クローバー


暗部にいたときの仲間だった。
任務の性質上、暗部に所属する人間は滅多に表の街道をふらふらと歩いたりしない。
だから、街中で彼の姿を垣間見たときは、本当に驚いた。
話を聞くと、負傷したために、暫く隊列を離れたらしい。

そうして、彼は聞きたくない話も少しばかり喋った。
俺が隊を離れた間に、死んだ仲間の名前。
一人や二人ではない。
名前を聞くだけで、彼らの姿が、鮮烈によみがえる。
火影にナルト達のお守りを任されなければ、死んでいたのは自分だったかもしれない。

別れ際、彼が俺に向けた眼差しは、少しだけ羨望が含まれていた。
彼は三日後には、再び隊に合流するらしい。

 

気持ちが、暗いところに落ち込んでいた。

俺はこうして、平和に過ごしていて、いいのだろうか。
昔の仲間が、必死に戦っているというのに。
自分だけが。
死とは、遠い場所にいて。

 

 

「カカシ先生」

呼ばれてから、初めてその気配に気づいた。
考え事をしながら歩いていたせいか。
振り返ると、すぐ後ろにサクラが立っていた。
綺麗好きのサクラらしくなく、手足に泥がついている。

「あげる」

サクラは俺に向かって、ずいと手を差し出した。
開かれた手のひらには、クローバー。
珍しい、四つ葉。
それは、幸福のお守りと言われている。

「これ探してたから、泥んこなのか」
「うん。いの達と一緒に河原にいたんだけど、私はひとつしか見つけられなかったの」
「でも、俺がもらったら、サクラのがなくなるだろ」

それならば、泥だらけになった意味がない。
不思議に思っていると、サクラは俺を見上げて、にこっと笑った。

「カカシ先生に幸せになってもらいたいから、あげる」

 

 

サクラの笑顔を見て、ようやく、足が地に付いた気がした。
暗い影は、はるか遠くへ、いってしまっている。

 

「葉っぱが4枚。7班の人数と一緒だね」
サクラは、自分の手のひらにクローバーを握らせた。
「ずっと、みんな一緒にいられたらいいね」

触れた先からサクラの手のぬくもりが伝わってくる。
サクラが7班を、そして自分のことを、とても大切に思っていることが分かった。
泥だらけの小さな手がいとおしくて。

涙が出るかと思った。

 

今の自分の居場所は、7班にある。
あの、暗い場所ではない。
サクラ達に会えただけでもう十分に幸せなのだと言ったら、サクラはまた笑ってくれるだろうか。


あとがき??

願うのは いつだって。
あなたの幸せ。


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