姫君 一


サクラは7班の集合場所に向かって全速力で走っていた。
手には通常よりも大きな鞄を抱えている。
これを用意していたせいで、朝の貴重な時間を大幅にロスしてしまった。
毎日欠かさず行っていた髪の手入れも出来なかった。
カカシが予定通りの時間に現れているとは思えないが、遅刻というのはやはり気持ちのいいものではない。

 

何とか10分程度の遅れですんだサクラだが、信じられないことに、カカシはサクラよりも早く到着していた。
目を丸くして立ちつくすサクラに、カカシは苦笑をもらす。

「お前ら、全員同じ反応だなぁ」
カカシの傍らで、サクラと同じくサスケとナルトも狐につままれたような顔をしている。
いつもなら、平然と5時間も遅刻するカカシなのだから、下忍たちのこうした反応も当然かもしれない。

 

 

「じゃあ、全員が揃ったところで改めて紹介するな」
その言葉と同時にカカシの背に隠れていた少女が顔を出し、サクラは思わず息を呑んだ。

腰まで届く長い黒髪を頭の高い位置で一つに縛り、着物の上から袴を身につけた美少女。
少年のような服装だが、丸みを帯びた体型は成長過程の娘のものだ。
大きくて魅力的な鳶色の瞳と、紅をさしたように赤い唇に目を奪われる。

「雪姫って名前だよ。今日一日、仲良くしてあげてね」
カカシの腕にくっついている雪姫は、はにかみながら笑った。
その仕草が、また誰の目にも愛らしく映る。
着物の裾から伸びた手足は、その名のとおり雪のような白さだ。

「・・・・サクラちゃんより可愛いかも」
呆けたような表情のナルトは、我知らず本音をもらす。
その言葉がサクラの耳に届き、あまつさえ、その心を大いに傷つけていたことにナルトは全く気付いていなかった。

 

 

 

カカシがこの日連れてきた雪姫はさる大名家の姫君だ。
任務内容は彼女のお忍び視察の一日護衛。
本来なら下忍の任務になるはずがないものだったが、今回は雪姫直々の口添えで決まった。
どういった縁で知り合ったのかは分からないが、雪姫はカカシに非常になついているようだった。

「何よ!カカシ先生ったら、あの子にべたべたしちゃって」
「・・・・」
べたべたしているのはカカシではなく雪姫の方だと思ったが、サスケは無言の返事をした。
カカシが雪姫と親密な様子なのは確かで、今、サクラの機嫌は限りなく悪い。
触らぬ神に祟りなしだ。

 

「・・・サスケくんはあっちに行かなくていいの」
珍しく自分のそばに留まっているサスケに、サクラはその方角を指しながら訊ねた。
正午のランチタイム、河川敷にいる7班は銘々に食事を取ることになっている。
サクラが指差す先には、仲良く食事をするカカシと雪姫、そしてナルトの姿があった。

雪姫が持ってきた重箱の弁当は、サクラ達庶民が年に何度食べられるか分からない食材ばかりが詰まったものだった。
お抱えの料理長に作らせたそれを、雪姫は皆の分も用意してきたらしい。
差し出された弁当をサクラは丁重に断ったのだが、サスケもそれを受け取らなかったことはサクラには意外だった。

 

 

「俺は別にいい」
サスケはナルトと違い、雪姫にも重箱の弁当にも感心を示さない。
代わりに、サスケはサクラに向かって手を差し出した。
「持って帰っても、重いだけだろ」
その言葉の意味をすぐに察し、サクラは目を見張ってサスケを見詰める。

「・・・・気付いてたの」
「指が傷だらけだ。本当に不器用な奴だな」
いつもながら、サスケは冷たい口調で言った。
それでもサクラは全く嫌な顔をせず、サスケに微笑を返した。

サクラが遅刻しながらも用意した、4人分の弁当。
菓子パンや、前日に弁当屋で適当に買った物を食しているナルト達を見て、サクラはたまには自分が料理の腕をふるおうと考えた。
朝からキッチンで奮闘した成果は、サスケのおかげで二人分は無駄にならなくてすみそうだ。
たぶん、サクラが弁当を作ってきたことを知れば、カカシとナルトも無理をしてサクラの弁当を食べたかもしれない。
だが、煌びやかな料理を見せられたあとには、サクラの手作り弁当は随分と貧弱に見えて、それを差し出す勇気はサクラにはなかった。

 

「一日だけだ」

サクラから弁当箱を受け取りながら、サスケは雪姫の滞在期間を暗にほのめかす。
7班での、自分の居場所を雪姫に取られたように感じていたサクラの寂しさを、サスケは理解していた。
そっけないが、自分を気遣っていると分かるその声が、サクラの心に染み入るようだった。

 

 

 

 

「駄目になった!!?」
「うん。ごめんな」
素っ頓狂な声を出したサクラに、カカシは両手を合わせて平謝りをした。

前日になって、約束していたデートをカカシがキャンセルしたいと言い出したのだ。
「な、何で!」
「・・・雪姫のね、誕生日なんだ。パーティーに呼ばれちゃって」
雪姫の名前を耳にするなり、サクラの顔色が変わる。

「それでさ、7班の下忍も呼んでいいって言ってたから、良かったらサクラも・・・」
「馬鹿!!!!」
カカシが言葉を言い終わらないうちに、サクラは声を張り上げていた。
「先生の顔なんてもう二度と見たくないわ!もう、雪姫のところでもどこにでも行っちゃえばいいのよ!!」
捨て台詞を残し、サクラはその場から駆け出す。
涙を流したみっともない顔を見せる前に踵を返したのは、自分でも正解だと思った。

 

デートの約束をしたのは、3月28日。
その日は雪姫だけではなく、サクラの誕生日でもあった。
前々から約束をしていたというのに、雪姫のためにあっさりと予定を変えたカカシの態度が怨めしい。
怒りと悲しみの感情で一杯だったサクラは、まさか自分の投げた言葉がのちに現実になるとは思いもしていなかった。


あとがき??
サクラちゃん、辛い。で、サスケが妙にいい奴。あれ、もしかしてサスサクってる?
ど、どうしたことか。(オロオロ)
逆にカカシ先生は人気を下げそうな感じ。(笑)真意が読めないですね。今のところ。
ナルチョはわりと美女に弱いですよ。自来也さんの影響か??白への言葉がどうも忘れられなくて。
雪姫ちゃんは白似の美少女v15、6歳。

次はもっと大変なことになりそうな感じ。すみません。これから考えます。二で終わるのかしら。
カカサクかサクカカか、はっきりしてくれ。
ちょっとカカサクを書く自信がなくなった今日この頃・・・。


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