三匹の一匹


俺は犬が好きだ。
だから、契約を結ぶ対象にも犬を選んだ。
そして、火影から任された下忍三人も俺から見れば子犬みたいなものだった。

優しくするとなついてきて。
愛想の良いのや悪いのがいて。
教育して、しつけもきっちりとして。
最終的に里のために使える忍者に育て上げる。
これで、完璧なはずだった。
対象が本物の子犬ならば。

 

 

「カカシ先生」
三匹のうちの一匹は、妙になつっこい。
頭をなでてやると、嬉しそうに笑ってくっついてくる。
いい匂いのするこの子は子犬の中でもお気に入り。
7班の紅一点、女の子だから特別大事にしているせいかもしれない。

「里を、離れるんだってね」
「うん。でもすぐ戻ってくるよ。ちょっと隣りの国にお使いに行くだけだから」
笑いながら言うと、不安げだった彼女も顔を綻ばせる。
自分の心配をしてくれる、可愛い子犬。
お土産は何がいいだろう。
やっぱり、甘いお菓子かな。
まだ、子犬だからね。

みんなで大人しく待ってて。
他の二匹にも、たくさんお土産買ってくるから。

 

 

 

里を留守にしていたのは、ほんの二週間。
何も変わらない。
変わるはずがない。
だけれど、子犬用の土産を手に帰国した俺を待っていたのは、大きな衝撃だった。

「先生」
俺のお気に入りが、うちの玄関の前で待っていた。
おそらく、他の忍者から俺の帰国の日を聞きだしたのだろう。
何時に帰るかまでは、分からなかっただろうに。
最初は素直に嬉しかった。
彼女の変化に気づくまでは。

 

「・・・髪、そんなに長かったっけ」
「そうよ。いつもは任務の邪魔にならないよう縛ってたから、気づかなかった?」
子犬は肩にたらした自分の髪を一房持って言う。
彼女の変化はそれだけじゃない。
その、口元。
「いのにもらった色付きリップつけてみたの。似合う?」
自分の視線に気づいた彼女が、にっこりと笑って訪ねる。
赤い唇が、妙に生々しく映った。

「おかえりなさい」
子犬は改めて言うと、俺に抱きついてくる。
いつものように。
違っていたのは、俺の内面。
思わず彼女の肩を掴んで体を離したのは、動揺を悟られたくなかったからだ。

子犬が子犬じゃなくなってしまった。
俺が彼女に女を感じた瞬間に。
子犬は人間の女の子になってしまっていた。

 

「いつもみたいに、ぎゅってしてくれないの?」
上目遣いで俺を見たサクラは、すねたような口調で言う。
まずい。
甘えた声も、柔らかな明るい色の髪も、濁りのない緑の瞳も、香りも、肌の感触も。
全部自分の好みだ。
サクラの顔を、今日初めてしっかりと見た気がする。
子犬としてではない、サクラを。

 

 

 

「土産」
とりあえず家にあげたサクラに、俺はそれを差し出した。
そして、怪訝な顔をするサクラの手に無理やり握らせる。
「隣りの国の女の子の間で、はやってるんだよ。それを首に着けるのが」
「・・・そうなの?」

もちろん、そんなのは大嘘。
サクラに渡したのは、犬用の首輪。
皮製でピンク色のそれは、知り合いに頼まれて買ったものだが、サクラの首周りなら十分に入る。
細身でシンプルなデザインの首輪は、頑張れば人用チョーカーに見えないこともなかった。

「でもさぁ、この里でやってたら変に思われるんじゃないの」
俺が強引にサクラの首にそれを取り付けると、彼女は心配そうに言う。
「大丈夫。うちでもそのうちブームになるから」
「そうー??」
「だから、外に出るときは絶対着けてるように」
「うん」
頭をなでると、サクラは渋々頷く。
俺がそういう風にしつけたから、サクラは絶対に命令に従うはずだ。

 

サクラにはもう少し子犬でいてもらわないと困る。
もう少し体が成長して、自分の生徒でなくなるまでは。
サクラの姿を見るたびに思い出すよう、首輪は自分への戒めだ。
もちろん、サクラはうちの子犬だから他の人間にさらわれないようにするためでもあるけど。


あとがき??
らぶらぶ?


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