可能な世界


桜の花が咲く季節。
可愛い部下の下忍達を誘って、花見に出かけた。
協調性のないサスケは当然のように行くことを拒んだけれど、新たな術を教えることを条件に無理に承知させた。
俺の望むものを見るために、サスケは必要不可欠だったから。

 

 

「綺麗、綺麗、綺麗!!」

満開の桜を前に、サクラは歓喜の声をあげる。
また、桜の花はそれも納得の見事さだった。
桜の木が千本近く立ち並んでいるこの場所は、古戦場跡だ。
その昔、千単位の武士や忍びがここで死んだ。
それが今では、人々の目を楽しませる桜が咲き誇る観光地となっていることが、なんとも皮肉に映った。

桜の花が綺麗であればあるほど。
木々が糧にしているものの正体を、何人の人間が知っているだろう。

 

「先生、何してるのよ」

ふいに腕を引かれ、思った以上にびくついてしまった。
乱暴に振り払われた手に、サクラは目を見開いている。
その瞳に涙がにじむ前にと、慌てて取り繕う。

「ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ」

いつものように頭に手を置くと、サクラは僅かに頬を緩ませる。
それでも、怯えの残る曖昧な顔。
何となく、こっちの方が悲しい気持ちになる。

 

「サクラ」

後ろから呼ぶその声に、サクラは弾かれたように振り向いた。
次の瞬間には、サクラは俺のことなどすっかり頭から消し去って駆け出す。
サクラの心を占めている彼に比べれば、俺なんて本当にちっぽけな存在だから。

彼に向けられるサクラの笑顔。
それは、自分の前で見せる笑顔とは、全く異なっている。
綺麗な綺麗な。
春の日差しの中、蕾を綻ばせる桜の花にも似た。

知らずに、羨望の眼差しを彼らに向けていたのだろうか。

 

 

「引き止めないで、いいの?」

訊ねたのは金色の髪の少年。
いつもと全く違う、大人びた顔を見せる。
こっちが、たぶん本当の彼。

「大事なものが手に入るなんて、考えたことないよ」
声には、自然と笑いが含まれていた。
自嘲気味な。
「負けると分かっている勝負をするなんて、馬鹿だ」

 

俺は大人だから。
引き際はわきまえている。

サクラの喜ぶ顔が見たくて、皆をこの場所へ連れてきた。
サスケのことを好きだと言って笑う彼女を、好きだと思う。
手に入らないのならせめて、彼女が笑顔でいられる世界を守ってあげたい。

 

 

「でも、望まなきゃ何も手に出来ないよ」

振り返ると、ナルトは手のひらを上にかざしていた。
降り積もるのは、桜の花びら。
風に揺れる枝は、沢山の花びらを散らしている。
そのひとつひとつが、ナルトの手の内へうまく収まっていた。

ナルトが手を広げなければ、落下するしかない花。
小さな運命を、ナルトは変えようとしている。

「俺はもう、諦めることはやめたんだ」

手の上にあった目線を、ナルトは自分へと向ける。
ゆるぎない眼差しは、これ以上ない力強さで。
理由を付けて、最初から勝負を投げ出している自分を批難しているようにも見えた。

 

馬鹿なのは、俺。
大人なのは。
分かっていたのは、ナルトの方だった。

 

 

 

「サクラちゃん」

ナルトは二人が何やら談笑している場所へと走り出す。
無謀だけれど、可能性はゼロではない。
また、それは自分にも同じこと。
ナルトのように、追っかけまわすのもいいかもしれない。

 

とりあえず、サクラの好きな“白玉あんみつ”を食べに、誘ってみようか。


あとがき??
うちのナルトくんは、結構子供を演じていることが多い。
ナルト=天使様だと思っておいてください。
ナルトが掴まえた桜の花びらはサクラを象徴してます。


駄文に戻る