もう一度クリスマス


「いの、それシャンパンじゃないの」
「大丈夫よー。ノンアルコールだから」
親しい友人が集まったパーティーで、いのはシャンパンの入ったグラスを配って歩く。
とある飲食店を貸し切り、久しく顔を合わせない者も加わって、クリスマスパーティーの会場は沸き立っている。
幹事を務めているいのは、何か不都合がないかと場内をせわしなく歩き回っていた。

「いのー、誰か来たみたいよ」
「はいはいー」
注文していたケーキが届いたのかと思い、いのは急いで扉へと向かう。
しかし、そこにいたのはいのの予想に反し、ケーキの宅配人ではなかった。

 

「サクラ!?」
いのは目を丸くしてサクラを見詰める。
暗い表情で俯いていたサクラは、いのと目が合うなりぼろぼろと涙をこぼし始めた。
「いのぉーー」
「ちょ、ちょっと、どうしたのよー」
涙のサクラに抱きつかれ、いのはうろたえて訊ねる。
サクラの体は冷え切り、熱気のある会場から出てきたいのは氷の固まりに触れているような気持ちだった。

「あんた、カカシ先生と会うって言ってたじゃないの」
その瞬間、サクラの泣き声がピタリと止まる。
「・・・・た」
「えっ!?」
くぐもった声を出すサクラに、いのは聞き返す。
いのから身を引くと、サクラは大きな声で繰り返した。

「カカシ先生に、ふられた!」

 

 

「今夜は徹底的に飲んでやるー!!」
「いや、それノンアルコールなんだけど」
「そんなのどっちだっていいのよ!!」
カカシにふられた腹いせか、サクラはテーブルにあるものを手当たり次第に口に入れ、シャンパンをがぶ飲みしている。

「それより、カカシ先生にふられたって何があったのよ」
「カカシ先生の話はしないで!」
「だって、事情を聞かないと何もアドバイスできないでしょ」
怒りの形相のサクラに負けじと、いのは言い返す。
言葉に詰まったサクラは、フォークを片手に持ったまま唇を噛みしめた。

「・・・待ち合わせの場所に来なかったのよ、先生。時間になっても」
「あの先生の遅刻なんて、珍しくもないじゃない」
なんだ、というように肩の力を抜いたいのを、サクラは睨み付ける。
「だからって、私は3時間も待ったのよ!幸せそうな恋人達が通り過ぎる中、どんなに寂しい思いをしたか。3時間も同じ場所に立ってるから、近くの店の人からは同情的な目で見られるし。こんな屈辱ってないわよ!!!」
話している間に怒りがこみ上げたのか、サクラは声を張り上げる。

「ちょ、ちょっと落ち着いて」
いのは会場の人目を気にしてサクラをなだめようと必死だ。
ひとしきりわめいたあと、サクラは再び食べることに没頭し始めた。
泣かれるよりはましかと思いながらも、いのは不可解な出来事に首を傾げる。
いのには、どちらかというとカカシの方がサクラに熱を上げているように見えたのだが、気のせいだったのだろうか。

 

 

 

それからサクラはカカシと連絡を取ることもなく、年は明けてしまった。
新年になり、任務に向かうサクラの足取りはこれまでになく重い。
カカシと顔を合わせることは苦痛だったが、仕事だから仕方がなかった。
せめて、カカシの前でも普通の顔で通そうと決意したサクラだったが、その思いは集合場所につくなり、もろくも崩れることになる。

 

「おはよう」
「・・・おはようございます」
サクラは何とか無表情を装いカカシに挨拶を返す。

どういった心境の変化か、カカシは集合場所に一分たりとも遅れずに来ていた。
悪いことに、ナルトとサスケはまだ姿を見せていない。
早朝の橋の袂は人気がなく、並んで立つ二人は気まずいことこの上なかった。

早くナルト達が現れることを願いながら、サクラが横目で様子を窺うと、カカシはむっつりとした顔で前方を見詰めていた。
何か、怒っているようにも見える。
不安に思ったサクラだが、何故自分が気を遣わなければならないのかと、段々と不機嫌の度合いが増していく。
サクラは、何も悪いことをした覚えがないのだ。

 

「・・・・どうして来なかったのよ」
サクラはカカシを見上げ、怒りを押し殺した声で訊ねた。
瞬間、カカシは弾かれたようにサクラを振り返る。
「え?」
「クリスマスの夜よ!私、3時間待ったんだからね!!!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているカカシに、サクラは厳しい口調で言う。
元はといえば、カカシがクリスマスに会おうと言いだしたのだ。
忘れたとは言わせない。

「・・・俺、あの場所で5時間待ったんだけど」
カカシの返答に、今度はサクラが驚く番だった。
「嘘よ!だって、餃子の銅像の前でしょ」
「そうだよ。手前にケーキ屋さんがあるところ」
「・・・・」
二人は腕を組み、首を傾げる。
互いに嘘を言っているようには見えず、待ち合わせ場所に間違いはない。
ということは。

 

「・・・・サクラ、何日に待ってた?」
「24日」
サクラの即答に、カカシは思わずその場に座り込んだ。
「先生?」
「俺、25日に待ってたんだ」
屈んで目線を会わせたサクラに、カカシは気落ちした声で告げる。

「だって先生、クリスマスの日って言ったじゃない!」
「24日はイブだろ!クリスマスっていったら25日だ」
怒鳴り合った二人だが、睨み合いはそう長くは続かない。
腕を引かれたサクラは、そのままカカシの腕の中に飛び込む形となった。

 

 

「嫌われてたんじゃなくて、良かった」

その呟きを耳にして、サクラはこみ上げる涙を何とかこらえる。
カカシの言葉は、サクラの心情を代弁したもののように聞こえた。

「・・・クリスマス、やり直そうか」
「カカシ先生がパステルのケーキとプリン買ってくれるんだったら、いいわよ」
仲直りのための提案に、サクラはすぐさま反応する。
カカシはサクラを抱く手に力を込めると、笑顔と共に答えた。
「了解」


あとがき??
クリスマスにそれらしいもの書かなかったので、こんな感じ。
タイトルは大江千里ね。
パステルはプリンが美味しい店。
餃子の銅像は宇都宮にあります。さすが、餃子の町!


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