、カカシは嫌というほどサクラに罵られた。
「私を縁談断わるダシに使うなんて、最低よ!!!」
大声でカカシを非難すると、サクラは足を踏み鳴らして家に帰っていった。
頭に血が上ったサクラは、カカシが何を言っても聞く耳を持たない。
残されたカカシは、一人寂しく麗子嬢が座っていたベンチに座り込む。

「よー。終わったみたいだなぁ」
「ずっと覗いてただろ・・・」
「だって、面白そうだったからよ」
カカシの傍らには、いつからかアスマが腰掛けている。
突然湧き出たような登場をした彼だが、カカシは別段驚かなかった。

「どっちがひどいんだかなぁ。本命にあそこまで言われちゃって、お前も可哀相な奴だよ。ありゃ、全然気付いていないぞ」
「・・・・放っておいてくれ」
同情を含んだアスマの物言いに、カカシはふてくされて答えた。


あとがき??
まゆさんからのリクエストなので、やはりカカサクを盛り込まないと駄目かと思いまして。(笑)
嘘です。私の趣味です。
カカ→サクなんですけれど。
リクエストは、「カカシ先生のお見合い話」でした。
珍しく冒頭から最後までツルッと書けた話。
カカシ先生の七三分けの髪は見たいような、見たくないような。(^_^;)

52800HIT、まゆ様、有難うございました。


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