恋のバカンス


「なんでそんなに不機嫌なのよー」
「・・・別にぃ」
不満げに訊ねるサクラに、カカシはぷいと顔を背けた。
先ほどからサクラが何を話しかけても、カカシは仏頂面をしている。

二人は、波の国に向かって旅をしている最中だった。
理由は、以前任務で世話になったタズナが重い病で倒れたとの知らせを受け、カカシが見舞いを提案したからだ。
忍びが隠れ里を離れる許可を取ることはなかなか困難で、7班内で波の国へと行ける人数は二人。
カカシの他、随行する下忍は公平にくじ引きで決められたが、カカシが裏工作をしたという噂は否定できない。
サクラと二人きり、海でのバカンスを楽しもうと浮き浮き顔で準備をしたカカシだったが、その当ては全く外れてしまった。

 

「すみません。僕はお邪魔だったでしょうか」
「そんなことないですよ!カブトさんが診てくれれば、タズナさんもきっとに回復します」
カブトににっこりと笑いかけたサクラは、顔を反転させ、カカシを睨み付けた。
「ちょっとカカシ先生。無理言って一緒に来て貰ったんだから、いつまでもすねてないでよ」
「はいはーい」
がなり立てるサクラに、カカシはしょうがなく返事をする。

同じく波の国での任務を請け負い、出発日も一緒だということをカブトから聞いたサクラは、一も二もなく彼に同行を頼んだ。
医術に詳しい彼が一緒ならば、何とも心強い。
幸い、彼の任務は波の国の人間に荷物を届けるだけの簡単な任務だった。
それさえすめば、帰りの道もサクラ達と一緒ということになる。

「道中、よろしくお願いしますね」
カブトは愛想のいい笑顔でカカシに声をかける。
サクラがどんなに取りなしても、カカシにとって彼は邪魔者以外の何ものでもなかった。

 

 

 

「つまんないのー」

タズナの家を出てすぐ、細長い板敷きの上に座ったカカシは、夜空を見上げて呟く。
はるばる波の国に来てみれば、タズナが重病というのは全くの誤報で、ただのぎっくり腰だということが分かった。
だが、タズナの家族はカカシ達の来訪を喜び、こうしてのんびりとした日々を過ごさせて貰っている。
カブトの存在さえなければ、カカシの気分はもっと晴れていたことだろう。
どこに行くにも付いてくるカブトのせいで、全くサクラと二人きりの時間が作れない。
これなれば、木ノ葉隠れの里にいたときの方がましだ。

「明日には里に帰るっていうのに・・・」
「タズナさんが病気じゃなくて、良かったじゃないの。何がつまらないのよ」
いつの間にか背後に現れたサクラは、カカシの隣りに座り込んだ。
気配に気付いていたのか、カカシは少しも驚くことなく傍らを見やる。

「だって、俺はサクラと二人で海に行こうと思ったのにさぁ」
「いいじゃない。また来年一緒に来れば」
恨みがましいカカシの言葉を、サクラはさらりと流す。
「次は、水着持ってくるから泳げるわよ。それでも、機嫌なおしてくれない?」

 

自分の顔を覗き込むようにして見るサクラに、カカシは黙り込む。
来年、という言葉が、何故か新鮮に聞こえた。
他人に深く関わらず、刹那的な付き合いしかしてこなかったカカシには、こうした約束の経験は皆無だ。
でも、サクラとなら来年も再来年も、その先もずっと一緒にいたいと思える。

「・・・サクラの水着、俺に選ばせてくれるなら」
長い沈黙のあとに拍子抜けする答えをされ、サクラは笑いながらカカシに抱きつく。
「あんまり布地が少ないのは駄目だからね」

頬にあたるサクラの柔らかな髪が、少しだけくすぐったい。
そして、町の喧騒を遠く離れ、代わりに耳に届く潮騒は何ともロマンチックだ。
単純な話だが、サクラとこうしたひとときを過ごせただけでも、波の国に来たかいはあった、と思うカカシだった。

