サクラとカカシとカカシの彼女


いつものとおり、カカシは3時間ほど遅れて7班の集合場所に現れた。
「ごめん、ごめん」
「で、今日はどうして遅刻したのよ」
どうせいい加減な作り話をすると分かっていながら、サクラは訊いた。
「ん。彼女に行かないでくれってせがまれちゃって」
カカシは頭をかきながら照れ笑いをした。

これは本当だ。

カカシの顔を見て、サクラはそう感じた。
だが、サスケとナルトはやはり嘘だと思っているのか
「早く任務内容を言え」
「今度から俺も3時間寝坊してくるってばよ」
などと口々に言っている。
そんな中、サクラだけが浮かない表情をしてカカシを見詰めていた。
サクラがどうしてカカシの言葉を真実だと思ったのかは簡単な理由だ。
「彼女」という単語が出た時の、カカシのとんでもなく嬉しそうな表情。
あんな顔は今まで見たことがなかった。
だけれど、カカシに彼女がいることが分かって、何故自分がこんなに落ち込んだ気持ちになるのかサクラは分からなかった。

 

任務終了後、サクラは憂さ晴らしのために街中をぶらついていた。
今日、サクラは一日ぼんやりとして失敗続きだった。
午前中に見た、カカシの笑顔と、「彼女」の言葉が頭を離れない。
「どっか具合悪いのか」
熱でもあるのかと、自分の額に手を置いたカカシに、サクラは顔を真っ赤にして後退りした。
「な、な、なんでもないわよ」
激しく手を振って自分を拒絶するサクラに、カカシは怪訝な顔をする。
「本当に大丈夫か?」

変なの。
あれじゃ、私がカカシ先生のこと好きみたいじゃない。
サクラは歩きながら、自分の考えを否定するかのように頭を振った。
そして、サクラが顔を横に向けた瞬間視界に入った、白銀の髪に忍び服。
カカシ先生だ。
行列のできた店先に、カカシが並んでいる。
その先を見ると、そこはなんと巷で美味しいと評判のケーキの店だった。
我が目を疑い、サクラは何度も目をこする。
だが、どう見ても列に並んでいるのはカカシだ。
婦女子にまぎれて、臆面もなくその場に立っている。

「カカシ先生」
恐る恐る近づいて、サクラはカカシに声をかけた。
「あれ、サクラもここのケーキ好きなの?後ろ並ぶの大変だし、サクラの分も買ってやろうか」
「いえ、結構ですけど、先生こそ、この店のケーキ好きなんですか」
「俺もだけど、彼女が凄く好きでね。俺が好きなものって絶対に彼女も好きなんだ。相性いいんだな」
カカシの口からでた、今日二度目の「彼女」の言葉。
再びサクラの胸がチクンと痛んだ。

「これから彼女と会うの」
「いいや」
首を振るカカシに、サクラは不思議そうな顔をする。
「彼女、俺の家に住んでるの」
胸が痛むどころではなく、サクラは頭を殴られたかのような衝撃をうけた。
ど、ど、ど、同棲!!
頭に浮かんだ言葉に、サクラは顔を赤く染める。
カカシは成人男子なわけだし、女性と同棲していたとしても周りから咎められる行為ではない。
だが、まだ子供のサクラにはいささか刺激の強い言葉だった。

「青くなったり、赤くなったり、忙しい子だね」
カカシはサクラの顔を見ながら含み笑いをもらした。
「・・・先生の彼女ってどんな人なの」
「どんなって言われても」
俯きながら訊ねるサクラに、カカシは困った顔をした。
「髪の色は」
「黒」
「瞳の色は」
「サファイアブルー」
「スタイルは」
「よく食べるわりに、小柄」
「名前は」
「ミーシャ」
サクラの矢継ぎ早の質問に次々と答えていたカカシだが、サクラは彼女の名前に驚いて顔をあげた。
聞きなれない横文字の名前はどう考えても木ノ葉の里の住人の名前ではない。
「先生の彼女って、外来の人なの」
「うーん。まぁ、そうかな」
珍しくカカシは歯切れの悪い物言いだ。

「じゃあね、今度こっちから質問していい?」
カカシはサクラの顔を覗き込むようにして屈む。
「どうしてそんなにいろいろ訊くの?」
思いもよらないカカシからの問い掛けに、サクラは戸惑った。
動揺して目を瞬かせるサクラを、カカシは面白そうな顔で見ている。
「そ、それは」
「それは?」
明らかに自分をからかう気持ちを含んだ声に、サクラはカカシをきつく睨んだ。

サクラは大きく息を吸い込むと
「知りたかったんだもん。それでいいでしょ。カカシ先生の馬鹿!!」
とカカシに向かって大声で怒鳴り、全速力でその場から逃げていった。
もちろん、周りに並んだ客や往来の人間の視線は残されたカカシに集中している。
「あいつー」
苦笑いしながらも、たいして恥ずかしいと思っていないのか、彼女を喜ばせたいからなのか、カカシはケーキ屋の列から外れることはなかった。

