恋と花火と観覧車


木ノ葉隠れの里の片隅にある、木ノ葉遊園地。
木ノ葉の忍者なら誰でも半額で入れる小さな遊園地だ。
最近は鼠のミッチーがマスコットとなっているネズミーランドに客を取られ、園内は閑散としていた。
だが、めいっぱい遊びたい子供にしてみれば、それは好都合だ。

 

「カカシ先生、もう一度乗るってばよ!」
「・・・・元気だねぇ」
ナルト達に付き合ってジェットコースターに7回連続で乗ったカカシは、元気良く走り回る下達に手を引かれ、頬を引きつらせる。
7班の親睦を深めるため、という名目でやってきた遊園地。
昼間はちらほらと人がいたのだが、夕方の今はすっかり7班の貸しきりだ。
朝から絶叫系の乗り物に乗り続けているカカシの顔には、すでに疲労の色が濃く出ている。

「お前達だけで乗ってきなよ」
言いながら、カカシは近くのベンチに座り込んだ。
完全にグロッキー状態のカカシに、さすがの下忍達も無理強いすることは憚られる。
カカシの隣りに座ったサクラは、カカシの顔を窺いながら、園内で一番高い古くからあるとされる乗り物を指差した。

「先生、あれなら大丈夫?」

 

 

4人が最後に乗ると決めたアトラクションは、木ノ葉隠れの里を一望できると評判の観覧車。
これに乗ったところで、体力的な負担はほとんど無い。
ゴンドラは乗ろうと思えば4人でも大丈夫だが、かなり窮屈だ。
妥当に二人ずつということになったが、組み合わせはなかなか決まらなかった。

 

「サクラちゃん、一緒に乗るってばよ」
「私はサスケくんと乗るのよ!」
「・・・・俺は乗りたくない」
乗り場の手前に来た下忍達は銘々好き勝手なことを言っている。
閉演時間まであと20分しかないのだが、このままだと1時間は言い争いは続くだろう。
見かねたカカシは、下忍達の肩を叩いて彼らの眼前で握り拳を作る。

「じゃあ、くじ引きな。先っぽに赤いしるしがついているのが二つあるから、それを引いた奴らが一緒に乗る」
いつの間に作ったのか、カカシの掌からは三つの細い棒が飛び出している。
最初にナルトが引いた傍には、赤いしるしがあった。
そして、次にサスケが引いたものにも、やはり同じ赤。

「はい、決まりー」
明るく笑うカカシとは対照的に、ナルトは思い切り頬を膨らませる。
「嫌だってばよ!!サスケなんかと!」
「俺だってなぁ・・・」
「はいはい。早く乗ってね」
カカシは騒がしいナルトとサスケを、放り投げるようにしてゴンドラに押し込む。

 

ナルトがガラス越しに何かわめいていたが、カカシは笑顔で二人に手を振った。
サクラはカカシの力技を遠巻きに眺め、忍び笑いをもらしている。
ゴンドラが再び地上に戻ってくるまでの10分間。
仲の悪いナルトとサスケがどんな会話をするのか、考えただけで面白い。

「じゃあ、うちらも乗る?」
「うん」
手を差し出したカカシに、サクラは嬉々とした顔で自分の掌を重ねた。

 

 

 

『ナルトとサスケの場合』

 

「大丈夫か?」
地上を離れてすぐ、無言になったサスケに、ナルトは心配そうに声をかける。
先ほどからサスケの顔は真っ青だった。
どう見ても、具合が悪そうだ。

「おい」
「触るな!!」
肩に触れようとしたナルトの手を乱暴に払うと、サスケは突然立ち上がった。
鬼気迫るその声に、ナルトは圧倒される。

今の今まで、本人ですら忘れていたが、サスケは閉ざされた所にいると異常な強迫感を感じる、閉所恐怖症だった。
幼い頃、いたずらをした罰として押入れに一晩閉じ込められた後遺症だ。
今、ゴンドラという閉鎖的な空間で、急に過去の事件が思い出されたらしい。

「降ろせーー!!!俺をここから出せーー!!」
「ぎゃーーーーー!!!暴れるなってばよーー!!!」
外側から閂をかけられた扉を開けようとしたことで、ゴンドラは大きく傾く。
サスケと違った意味で恐怖にかられたナルトが何とかサスケを止めようとするが、一心不乱な彼は聞く耳をもたなかった。
ゴンドラはすでに落ちたらシャレにならない高さまで上昇している。

 

「助けてくれーーー!!!」

涙目の二人は、図らずも、全く同じ言葉を口にしていた。

 

 

 

『カカシとサクラの場合』

 

「・・・・なんでこっち側に座るのよ」
「え?」
「ゴンドラが片方に傾くでしょ!普通は隣同士じゃなくて向かい合って座るのよ」
「大丈夫だよ。別に、落ちたりしないから」

にっこりと笑うカカシを横目に、サクラは口をつぐんだ。
狭い座席で、サクラは気を紛らわせるようにして下方を眺める。
遊園地で働く従業員の姿がみるみるうちに遠ざかり、豆粒大になっていく。

「先生、あのくじ、どれも赤いしるしがついてたでしょ」
「あ、ばれてた」
頭に手をやったカカシは、イタズラのばれた子供のように笑う。
「サクラ、知ってたのに何も言わなかったの?」

 

丁度、今が天辺あたりだろうか。
白い観覧車は青空に映えるだろうが、今は夕暮れ時。
全ての物が、オレンジ色に染まって見える。

「先生、ここね、日曜日は夜の9時までやってるのよ。8時に花火もあがるんだって」
「へぇ・・・」
「観覧車から見たら、花火ってどんな感じなのかしらね」
「真横から見たら、花火は平べったいらしいよ」
「それは嘘よ!」
振り向いたサクラは、弾かれたように笑う。

 

「日曜日、二人で来ようか」

笑顔の二人は、図らずも、全く同じ言葉を口にしていた。

 

 

 

「あれ、何してんの?」
ゴンドラを出てすぐ、地面に膝を突いて座るナルトとサスケに、サクラ達は首を傾げる。

「・・・・俺、もう二度と観覧車に乗らないってばよ」
「俺もだ」
憔悴しきった声で呟いた二人は、尋常ではないほど汗をかいている。
何か、よほどの恐怖を体験したようだ。

言葉の通り、ナルトとサスケが以後観覧車に乗ることは二度となく、7班にとっていろんな意味で忘れられない日となった。


あとがき??
ケイ太さんに「観覧車に乗るカカシ先生とサクラ」というリクをしたのですが、自分も書きたくなったので書いた。
観覧車。ロマンチックですねぇ。
タイトルは、松嶋菜々子の昔の映画。
サブタイトルは「天国と地獄」だろうか。
今回のサスケのモデルは・・・言わずもがな、『うる星やつら』の面堂くんですね。(笑)暗いよ、狭いよ、怖いよーってやつ。


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