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サクラのアルバイト


ここ数日、サクラは任務が終了すると同時に煙のように姿を消していた。
いつもなら、無駄だと知りつつもサスケを誘ったり、ナルトに付き合ってラーメンを食べに行ったりしていたのだが、それもない。
何となしに気になったピンク色の脳天を眺めていると、視線に気付いたのか、サクラはカカシを仰ぎ見た

 

「何?」
「いや、毎日毎日急いで帰るなぁと思って。どっかにいい男でも出来たの」
軽い口調で訊ねるカカシに、サクラは笑い声を立てる。
「やだ、そんなんじゃないわよ。いののお花屋さんを手伝ってるの」
「いのちゃん?」
「そう。いのとお父さんが任務で里を離れていて、いののお母さんがてんてこ舞いしてるのよ。だから、私が臨時のバイトで夕方の混み合う時間にお店に出てるの」
「へぇ・・・」

顎に手を当てたカカシは、花屋でのサクラを想像してみた。
色とりどりの綺麗な花に囲まれて仕事をする、エプロン姿のサクラ。
良い感じだ。
知らずに顔がだらしなく緩んでいたカカシだが、幸いサクラは見ていなかった。

「カカシ先生も良かったら、花を見に来てね!」
笑顔で言うと、サクラは繁華街へ向かう道を駆け出していく。
その後ろ姿を見つめるカカシの心は、サクラに言われずとも、もう決まっていた。

 

 

 

 

いのの実家の花屋は、ちょうど商店街の中心にある
立地条件の良さに加え、センスの良い店構えや花の種類の豊富さに、固定客は多い。
だが、ここ数日の売り上げの上昇は、それらのこととは別のところにあった。

 

「リーさん、お花好きなんですか」
「え」
「だって、毎日ここに来てる」
リーに花束を手渡すと、サクラは柔らかく微笑む。
「男の人なのに、珍しいですね。それともお母さんに頼まれたんですか」
「いえ、そんな・・・」
顔を真っ赤にしたリーは困ったように頭をかく。
毎日花屋に通っているのはもちろんサクラに会うためなのだが、彼女は全く分かっていなかった。

リーが店を出てすぐ、顔を出したのはナルトだ。
サクラとおそろいの花屋のエプロンをつけたナルトは、外から運んできた花の鉢を重そうに持っている。

「サクラちゃん。この鉢はここでいいの?」
「うん。悪いわね、ナルト。ガーデニングに使う小物を買いに来ただけなのに、いろいろ手伝わせちゃって」
「いいよ、いいよ。どうせ暇だし」
手を小さく横に振るナルトを、サクラは頼もしげに見つめる。

「あの、この花が欲しいんですけど・・・」
「あ、はいはい」
客の一人に声をかけられ、サクラは急いでレジに向かう。
ゆっくり談笑している暇はまるでなかった。

 

 

そうした慌ただしい店の状況を、呆然と眺めている男が一人。
サクラのバイトを今日まで全く知らず、すっかり出遅れてしまったカカシだ。

こそこそと水桶の陰にしゃがみ込み、カカシは店内の様子を盗み見ている。
サクラを囲む客達は、どれもカカシの見知った顔だった。
木ノ葉隠れの里の下忍から中忍、特別上忍や上忍も混じり、客足は全く途切れない。
おそらく、今まで花などには見向きもしなかった連中ばかりだ。
やに下がった彼らの顔を見ていれば、何が目的なのかははっきりと分かる。
思えば、このような人目につく場所で若い娘がバイトをしていれば、悪い虫がつくのは当然だ。

自分のうかつさを悔いていたカカシは、いつの間にか眼前にあった人の足にようやく気が付いた。
顔を上げると、水桶に隠れたカカシをいのの母親が怪訝な表情で見ている。
とっさに手前にあった水桶を抱えて立ち上がり、カカシは開口一番に言った。

「こ、これ下さい」
「全部ですか?」
「はい」
「ご自宅用でしょうか?」
挙動不審なカカシを怪しんでいたいのの母親も、客と分かったならば愛想笑いで応える。
水桶にはミニバラがぎっしりと入っていたが、元が安価なため上忍のカカシならば余裕で買える値段だった。

 

「あれ、カカシ先生。本当に来てくれたんだ!」
いのの母親と共にレジまでやって来たカカシを見て、サクラは目を丸くした。
「うん。サクラの仕事ぶりはどんな感じかと思ってね」
「わざわざ有難うね」
にこにこ顔のサクラに気付かれないよう、カカシは足下で植木鉢をいじるナルトを軽く蹴る。

「何で黙ってたんだよ。サクラがバイトしてること」
「訊かれなかったから」
素知らぬ顔で答えるナルトに、二の句が継げないカカシだった。

 

 

 

カカシがミニバラを抱えて外へ出ると、夜の空には僅かな数の星が瞬いていた。
町の中では、店の灯りに邪魔されて綺麗な星空は望めない
手に持つ花束をどうしようかと思案しながら、カカシは大通りを歩き出した。

「待って、カカシ先生」
数歩もいかないうちに呼び止められ、カカシは歩みを止める。
店から飛び出してきたサクラは、カカシに追いつくとにっこりと笑って言った。
「一緒に帰ろう」
「でも、お店は?」
「7時までって約束だもの。ナルトにも帰ってもらったし」

空いている方のカカシの手を握り、サクラは先導するように前を歩く。
カカシに断る理由はない。

それに、持てあましている花束は、別れ際にサクラにプレゼントすれば丁度良かった。

 

 

「あれ、あの人・・・・」
商店街の入口で、急に立ち止まったサクラは、その店を注意深く観察した。
電灯が煌々と輝くその店は、どう見ても花屋だ。
そしてサクラが見ているのは、店の中で忙しく働く若い男。

「知り合い?」
「うちのお得意さんよ。私が店にいるときはいつも来てたもの。でも、花屋で働いているのに何でうちに買いに来てたのかしら?」
首を傾げたサクラは心底不思議そうに呟く。
花屋の店先を窺うサクラの横顔を、カカシは無言のまま見つめた。

常日頃、サクラはナルトやサスケと比較して、自分には才能がないと嘆いている。
だが、木ノ葉隠れの忍び達だけでなく、ライバル店の店員まで引き付けるその魅力は、立派な才能なのではないかと思うカカシだった。


あとがき??
サクラ、もてもてもて。
元ネタは岩館真理子先生の『アマリリス』。
こんなの書いてしまいましたが、私はいのもサクラと同じくらい可愛いと思います。
何気にナルトがいい味出していると思います。


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