 

数日後、カカシが風邪をひいたことにより、7班の任務は延期となった。
その知らせを聞いて、7班の下忍二人は各自思い思いの場所にちらばっていったが、サクラは伝令の忍びに駆け寄った。
「それで、カカシ先生の具合はどんな感じなんですか」
「それは私も頼まれて伝えに来ただけだから知らないよ」
中忍らしき若者はそう言うと、すぐに姿を消してしまった。

サクラは不安な表情のまま佇んでいた。
あの何があっても飄飄としているカカシが病気で寝込んでいる姿というのが、どうしてもサクラは想像できない。
今までに一度もなかったことだし、よほど病状は悪化しているのかと考えが悪い方向にばかり向いてしまう。
いてもたってもいられなくなったサクラは、カカシの家へと真っ直ぐに駆け出していた。

たどり着いたものの、サクラはカカシの家の扉の前で躊躇している。
一応途中でお見舞いのためのケーキは購入したが、いきなりカカシの彼女が出てきた場合、どういう対応をしたらいいのか分からない。
サクラは行きつ戻りつ、暫しその場をうろつく。
「何してんの」
「キャアアアアァァーーー!!」
ふいに耳元で聴こえた声に、サクラは劈くような悲鳴をあげた。
とっさに、サクラの背後にいた人物がその口を手でふさぐ。

「サクラ、近所迷惑」
サクラは厳しい目つきで背後の人間、カカシを仰ぎ見る。
「お見舞いに来てくれたんだー。嬉しいなぁ」
そのまま自分を羽交い絞めにして頬を摺り寄せてくるカカシに、サクラは精一杯抗議の声をあげた。
口元を押さえられているために、くぐもった音しかでなかったが。

 

パジャマ姿で元気に歩き回るカカシはどうみても病人には見えなかったが、先ほど触れた時、異様に体が熱かったことから高熱があるということは分かった。
「先生、寝てなかったの」
「ずっと寝てたから、目がさえちゃって。そしたらサクラの気配がしたからつい外に迎えに行っちゃった」
顔を綻ばせて言うカカシに、サクラはやっぱり来て良かったな、と嬉しくなった。
ただし、問題がまだ残っている。
「先生、彼女は?」
リビングにいるサクラにはそれらしい人物の気配は感じられない。
買い物に出かけているのかしら、と思いながらサクラは首をめぐらす。
「あー、ちょっと待ってて。今紹介するから」
えっ、とサクラが顔を向けると、カカシはすでに奥の部屋に入った後だった。
おかしい。
もしかして、先生の彼女も同じ忍びなのだろうか。
でも、家の中で気配を消しても、意味があるとは思えない。
サクラが悶々と考え込んでいた時、すぐ足元から可愛らしい声が聴こえてきた。

ニャー

自分の足に触れてくる存在に、サクラは驚いて体を震わせた。
見ると子猫がじゃれついてサクラの足に体を寄せている。
サクラと目が合うと子猫は再び甲高く鳴いた。
「か、か、可愛い〜vv」
女子供は小動物が好き、ということをよく聞くが、もちろんサクラもその中に入っていた。
生き物を飼ったことがないために、おっかなびっくりという感じだが、サクラは子猫が抱え上げた。
子猫も嬉しそうにサクラの顔をなめている。

「サクラ、それが俺のミーシャだよ」
いつの間にかサクラの隣りに来ていたカカシが、子猫を見詰めながら言う。
「へー。先生猫なんて飼ってたんだ」
暫く動きを止めて子猫を見ていたサクラが、カカシの言葉を反芻し、ようやく驚きの声をあげた。
「えええ!」

彼女のミーシャ。
黒い毛。
サファイアブルーの瞳。
小柄というより、子猫。
条件は当てはまっている。

「人じゃないじゃない!」
「俺、人なんて言ってないじゃん」
速答するカカシに、サクラは言葉をつまらせる。
一般的に「彼女」といえば、人間をさすものだと思うけど、とサクラが呆れ顔をしていると、ミーシャが再びサクラの頬をなめてきた。
「キャ。くすぐったい」
サクラは今までの緊張した面持ちはどこへやら、明るい笑顔で子猫を抱きしめる。
なんだか、胸の中の煩わしい気持ちが全部消えてなくなった感じだ。
「ミーシャも一目でサクラのこと気に入ったみたいね。な、こないだ俺が言ったとおりだろー」
「えー」
カカシは何のことか分からず首を傾けるサクラを子猫ごと抱きしめた。

「俺が好きなものって絶対にミーシャも好きなんだ」


あとがき??
なんでしょうか、これは。珍しくサクカカ。
ミーシャは昔ドラマで大竹しのぶが飼っていた猫の名前。
ま、展開的に、途中からオチは分かってしまうような気もしますが。(笑)
カカシ先生が猫を飼うことになった過程が気になります。
カカシ先生、きっとサクラちゃんの反応見て遊んでたんですね。悪人だわ。
サクラちゃん、風邪うつっちゃいますね。(笑)


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