第一章 生と死の狭間


サクラ。

サクラ。

サクラちゃん。

 

母親がサクラを呼んでいる。
毎朝母親の呼びかけで目覚めるサクラにとって、日常的な光景だ。
だがその声にサクラがうっすらと目を開けると、いつもの見慣れた自室ではなく、ただ真っ白な世界が存在していた。
そして、ふわふわと身体が雲の中を浮かんでいるような浮遊感。
なんの音も色もない。

 

ここは一体、どこなのか。
パジャマ姿のサクラは不思議に思いながらも滑るような足取りで前方に進む。
足を動かさなくても、行きたい方向へ体が移動するのでとても楽だ。

どこまでいっても白、白、白。
歩いていないので疲れはないが、さすがに飽きてきた。
あまりに非現実的な世界。
これは夢なのだとサクラが漠然と思い始めた時、視界にようやく形のあるものが入った。

洋風の複雑な模様が浮き彫りしてある、サクラの身長の3倍以上もあると思われる大きな扉。

 

この扉の先には何があるのか、サクラの中で好奇心がどんどん膨らんでいく。
すると、サクラの気持ちを汲んだように、何の前触れもなくその扉が開き始めた。
目の見える範囲では何かの力が扉に加えられているとは思えない。
だが、このように大きくて重量感のある扉が自動ドアとはあまり考えられなかった。

サクラが暫く呆然と扉の開く様を眺めていると、ふいに強烈な光が後方から飛び込んできた。
赤く輝いているのに眩しいとは感じない、不思議な光。
その光は扉に吸い込まれるようにして消えていく。
光が完全に扉の向こう側にいってしまうと、扉はすぐにまた元のように閉じてしまった。
重々しい音を立てながら。

サクラは今のは何だったのだろうと首を傾げる。
とにかく、ここでボーっとしていても埒があかない。
それに、この向こうには人がいて、事情を説明してくれるかもしれない。
そう思って扉に手をかけようとすると、背後からサクラの行動を制止させる声が聞こえた。

 

 

「やめた方がいいですよ。あなたにはまだ早い」

 

サクラが振り向くと、そこには黒のタキシードにマントを羽織った男性が立っていた。
まるでマジシャンのような服装だ。
しかもシルクハットを目深にかぶっているため、顔がよく見えない。
怪しすぎる。
だがサクラはこれは夢なのだという先入観もあり、気軽に彼に話し掛けてみた。

「あなた誰?」
「僕はあなたと同質のものです。一応ここで案内人をしてます」
やはり変な人だった。
我ながら変な夢を見るな、とサクラが思っていると、その案内人と自称する人物は衝撃的な事を言った。
「春野サクラさん。あなたは死んだんです」

サクラは思わずふき出して笑ってしまった。
「へぇ、もしかしてこの扉は天国に続いてるわけ?」
「そうです」
「じゃあ、早く行きましょうよ」
サクラは再び扉に手をかける。
「・・・そんなに行ってみたいですか」
「行ってみたいわよ〜〜」
サクラは嬉々とした表情で言った。

天国がどんなところか皆目分からないが、絶対いいところのような気がする。
空想のような世界を体験できるなんて、なんて貴重な経験だろう。

 

「でも、この扉を通るとそれまでの自分の過去は一切忘れてしまうんですよ」
その言葉に、サクラは目を見開く。
過去を失う。
サクラがサクラでなくなるということ。
それでは全く意味がない。

「・・・ふーん。私ってば夢の中なのにそんな設定作ってるんだ」
サクラは自分の想像力のたくましさに関心してしまう。
そんなサクラに全くかまわず案内人は大真面目に言葉を続ける。
「人気のない工場だったからあなたの遺体が発見されるのにちょっと時間がかかったみたいですね。病院に運ばれるまで半日もかかりましたよ」

夢とはいえ、何度も死んでると言われて面白いわけはない。
サクラはさすがにむっとした顔で案内人の顔を見上げる。
「あなた、顔隠してるなんて失礼よ」
「え、ちょっと、止めてください」
サクラは嫌がる案内人の頭から無理やり帽子を剥ぎ取る。
そして、そこには意外にもサクラのよく知る顔があった。

 

