笑顔の元気


気が付いたら、病院のベッドの上だった。

白い天井に白い壁、白いシーツ。
枕辺に置かれた花瓶の花だけが、この部屋の色彩だ。
手を上げると、腕全体を隠すように包帯が巻かれている。
だけれど、少しも痛くない。
麻酔が効いているのか、感覚が鈍ってしまったのか。

考えることも億劫で、再び目を閉じる。
たぶん、今眠れば、見るのは死んだ仲間の夢だ。
何度立ち会ったか分からない、仲間の死。
怪我が完治し、仕事に復帰すれば、いなくなった仲間のポジションに新たな忍びが配置されている。
誰も、死んだ仲間のことは話題にしない。
それで、終わり。

何事もなかったように日々は過ぎていく。
そうして、繰り返される毎日。

 

 

 

「サークラ」
明るい声音に振り返ると、そこにはカカシ先生が立っていた。
半身を起こそうとすると、カカシ先生は慌ててそれを制した。

「寝てていいよ。サクラ、重症で面会謝絶になってるから」
「・・・・じゃあ、カカシ先生はどうしてここにいるのよ」
「俺が札を取ったから」
罪悪感のない笑顔でカカシ先生は『面会謝絶』と書かれたプレートを見せた。
「サクラ退屈してるんじゃないかと思ってね。お見舞いもちゃんと持ってきたよ」

てくてくとベッドに歩み寄ると、カカシ先生は傍らの椅子に座って、何かの包みを掲げた。
「これ、サクラに」
「・・・何?」
「それは見てのお楽しみなんだけどー、サクラは寝てなきゃ駄目だから、俺が開けるね」
私が何かを言う前に、カカシ先生は水玉模様のラッピングをはがし始める。

 

中味は、キラキラとしたガラス球が沢山付いた宝石箱。
小さなもので、掌に乗るサイズだ。

「可愛い」
私は一目見て、それを気に入った。
「だろー。俺の手作りなんだよ」
「えっ!!」
思いがけない言葉に、私はつい大きめの声を出してしまう。
おかげで、次の瞬間にはむせ返ってしまった。

「おいおい、大丈夫か」
「へ、平気」
心配そうなカカシ先生に、私は口元に手を当てたままなんとか返事をする。
「全く、驚くのはまだ早いんだって」
何のことかと思う間もなく、カカシ先生はその箱を開けた。
とたんに部屋に響いた、軽快なメロディー。 

 

カカシ先生が作ったというオルゴールは、聞いたことのない曲を奏でた。
テンポが早くなったり、遅くなったり、たまに音が外れたり。
名曲とは思えないけれど、不思議と楽しい気分になる。

「何て曲?」
箱を見つめて訊ねた私に、カカシ先生はにっこりと微笑む。
「“サクラが元気になる曲”っていうんだよ」
「・・・・」
「いいでしょ」
唖然とした私を、カカシ先生は面白そうに見ていた。

「も、もしかして、先生のオリジナルなの?」
「そー」
屈託なく笑うカカシ先生につられて、私も笑ってしまった。
「変なタイトルー」

思えば、こんな風に笑うことは久々な気がする。
だけれど、それは長いこと続かなかった。
両手で面を隠した私に、カカシ先生の顔からも笑顔が消える。
恥ずかしくて仕方がなかったけれど、一度こぼれてしまった涙はなかなか退いていかなかった。

 

 

「仕事、辛い?」
真摯な声の問い掛けに、私は出来うる限り首を横に振る。
「仕事が辛くたって、泣いたりしないわよ。涙が出たのは・・・・」

私の声は、そこで途切れた。
上手く、言葉が続かない。
カカシ先生の前で泣いてしまったことに、思った以上に動揺している。

「思い出すの。死んだ人たちのこと」
混乱する頭で、私は断片的な言葉を繋ぐ。
「新しい人が来ても、他の皆みたいにすぐ気持ちを切り替えられないの。どうしても、忘れることができなくて・・・。私、忍者失格だわ」
再び涙が出そうになると、カカシ先生は私の頭に手を置いた。
私を、励ますように。

「別に、無理に忘れたりとか、しなくていいんじゃないの」
見上げると、優しく微笑むカカシ先生の顔があった。
「サクラにとって大事な記憶でしょ。泣いてもいいから、時々思い出せば、彼らも喜ぶと思うよ」

 

「・・・カカシ先生は、やっぱり凄いね」
私は感慨深く呟く。
カカシ先生は、時々やってきては、私の中にある嫌なものを全部取り払ってくれる。
そして、大きくてあったかな手に、とても安心する。
カカシ先生が大丈夫と言ってくれたら、怖いものなんてなくなってしまう気がした。

「カカシ先生といると、何だか元気になるわ」
「そう?俺はサクラが笑っていると凄く元気出ちゃうよ」
明るく言うと、カカシ先生は私の頭をもう一度軽く叩いた。

 

“サクラが元気になる曲”。
どう表現したらいいか分からない、でも心惹かれる旋律はカカシ先生によく似ていると思った。


あとがき??
辛かったからじゃない。
優しかったから涙が出たのです。

元ネタは『キャンディ・キャンディ』。
キャスティングは、ステアがカカシ先生で、キャンディがサクラか。
リクエストは「大人で優しいカカシ先生にメロメロのサクラちゃん」だったのですが・・・・違う!!?
必要以上に暗くて、すみません。(=_=;)

66666HIT、こさり様、有難うございました。


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