 

 

 

「おはようございますー」
翌朝、顔を洗ったカカシは台所へと直行した。
ツナミが朝食の用意をして、イナリがそれを手伝い、タズナはちゃぶ台で新聞を読んでいる。

「あれ、カブト、知りません」
「今朝はまだ見てませんよ」
「厠にもいなかったぞ」
きょろきょろと台所を見回すカカシに、ツナミとタズナが返事をする。
カカシとカブトは同部屋だったが、カカシが朝目覚めて時には隣りの布団はもぬけの空だった。
てっきり自分より早起きをしていると思ったのだが、二人ともカブトを見ていないという。
そして、タズナの家はそう広くはない。

「・・・・まさか」
嫌な予感に青ざめたカカシは、すぐさま踵を返した。
そして、家の一番奥にある客間の扉を、断りなしに思い切り開く。
目の前にあるほぼ予想通りの光景に、カカシは怒りを通り越して、気分が悪くなった。

 

「あらあらあらーー」
血相を変えたカカシに釣られてやってきたツナミは、カカシの後ろから部屋の中を見るなり声をあげる。
小さな部屋は、来客用の布団を敷いただけで一杯一杯だ。
そして、その一人用の布団で窮屈に寝ているのは、カブトとサクラの二人。
カカシがその場に脱力して座り込むのと、サクラが目を覚ましたのはほぼ同時だった。

「・・・・あれ、先生、ツナミさん。おはようござ」
半身を起こしたサクラはその人物に気付くなり、声を無くす。
目元をごしごしとこすったあと、サクラは再度目を丸くしてカブトを見つめた。
「え、え、な、何これ!!?」
パニックに陥ったサクラが慌てて立ち上がると、繋いでいた二人の手が外れ、カブトの目が開いた。

「んーー・・・・」
皆が見守る中、カブトは欠伸を一つしてから扉付近に目をやる。
「あれ。皆さんで、僕を起こしに来てくれたんですか」

 

 

 

波の国からの帰国途中、サクラの肩に手を置いたカカシはずっとカブトを警戒しながら歩いていた。
サクラにとっては、疎ましいことこの上ない。

「ちょっと先生。山道を歩くのに、邪魔だってば」
「何!!?サクラは俺よりこいつを選ぶっていうのか!」
「・・・違うってば」
何を言っても同じ返事をされ、サクラは大きくため息をつく。

朝の騒動の真相は、夜に厠に起きたカブトが眼鏡をせずに家の中を歩いたため、部屋を間違えてサクラの布団で寝ていただけのこと。
カブトに悪意はなく、もちろん二人の間にやましいこともない。
だが、サクラがいくら言って聞かせてもカカシは聴く耳を持たなかった。

 

「絶対わざと部屋にもぐりこんだんだ!!そしてサクラが寝ているのをいいことに、体に触ったり、匂いを嗅いだり、チューしたりしてるはずだ!!!」
「もう、やめてよ!カブトさんに失礼でしょ。カカシ先生じゃないんだから」
「そーですよ。考えすぎですよ。ハハハハッ」
「その笑いがあやしい!!!」
カブトを指差し、カカシは声高に訴える。
サクラがなだめてもカカシの興奮は収まらず、里に帰ってからも尾を引きそうな勢いだった。


あとがき??
カカシ先生が言ったようなことは、カブトさんは当然やってます。(^▽^;)だって、カブトさんですから!
リクエストがカカサク←カブ、というものだけだったので、好き勝手やってしまいました。
カブトさんを信用してすっかり騙されてるサクラ、というシチュエーションがカブサクのいいところ(?)です。
周りで騒いでるカカシ先生が可哀相になってきた・・・。(涙)
でも、サクラが好きなのはカカシ先生なので安心してください。(フォロー)
タズナさんの家の間取りは忘れてくださると嬉しいです。

99999HIT、神凪さん、有難うございました。


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