君去リシアト


木ノ葉隠れの里に鎮魂の鐘がしめやかに鳴り響く。

喪服を着た人間の数は10や20ではない。
葬儀にこれほどの人が集まるのは、三代目火影以来だ。
それだけで、故人の人となりが分かろうというもの。

今日、慰霊碑には新たな英雄の名が刻まれた。
『はたけカカシ』、という名前が。

鈍色の空が、泣いているようだった。

 

 

「サクラ」
参列者の中に喪服姿のサクラを見つけ、いのは駆け寄った。
恋人の死に、サクラがどれほど心を痛めているか。
いのは、考えるだけで胸が苦しくなる。

「あの・・・」
何を言ったらいいか分からず、口篭るいのに、サクラはうっすらと微笑む。
「私、もう行くけど。いのは?」
「え、うん。私もすぐ帰るわよ」
「そう」

頷いたサクラは、そのまま踵を返す。
それは、いつもと何ら変わらないサクラだった。
あまりにあっさりとしたサクラの態度に、いのは安堵するよりも、薄ら寒さを感じる。

涙のあとのない、サクラの顔。
むしろ、清々しいほどの笑みを浮かべていた。

 

  

焼香を済ませたいのが追いかけると、さほど時間は経っていないのに、サクラの姿はかなり遠い場所にあった。
後ろ姿が随分と頼りなく、儚げに見える。
精神的に参っているせいだろうか。
人通りのない道だからすぐに分かったが、雑踏に混じったなら、絶対に見つけることはできない。

「サクラ」
呼びかけると、サクラは立ち止まって振り返る。
その顔には、やはり笑顔。
「有難うね、いの」
歩み寄るいのに、サクラは唐突に言った。

「何が?」
「いろいろと」
言いながら、サクラは再び歩き始める。
いのには質問をする間も与えなかった。

 

 

「カカシ先生、凄く優しい人だった。私がどんな我が侭言ってもね、最後には絶対きいてくれるのよ」
サクラは独り言のように話し続ける。
「私、カカシ先生と約束したの。ずっとずっと一緒にいようって」
「・・・・」
どう相槌を打ったらいいか困る内容の話に、いのは無言の返事をする。
元気づける方法が見つからない今、友達として、話を聞くくらいのことしかできない。

ふいに立ち止まったサクラに釣られ、いのも足を止めた。
そうして顔を上げた先に、いのは信じられないものを見る。

「嘘・・・・」
絶句したいのは口を大きく開けたまま身動きできなくなった。

 

二人の歩む道の先に、カカシがいた。
いつもの上忍の制服姿で。
澄んだ瞳を、真っ直ぐにサクラへ向けている。
手を差し出したカカシに、サクラはためらうことなく駆け寄った。

「いつも結局きいてくれるの」

カカシに抱きしめられたサクラは、幸せそうに微笑む。
サクラの表情に暗い蔭がなかった理由を、いのは理解する。
分かっていたからだ。
最後に、彼が迎えに来てくれるのを。

 

「サクラ!」
いのは震える体を何とか抑え、大きく声を出す。
「生きてれば、楽しいは沢山あるわ。私、できることは何でもするから、だから、行かないでよ!!」
必死に訴えるいのの目には、涙が溢れ出していた。

サクラはアカデミー時代からの親友。
掛け替えのない、友達だ。
ケンカも沢山したが、心から信頼できるのは、サクラ以外にはいない。
サクラを失いたくないのに、足はどうしてか動かなかった。

 

姿をが消える寸前に、サクラはいのに向かって、何か呟いた気がした。

 

 

 

「いの!」
思い足取りで家にたどり着くと、そこにはナルトがいた。
「・・・ナルト」
ガーデニングが趣味のナルトは花屋のいのの家によく来ていたが、今日はそういった内容ではないだろう。
ナルトもいの同様、喪服姿だ。

「さっき、うちに電話で連絡が入って・・・・・」
そのまま、ナルトは言葉を詰まらせた。
袖口で目元を拭うナルトに、いのは心配げに声をかける。
「どうしたの?」
「・・・サクラちゃんが、死んだって」

 

 

 

死因は不明。
朝、母親が起こしにきたときには、すでに冷たくなっていた。
サクラはベッドの上で、眠るように息を引き取った。

いのとナルトがサクラの家へ駆けつけると、サクラの体は清められ、棺に収まっていた。
苦痛の表情は全くなく、その顔には笑みすら浮かんでいる。
あまりに突然のことに、ナルトは信じられずにその場に座り込んだ。

「・・・カカシ先生が、連れて行っちゃったのよ」
ぽつりと漏らしたいのに、ナルトは怪訝な顔をする。
「私のところには、最後の挨拶に来てくれたみたい。サクラ、「ごめん」って言ってたわよ」


あとがき??
何か、思っていたのと全然違う話に・・・。
元ネタは河村恵利先生の『清水鏡』。


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