未来の世界


木ノ葉隠れの里で一番当たると評判の占い師、人呼んで"木ノ葉の母"。
その分料金も割高なのだが、休日の午後とあってその日も占い館は若い娘達が集まり、大盛況だった。

 

「結婚は、できるよ」
「本当ですか!!」
「ああ。子供も生まれて幸せそうだね」

十年後の未来を占ってもらっている最中のサクラは、座席から身を乗り出して"木ノ葉の母"を見詰める。
2時間行列に並んで、サクラはようやく"木ノ葉の母"のいる部屋へたどり着いた。
エキゾチックな衣装に身を包み、顔をベールで隠した彼女は何やら神秘的な雰囲気を漂わせている。
水晶玉を見詰めて呟く声は、若いのか年を取っているのか、全く分からない。
望み通りの託宣を聞いたサクラは天にも昇る気持ちになったが、それは一瞬のことだった。

「でも、相手はその人じゃないよ」

 

「・・・・・エ゛」
我に返ったサクラは、手元の写真へと視線を移す。
そこにはサクラの想い人であるサスケが写っているのだが、"木ノ葉の母"の言葉を理解するのと同時に、サクラは手前にあるテーブルを強く叩いた。

「そんなはずないわ!サスケくんと一緒になれないのに、幸せなんてありえない!!」
「でも、水晶玉は嘘をつかないからね」
「嘘よ、イカサマよ!この、インチキ占い師!!」
まくし立てるサクラに、"木ノ葉の母"もさすがに気分を害したようだ。
ベールの隙間から覗く鋭い瞳に、サクラは怖じ気づく。

 

「そんなに言うなら、あんたの目で確かめてくればいいさ」

冷たい口調で言うと、"木ノ葉の母"は何やら呪文めいた言葉を呟き始める。
"木ノ葉の母"が指を鳴らすのと、サクラの意識が遠のいたのは、全く同時だった。

 

 

 

次に目を開けたとき、サクラは雑踏の中にいた。
立ちつくすサクラを、通り過ぎる人々が怪訝な顔で振り返る。
軽い眩暈を覚えたサクラは、額に手を当てながら周囲を見回した。

見上げる位置に火影岩があることから、ここが木ノ葉隠れの里のメインストリートだと分かる。
立ち並ぶ店も、見覚えのあるものから、知らないものまで、同じようなにぎわいを見せていた。
そして、小さな店舗だったはずの『一楽』が三倍ほどの大きさになっていることに、サクラは目を見張る。

 

「まさか、ここって・・・」
「ママーー!!!」
呆然としたサクラの声は、背後から体当たりしてきた子供に遮られた。
前方につんのめったサクラは、振り返るなり、愕然とする。
そこに、自分がいた。
正確には、アルバムの写真で見た幼き日の自分そのままの姿の少女が、サクラを見上げている。

「ママ」
3、4歳と思われる少女は、サクラと目が合うと嬉しそうに繰り返した。
その舌足らずの声を耳にした瞬間、サクラはハッとして周りの様子を窺う。
思い切り、目立っていた。
自分達を見てひそひそ話をしている主婦達が、何を言っているのか想像するだに恐ろしい。
常識で考えれば12のサクラが母親であるはずがないが、少女はサクラ自身が他人とは思えない面差しだ。
ひしと抱きつく少女も、サクラから離れる気配はない。

 

「空飛ぶ円盤!!!」

大声と共に指差され、その場にいた全員が、反射的に頭上を見上げる。
同時に猛ダッシュしたサクラの姿は、数秒後には跡形もなくなっていた。

 

 

 

「ここ、未来の世界?」

近くの建物の陰に隠れたサクラは、高鳴る胸を押さえつつ呟く。
にわかに信じがたいことだが、それならば、町の様子がいつもと微妙に違うのも納得できる。
"木ノ葉の母"が「自分の目で確かめて来い」と言ったのは、こういうことだったのか。

「・・・ということは」
サクラは先ほどまで自分がいた道を、盗み見る。
同じ場所で佇んでいる幼い少女が、不安げな眼差しで首を動かしている。
いなくなった母親を捜しているのだろう。
今にも泣き出しそうな少女の顔を見たとき、サクラは何故か強い罪悪感を覚えた。

 

「小桜!」
サクラの眼前を横切った女性が呼び掛けると、少女は弾かれたように振り返る。
「ママ!!」
駆け出した少女を、彼女はしっかりと抱え込んだ。
「椅子に座って待ってなさいって言ったでしょ」
「ごめんなさい・・・」

叱られた少女はしゅんとした顔で肩を落としていたが、それでも右手は女性の服の裾を握っている。
おそらく、彼女が本物の少女の母親だ。
癖のない薄紅色の髪を長く伸ばした、淡い緑の瞳の女性。

根拠はない。
だがサクラは一目見て、彼女は未来の自分だと確信することができた。

 

 

 

手を繋いで歩く二人の後を尾行したサクラは、彼女達が家に入るのを見届けた。
木ノ葉隠れの里ではごく標準的な一軒家。
手に持っていた買い物袋の食材の量を見る限り、サクラは旦那が在宅しているとみた。

