チョコ・ラブ


「一生大事に取っておくってばよ!」
瞳を輝かせて大袈裟なことを言うナルトに、私は苦笑いをする。
「早く食べた方が良いわよ」

ナルトにあげたのは、安物のチョコ。
サスケくんの家を行った帰りに、ナルトの家にも立ち寄った。
曲がりなりにも、同じ班で活動する身。
義理とはいえ、バレンタインにチョコをあげるのは当然だ。
サスケくんの家は女子でごった返していたけれど、なかなかどうして、ナルトも捨てたものではなかった。

 

「それ、誰からもらったのよ」
「ああ、これ」
ナルトは玄関口にある靴箱の上を見遣る。
可愛らしくラッピングされた箱が無造作に置かれていた。
「さっき、ヒナタが来て置いていったってばよ」
「ふーん」
「あいつ、変な奴だと思ったけど、良い奴みたいだよ」
「・・・」

引っ込み思案なヒナタの性格から、ナルトの家にチョコを渡しに来るだけでひどく勇気のいることだったろうに、ナルトはそのところを全く分かっていない。
ナルトらしいといえば、ナルトらしいか。

「ちゃんと御礼するのよ」
「うーん・・・」
ナルトは唸り声と共に答える。
今までチョコなどもらったことがないナルトは、御礼の品といってもすぐに浮かばないのかもしれない。

 

 

 

チョコを渡すべき最後の人物には、家に行くまでもなく、ナルトの家を出てすぐの道でばったりと出会った。

「お、サクラ。ちょうど良かった」

カカシ先生は私の顔を見るなりにこにこと笑った。
その両手には、大きなの紙袋を抱えている。
中身は、全てチョコだ。

 

・・・・嫌な感じ。

カカシ先生が女性にもてるということは噂で聞いていたけれど、ここまでとは思わなかった。
もしかしたら、サスケくんよりも多いかもしれない。
有名ブランドの包み紙の前では、自分のチョコが急に貧相なものに思えてくる。

「これ、家に運ぶの手伝ってくれないか」

カカシ先生は気安い感じで話しかけてきたのに、私は先生に笑顔を返すことが出来なかった。

 

 

 

 

自分に兄がいたとする。
そして、兄がもてもてで、女の子にちやほやされてたとする。
きっと、自分は嫌な感じになる。

今、自分の中にあるもやもやとした気持ちは、そうしたものと一緒だ。
そう考えると、少しは気分が楽になってきた。

あれから、カカシ先生に適当な返事をして、家に帰ってきてしまった。
チョコを渡さないまま。
どっちにしろ、あれだけもらっていれば自分のものは必要ない。
すっきりとしない気持ちを抱えたまま、私は自分の部屋で考え込んでいた。
チョコを手に殺到する女子に囲まれたサスケくんを見たときは、負けるものかと思えたのに、それがカカシ先生だと急に気分がへこんでしまった。

 

「変なの」
「何が?」

一人のはずの部屋に、第三者の声。
私は思わず「キャー」と、叫び声をあげていた。
「・・・サクラ、声でかい」
耳に栓をしながらしかめっ面をしているのは、カカシ先生だ。

「ど、どうやってここに」
「窓から」
「不法侵入でしょ!」
「だって、窓叩いてもサクラ無反応だったんだもん」
「・・・・」

私は無言のままに開けっ放しの窓を閉めた。

「それで、何の用ですか」
「これ、サクラにあげようと思って」
カカシ先生が差し出したのは、ラッピングされたチョコ。
「サクラ、何だか元気なかったから」

 

私は穴が空くほどカカシ先生を見詰める。

「・・・カカシ先生がもらったやつ?」
「いいや、俺が買ったの。お菓子売り場に行ったら、チョコレートしか売ってないんだよ。しょうがないからそれ買ってきた」
「・・・・・」
「道歩いていても全然知らない人がチョコレートくれるしさ。俺に敵意があるようじゃなかったから、一応受け取ったけど。今日はチョコレートの記念日か何かなの?」
カカシ先生はしごく真面目な調子で訊ねてきた。

「・・・先生、チョコレート買うとき、店員さん、どんな顔してた?」
「怪訝な表情だった、かなぁ。そういえば、レジに並んでるのも女の子ばっかりだった」
不思議そうなカカシ先生の顔を見るなり、私はこらえきれずに吹き出していた。
この時期に男がチョコレートを買うなど、相当もてないと思われたことだろう。

 

「サクラ、元気になったねぇ」
何も知らず、嬉しそうに微笑するカカシ先生を横目に、私の笑いはなかなかおさまってくれなかった。


あとがき??
うちのカカシ先生はにぶい上に、世情のことをよく知りません。
幼いときから忍びの世界で活躍していたので。
好きな人にチョコレートをあげる日だと知らなかったようです。
忍術絡みなら何でも詳しいのですが。
しかし、サクラ(子供)の元気がないときはお菓子を与えるっていう発想は、単純で可愛いと思います。
タイトルが某マンキンキャラを彷彿とさせるということは言わないでおいて。


駄文に戻る