夢で逢えたら
ある、晴れた日の午後。
私はカカシ先生と二人で川岸を歩いていた。
そこは、草と砂利に足を取られる、ひどく歩きにくい道。
だけれど、カカシ先生が手を繋いでくれているから転ぶことはないし、水辺の風は涼しくて快適だった。いい天気なのに、他に人影はない。
だから私はいつもよりよけいにはしゃいでいたかもしれない。
ずっと、カカシ先生とこうして二人きりで過ごしてみたかったから。
「危ないよ」
足の先だけ、川の水に浸そうとしたらカカシ先生に手を引かれた。
照りつける太陽と、汗ばむくらいの気候。
水は澄んでいて、とても冷たそうだ。「ちょっとだけよ」
「この川は最初は浅いけど、あの苔の生えた大きな岩のある辺りからいきなり深くなってるんだ。だから、絶対に軽い気持ちで入っちゃ駄目だよ」カカシ先生は私の手を離すことなく忠告する。
珍しく真剣な眼差しで説くカカシ先生に、私の気持ちもすぐに萎えた。
別に、無理をしてまで川遊びをしたいわけではない。
少しばかり水に触れたかっただけだ。「それなら、アイス買って」
「いいよ」
川の向こう岸に見えているアイスクリームの幟を指差して言うと、カカシ先生は快く了承してくれた。
優しく微笑するカカシ先生に釣られて、私の顔にも笑みがこぼれる。ただ手を繋いでたわい無い話をしているだけ。
それなのに、不思議と心が安らぐ。
あったかなカカシ先生の手のひらが、何だか凄く嬉しかった。
「先生、初めて私と手を繋いだときのこと、覚えてる?」
「え??」
「去年のことよ。任務で帰る時間が遅くなったときに、先生が私のこと家まで送ってくれたの」
首を傾げるカカシ先生に、私はそのときのことを思い出しながら話し出す。季節が夏だったせいか、ちょうど怪談話がはやっていた。
運悪く、私の家に行くには幽霊が出ると評判の建物の横をどうしても通らなければならない。
当然、私の顔は青ざめていたことだろう。
その私に、カカシ先生は何も言わずに手を差し出してきたのだ。「何よ、平気よ!!小さい子供じゃないんだから」
思わず強がってしまった私に、カカシ先生は笑い声をもらした。
「俺が、怖いんだよ」私の手を掴んだカカシ先生は、有無を言わせず歩き始めた。
もちろん、怖いなんて嘘。
だって、顔を強張らせてびくびくしている私の隣りで、カカシ先生はずっと鼻歌を歌いながら歩いていたんだから。
「私、カカシ先生って優しい人なんだなぁって思ったの」
言ったあとに、何となく気恥ずかしくて、私は少し俯いた。
まるで好きだと告白したようだ。
別に、そこまで深い意味があってのことではないけれど。
二人の間にある空気があまりに穏やかで、つい口が滑ってしまったという感じ。
沈黙が怖くて、ゆっくりと顔を上げるとカカシ先生は楽しげに笑っていた。「別に、優しくなんてないよ」
「え?」
聞き返した私の頭に、カカシ先生は空いている方の手を乗せる。
「嘘はついたけど、俺はただサクラと手を繋いで歩きたかっただけなんだから」
私の夢は、ここで終わった。
目がさめるなり、私は自分の手のひらを見つめてしまった。
まだ繋いでいた手の感覚が残っているような、リアルな夢。
もちろん、カカシ先生と二人きりでどこかに遊びに行った記憶などない。
願望が夢に出てきたかと思ったら、急に顔がほてってしまった。休日ということもあり、いつもより寝坊した私は、朝食後に特に予定もなく散歩を始める。
足が向いたのは、夢に出てきた河原。
夢では誰もいなかったのに、その場所には沢山の人がいた。
にぎやかな家族連れの声を耳にして、自然と、私の口からはため息がもれる。
夢のとおりの光景がないことなど当たり前なのに、がっかりした。
近くまで行くと、騒々しく川辺に集まっている女の子達の中に、いのが混じっている。
私に気づいたいのは、すぐに私のところまで駆けてきた。「あんたも仕事休みだったのね。これから皆でバーベキューパーティーやるんだけど、一緒にどう?」
いのの誘いに、私は首を横に振る。
そうして、苔の生えた大岩へと目を向けた。
「あの辺りから急に水が深くなってるから、川に入るなら気をつけて」
川岸を指差す私を、いのは怪訝な表情で見る。「何でそんなこと知ってるのよ」
「何となく」
笑いながら言うと、いのはますます訝しげな顔つきになった。
いのと別れたあとに向かったのは、夢で行く予定だったアイスクリーム屋。
あれが食べれなかったことが、非常に心残りだった。
店の扉に手を伸ばすと、それは私が力をこめる前に動く。
中にいた人物が開けた、又は自動ドアだった、ということではなく、私の後ろにいる人物が扉を押したのだ。妙に密着しているのが気になったけれど、知っている気配だから大げさには驚かない。
振り向くと、すぐ背後に立っているのは予想通り、カカシ先生。
「先生も、アイス食べに来たの?」
「いいや。甘いものは苦手だし」
カカシ先生は店の壁に貼られたメニューを見ながら答える。
「橋を渡っているときにサクラの後ろ姿が見えたから、アイスをご馳走してあげようかなぁって思って付いてきた」
「本当ー!?」
思わず大きな声で言うと、カカシ先生はにっこりと私に笑いかけた。
「約束したからね」
あとがき??
夢に好きな人が現れるのは、その人が自分に会いたいと思っているから。
平安時代の人のご都合な思想。
たぶん、カカシ先生とサクラはお互いに会いたいと思っていたのね。
元ネタは『バトル・ロワイアル』。
キタノ先生と中川さんがアイスを食べる場面が印象的だったので、それを書きたかった。
ちょっと、違うかな。
夢か現かあやふやな雰囲気の話が書きたかったのです。