イヤナ人
「次の任務は超が付くほど難しいから、生きて帰って来れないかもしれない」
まるで他人事のように、カカシは軽い口調で言う。
その瞬間、サクラの足は止まったように思ったが、すぐに同じスピードで歩き出した。「へぇー。大変なのね」
サクラの返事は、感情が全くこもっておらず、そっけない。
後ろを歩くカカシを、見向きもしなかった。
「そんだけ?」
「そうね。カカシ先生、サインちょうだいよ、サイン。カカシ先生が死んだら、値打ち出るかも知れない」
傍らに来たカカシを横目に、サクラはペンと手帳を探してごそごそと手提げ鞄をさぐる。
だが、出てきたのは軽量サイズの使い捨てカメラ。
前日、友達の誕生日パーティーで行われたビンゴゲームで当てた景品だ。「・・・写真の方がいいかもね」
サクラは素早くカメラを構えると、カカシに向かってシャッターを切る。
「バイバーイ」
言いながら、サクラはカカシに向かって小さく手を振った。
いつになくつっけんどんな態度のサクラに、カカシは首を傾げる。
「あのさー、サクラ、一つ頼みがあるんだけど」
「・・・・なに」
「はなむけに、チューしてくれない?」
楽しそうに言うカカシに、サクラの足がぴたりと止まる。
「してくれないと、先生成仏できないかもしれないから」
振り向くサクラの顔は、限りなく笑顔。
満面の笑み。
手招きにつられて寄ってきたカカシの耳を、サクラは思い切り引っ張り、自分の顔の近くまで持ってきた。「せいぜい未練たっぷりにのたれ死にしなさいよ。バーーーーカ!!!」
生徒にあるまじき暴言を吐くと、サクラはくるりとカカシに背を向ける。
渋い顔で耳を抑えるカカシを無視して、サクラは前方を睨みながら歩き出した。
サクラの声がまた頭に響いていたが、カカシの口元には薄い笑みが浮かんでいる。
触れたサクラの指先は、微かに震えていた。
両手をポケットに押し入れたカカシは、サクラの背中に向かって声を張り上げる。「じゃあさー、帰ってきたらしてくれるーー?」
「・・・怪我しないで帰ってきたらね」不機嫌そうな声を返すサクラに、カカシはにこーっと笑う。
「サクラは優しいねぇ」
「・・・・カカシ先生は、意地悪だわ」
声は何とか震えずにすんだ。
だけれど、サクラの目元は少しだけ赤くなっていた。
あとがき??
あの、サクラ、めちゃくちゃ怒ってたんですが。分かります?
カカシ先生はもちろん死ぬつもりなんて毛頭無くて、サクラの反応を見たかっただけ。
サクラに泣いて「行かないでー」と言って欲しかったカカシ先生なんですが、そうは問屋が卸ろさない。
意地悪に意地悪を返したサクラちゃんでした。