サクラは庭に周り、窓から中の様子を窺うことにする。
全ては気配を消しての、慎重な作業だ。
今は引退しているようだが、未来のサクラは元忍者であり、旦那も忍びの仕事をしている可能性が高い。
未来の自分と直に顔を合わせたら、何が大変なことが起こる予感がした。

 

にぎやかな声のする二階の窓へと、サクラは屋根づたいに進む。
部屋の中を見ると、そこには子供を中心にしてくつろぐ家族のだんらんがあった。
サクラの位置からは、穏やかに笑う自分の姿と、その視線の先にいる子供の後ろ姿しか見えない。
幼子を見詰めて微笑む未来の自分は本当に幸せそうで、見ているサクラの顔も自然と綻んだ。

"木ノ葉の母"の言葉は、確かに当たっていた。
サクラは結婚して幸せな家庭を築いている。
だけれど、旦那がサスケではないということは、まだ納得できない。

 

サクラが少しでも旦那の顔が見えないものかとしつこく覗いていると、手を付いていた窓が唐突に開かれた。
あっという間もない。
驚いて身を引いたサクラは、そのまま落下する以外の術はなかった。

 

 

 

 

木ノ葉書店から出てきたカカシは、書店の紙袋を片手に鼻歌交じりに歩いていた。
今日はカカシの愛読書であるイチャパラシリーズの最新刊の発売日。
家路を歩くカカシの足取りも軽くなろうというものだ。

路地を曲がり、いよいよ住処が見えるというときに、カカシは見知った後ろ姿を発見した。
心なし、足を引きずっているように見える、薄紅色の髪。

「サクラ」
呼び掛けると、サクラはちらりと後ろを振り返っただけで立ち止まることはなかった。
まるきり無視だ。
首を傾げたカカシは、サクラが足を引きずる原因に気付く。
臑の擦り傷に加え、サクラのサンダルは血に染まっている。

 

「お前、それ足の爪割れてるんじゃないか?」
「・・・・」
走り寄ったカカシが訊ねても、サクラは無言で通す。
腹の虫の居所が相当悪いのだと分かったが、カカシはサクラの数歩前に行って止まると、その場でしゃがみ込んだ。

「・・・・何してるの」
「見れば分かるだろ」
「・・・・」
「俺は早く家に帰ってイチャパラの最新刊を読みたいんだ。早くしろ」
せっつくように言われ、サクラは渋々というようにカカシの背中に負ぶさる。
サクラの家はここからかなり距離があり、カカシは自宅を目前にしていながら、Uターンすることとなった。
それ自体は構わないのだが、気になるのはサクラの怪我の原因だ。

 

「どうしたんだ、その怪我」
「二階から落ちたのよ」
一度言葉を切ると、サクラはふてくされた声で続ける。
「・・・カカシ先生のせいなんだから」
「はぁ?」
怪訝な声を出したカカシに、サクラは後ろからぎゅうっと抱きつく。
「責任取ってよね!」

 

 

 

 

(おまけ)

「・・・・・なぁ、今、ここにサクラがもう一人いなかったか?」
「いたわねぇ」
動揺しきっているカカシに、サクラはのんびりとした口調で答える。
「12の頃、私、十年後の未来に行ったことがあるのよ。今のが、そうじゃないかしら」
「・・・へぇ」
カカシは、サクラが落ちたはずの階下を眺め続けている。

人の気配を感じたカカシが窓を開けると、屋根の上にいたサクラは助ける暇もなく落ちていった。
地面に付く寸前で姿を消したのは、過去に戻ったということだろうか。

 

「あのとき、私サスケくんしか見えてなかったから、将来の旦那様がカカシ先生だって知ったらショックで死んじゃうかもね」
「・・・・」
あんまりといえばあんまりな言葉に、カカシはサクラを半眼で睨み付ける。
「パパ、怖いー」
雰囲気を察した小桜は、慌ててサクラのいる方へと避難してくる。

「・・・それで、サスケくんを大好きだったサクラは、何で俺を選んでくれたの」
「何となく」
小悪魔な笑みと共に即答したサクラに、カカシは黙り込んだ。
サクラに背を向けて座ったカカシは、あからさまにすねている。
くすくす笑いをしたサクラは、両脇に手を添えて持ち上げた小桜を、カカシの背中に乗せた。

 

「カカシ先生の背中が広くてあったかかったから、かなぁ」

 


あとがき??
めちゃくちゃお待たせして、申し訳ございませんでしたー!!(>_<)
パソコンが壊れていて、アップできなかったのです。いや、完成したのも最近なのですが。(汗)

・タイムスリップでサクラが未来に
・まだカカシ先生を好きでないサクラ
・カカサク

と、いうのがお題でした。クリアしてますでしょうか。
何か、カカシ一家が幸せなので、書いている私も幸せ一杯ハッピーでした。有難う、有難う。
脚の爪が割れておんぶは『無限の住人』が元ネタで、"木ノ葉の母"は"新宿の母"。他はよく分かりません。
サクラが過去に行く話もあるけど、そっちはナルサク。痛い系。
私がナルサク(シリアス)書くと可哀相な話になるので困ります。

58000HIT、七様、有難うございました。


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