メッセージ T


「カカシ先生、シロが死んじゃったの」
カカシの家に現れたサクラは、猫の遺体を抱えて泣きながら言った。
サクラがシロという名の飼い猫を度を越して可愛がっていたことはカカシも知っていた。
「埋めてやろうな」
頭をなでて優しく言うカカシに、サクラは涙をためた瞳で頷いた。

何の前触れもなく、ふらりと倒れてそのまま息を引き取ったシロ。
死因が何だったのか、サクラには分からないし、遺体解剖をしてまで知りたいとは思わない。
そのシロの体を、カカシとサクラは桜の木の根元に埋めた。

 

「生き物って、簡単に死んじゃうんだね」
今まで身近な人間の死に立ち会ったことがないのか、サクラはシロの埋まっている土の小山を見つめながら寂しげに呟いた。
どう答えていいか分からなかったカカシは、無言の返事を返す。
暗部にいた頃は、死はごく身近なものだった。
数々の死を見てきたカカシは、こうしてサクラに思われながら埋められたシロは幸せだと思った。

「カカシ先生、私が死んだら泣く?」
サクラが赤くなった目でカカシを仰ぎ見た。
「分からない」
カカシは正直な気持ちを言った。
涙など、物心ついてから流した記憶は一切ない。
他の人間にだったら、うわべだけの嘘などいくらでもつくが、カカシはサクラには嘘を言いたくはなかった。
そして、カカシの答えはサクラの望むものとは違ったようで、彼女は落胆して俯いた。

「でも、俺はサクラに死んで欲しくないよ」
カカシが前言を取り繕おうとしていると思ったのか、サクラは目を伏せたまま訊いた。
「じゃあ、カカシ先生、私が死んだら哀しい?」
死に関する質問を繰り返すサクラをカカシは訝しげに見る。
サクラの表情には何の感情も浮かんでいない。
「たぶんね」
「じゃあ、私、死なない」
カカシのそっけない返事に、サクラは真剣に言葉を返した。
カカシはこの時の会話を、あまり現実味のない、遠い未来の話のように思っていた。

 

だが、遠いと思っていた別れの日は突然やってきた。
7班以外の任務で、カカシが里を離れていた少しの間、サクラは流行り病にかかってあっけなく死んだ。
健康な人間の心臓が急に停止する、原因不明の奇病。
カカシが戻ってきた時にはすでに遺体は荼毘に付した後で、カカシはどうもサクラが死んだという実感がわかなかった。

骨壷を前にしても、まだ信じられない。
一人の人間がこの小さな物の中に収まることができるなんて、奇妙だ。
中を開けると、白い灰のような骨。
部分部分がまだ角張った原型をとどめている。

「サクラ」
呼びかけてみたが、当然返事は返ってこない。
どうしてそんなことをしたのか、後に考えてもわからなかったが、カカシはその灰を少し口に運んでみた。
ジャリジャリと音がして、砂をかむような感覚。
サクラの唇はやわらかくて、甘かったのに。

きっと自分はサクラがとても好きだったのだ。
カカシが漠然と思った瞬間、心を凄まじい虚無感が襲った。
今までどんな人間の死に立ち会っても、このような気持ちになったことはない。
多分これが哀しいということなのだろう。

 

でも、ごめんな。
やっぱり涙は出なかった。

カカシの謝罪の声に答えてくれる者は誰もいなかった。


あとがき??
この話って、ここで終わりでも別にいいような気がしてきた。
でも、それだと題名の意味が分からなくなってしまう。うーん。
Tを読んで、これは受け付けない、と思った人は次に進むのをやめましょう。
この作品は、とにかく変。書いてて変な感じ。


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