恋歌


サクラはよく謡う。

何が面白いのか知らないが、嬉しいとき、悲しいとき、感情のままに謡う。
彼女の唄は、外来の言葉だから、自分には意味がよく分からない。
中には歌詞にすらなっていない唄もある。
それでも、感情が素直に表にでる彼女のことだから、聞いていれば何を謡っているのかは瞭然だ。
突然謡いだす彼女に驚きはするけれど、耳障りの良いその声は聴いていて全く不快ではないので、止めたことはない。
むしろもっと聴いていたいと思うことがしばしばだ。

7班の皆といるときには彼女の唄を聴いたことはない。
どうしてかと訊くと、彼女は笑って言った。
「いくらなんでも、任務のときに謡いだしたらマズイでしょ。だから我慢してるの。私の唄は両親とカカシ先生が限定よ」
サスケはどうだか知らないが、ナルトが文句を言うはずがないと思うけれど、限定という言葉が気に入ったので反論しなかった。

ある日、サクラの謡う唄の中で一つだけ、妙に気になるものがあった。
朗々と謡い上げるサクラは、とても幸せそうで、自分が見ていることに気付くとにっこりと綺麗な笑みを返した。
「それは、何の唄」
珍しくサクラの唄に口をはさんだ自分に、彼女はとても驚いた顔をした。
でも、すぐに嬉しそうな笑顔に変わる。
「聴いていれば分かるのに」

毎日自分の家に現れては、唄を謡って帰っていくサクラ。
別に何をするわけではなく、二人でのんびりと過ごすだけなので、本当にサクラはうちに謡いに来ている感じだ。
そして、サクラが最後に謡うのは、決ってあの唄。
サクラは聴いていれば分かると言ったけれど、聴けば聴くほど分からなくなるような気がする。
サクラは決して答えをくれない。

 

考えてみれば、自分とサクラは不思議な関係だ。
ただの教師と生徒。
でも、それだけではないような気がする。
サクラがそばにいると、他の誰といるより居心地がいい。
というか、自分にとって必要な人間はその都度違う。
どんな人間でも、いて欲しいときもあれば、いて欲しくないときもある。
その中で、唯一、どんなときも邪魔だと思わない存在がサクラだ。
家に来るのがナルトやサスケだったら、とっとと追い出していたかもしれない。

そんなことをつらつらと考えながら歩いていると、街角から流れてきた唄が自分の耳に入った。
声は違うけれど、よく耳にするフレーズ。
忘れもしない、サクラの例の唄だ。
唄につられて足を向けると、その音楽は寂れた楽器店から流れていた。
暫し立ち尽くして唄に耳を傾ける。
やがて奥から現れた店主らしき年配の男性が話し掛けてきた。

「この唄が気になるんですか」
「ええ。これは何を謡っているんでしょうか」
丁重に訊くと、それまで暇そうにしていた店主は自分の質問とは違う事をぺらぺらと喋り出したので、少し閉口した。
わかったのは、この唄が最近リバイバルされた古い唄であること。
これを謡った歌手はすぐに引退して結婚してしまったこと。
そして思い出したかのように言った、店主の言葉。

「ああ、それとこれは恋の唄なんだよ」
「恋?」
「そう。こんなに私が想っているのに、どうして気付いてくれないのかと、つれない相手に謡いかけてるんだ」

瞬間、柄にもなく顔を赤くした自分を、店主が訝しげに見ているのが分かった。
サクラの行動、表情、言葉、一つ一つがパズルのように頭の中で連鎖していく。
気になったのも当然か。
唄は自分に向けて謡われていたのだから。

 

あなたが好き。

 

サクラはいつだって自分に信号を出していたのに、気付いてあげられなかった。
あの唄は痺れを切らしたサクラの最終手段。
それが分かった今、こんなに嬉しいということは、たぶん自分も同じ気持ちなのだろう。

だけど、もしかして返事は自分も唄で返さなければならないのかと、新たな悩みができてしまった。


あとがき??
短い。ので超短時間で仕上げました。
鈍いサクラちゃんではなく、鈍いカカシ先生に挑戦。
カカシ先生のラブソング、ぜひ聴いてみたいですわ。(笑)
中国のどこかでは本当にあるらしいですね。
唄でプロポーズして、唄で返事をする。いいなぁ。風流な感じ。
・・・でも駄目だ。私、音痴だから。ガックリ。


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