旅立ち


「あの、たった二週間なんだけど・・・・」

カカシは目の前に山積みになった物を見つめながら、ぽつりと呟く。
言葉のとおり、カカシは任務で二週間ほど里を留守にすることになっている。
そして、前日にカカシの家にやってきたサクラは、大量の荷物を用意してきた。
これを全部持っていけと、サクラは言っているのだ。

「おおげさだよ。これじゃ、1ケ月くらい旅に出るみたいだ」
「でも、削れるものなんてないのよ。これは胃薬で、こっちが目薬。裁縫道具と、非常食。懐中電灯と乾電池。それから、それから・・・・」
「サクラ、乾電池は向こうでも売ってるよ。それに、人が住んでるんだし、足りないものは現地で買い揃えられる」
「・・・・でも」
「気持ちは有難いけどさ、俺は大丈夫だよ。旅支度くらい一人で出来るから」

サクラを安心させるよう、にっこりと微笑んだカカシだったがサクラの表情は晴れない。
荷物の前に座り込んでいたサクラは、今にも泣き出しそうな顔でうつむく。

 

「不安・・・なんだもの・・・・」
「何で?たった二週間じゃないか」
暗い声を出すサクラを、カカシは笑い飛ばす。
「何か珍しいものを土産に買って帰ってくるからさ。気楽に待っていてよ」
「・・・前も、同じこと言ったよ。カカシ先生」
自分の頭をなでるカカシを、サクラは上目遣いに見る。
その目には、うっすらと涙がにじんでいた。

サクラが言っているのは、半年ほど前、カカシが傷を負って帰ったときのことだ。
怪我自体は軽かったのだが、頭の打ち所が悪かったらしく、一週間ほど意識が戻らなかった。
カカシが目を覚ましたとき、サクラは泣きはらした目で彼を見ていた。
自分の顔を凝視するカカシに、サクラは「顔がむくんでいて恥ずかしい」と言ったが、カカシの目には変わらず綺麗なサクラに映っていた。

 

「先生が怪我して帰ってきたって聞いて、私、心臓が止まるかと思ったんだから。あれ以来、先生がいないとずっと考えちゃうの。今頃、どうしてるかって。また怪我してないだろうか、病気になっていないだろうか、何か困ってないだろうかって」
サクラは頭に置かれたカカシの手を握ると、真顔で訴える。
「他に何も要らないから。任務に失敗してもいいから。だから、元気で帰ってきて」

真剣な眼差しで、サクラはおよそ忍者らしくないことを言う。
忍びとして優先すべきなのは、自分の命よりも、任務の成功。
アカデミーの教師ならば、生徒をしかって当然かもしれない。
だけれど、カカシは心から自分を心配しているサクラを責める気持ちにはならなかった。

 

 

 

「お前、どこまで行くつもりなんだよ、その荷物」
集合場所にやってきたカカシを見るなり、上忍仲間がどっと笑う。
カカシが背負う荷物は、いつもの倍ほどに見えた。
「いーんだよ。必要だから」
仲間が全員そろっていることを確認すると、カカシは忍び笑いを気にせず歩き出す。
カカシの傍らにやってきた仲間は、じろじろと背中の荷物を見てから、カカシを見た。

「重くないのか、それ?」
「んー。たまに重いと感じるけど、手放すわけにいかないんだ。大事だから」
「・・・・一体、何が入ってるんだ」
怪訝な表情で訊ねる仲間に、カカシは笑いかける。

「愛情」


あとがき??
うちの母が、家を出た兄や姉が実家に帰るたびに大量の荷物(日用品等)を持たせるので。なんとなく。
愛って、重いのね。


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