「カ、カカシ先生!?」
サクラは思わず帽子を取り落として、素っ頓狂な声を上げる。
案内人は転がった帽子を屈んで拾い上げた。
「あなたには僕はカカシという人物に見えているのですね」

カカシの顔と声なのに、全然別人のような口調に違和感を覚える。
マスクもなく、額当てもしてないが、その姿はどう見てもカカシだ。
こんなにそっくりな他人がいるだろうか。

ここまできて、ようやくサクラの心に不安な気持ちが芽生えてきた。
「ねぇ、これ夢よね・・・」
帽子をかぶりなおすと、案内人はサクラに微笑みかける。
「どうしても信じてもらえないようなので、証拠を見せますよ」

 

 

 

案内人が指を鳴らすと、真っ白だった世界が急に色のあるものに変わった。
そこは病室。
頭に包帯を巻いて青白い顔をしたサクラがベッドに横たわり、母親がその枕もとで呆然とした顔をして立っている。
隣には滅多に顔を合わせることの無い伯父と伯母もいる。
ベッドの向かい側には医者と看護婦がなにやら医療カルテらしきものを持って話し込んでいた。

そして室内の様子をサクラが案内人とが並んで眺めている状況だ。
隣りにいても、病室にいる人間からはサクラ達は全く見えていない。
なんとも奇妙な光景。

「本当にリアルな夢ねぇ。こういうのも面白くて良いかもね」
「まーだ、信じられませんか」
「だって、夢だもん」
あっけらかんとしているサクラに、案内人はため息をつく。
「じゃあ、あなたの今日一日の様子を思い出してみてください」
「いいわよ」
サクラはあっさりとうなずく。
「確か、今日は・・・」

サクラはその日の一日の行動を順を追って思い出していった。

 

 

 

朝、いつものように一番に指定された場所について、来ることのないカカシを待つ。
ナルトは大抵15分は遅れてくる。
カカシが大幅に遅刻するから目立たないけれど、これにも困ったものだとサクラは思う。
その間、時間どおりに来るサスケと二人きりの時間がもてるからあまり叱ったことはないが。

「サクラちゃん、俺昨日幽霊見たんだってばよー!」
その日ナルトが興奮した面持ちでサクラに語った。
いかにも嘘っぽい話だったが、ナルトが嘘をつくことはないからサクラは一応信用して相槌をうつ。
それに心霊現象や超常現象といった話題には多少興味があった。
「それで俺独自に研究して幽霊探知機ってのを作ったんだけど・・・」
と、話が興にのってきたところでようやくカカシが現れた。

「こーら。そんなことしてる暇あったらもっと特訓しろ!」
いつナルトの背後にまわったのか、パシンと軽くナルトの後頭部をはたく。
「いって−」
ナルトは頭を抱えて蹲る。
かなり良い音がしたので痛そうだった。

 

 

任務の内容は最近西の森に咲いているという噂が流れた珍種の花をとってきてくれという、薬草研究所からの依頼。
図鑑の写真を頼りに、見たこともない植物を森全体くまなく探すというのは全く骨の折れる仕事だった。
それぞれ区域を分担して、意識を集中させて地面に体を這わせる。
サクラ達はここ一週間ほど毎日、西の森をさ迷っていることになる。

「もっと見栄えのする花なら探しがいがあるのに」
図鑑にはみるからに地味な黄銅色をした花の写真が載っている。
休憩時間に図鑑を眺めながら言ったサクラの言葉にカカシが反応した。

「サクラの好きな花ってなんなの?」
「レンゲ」
即答したサクラを、カカシはちょっと意外そうな顔をして見る。
「名前からして桜かと思った?」
サクラは笑いながら、カカシを仰ぎ見る。

「最近レンゲってあんまり見かけなくなったよね。でも里の東にある森にはレンゲ畑があるのよ」
サクラは小さい頃に両親と行ったことのあるレンゲ畑の位置をカカシに説明する。
「あの頃はお父さんの仕事が今ほど忙しくなくて、お母さんもいつも笑ってたような気がするな」
だが、そのレンゲ畑に行った日以来、家族で遠出をするということは全くなくなってしまった。
だからサクラにとって、レンゲは家族の絆を象徴する大切な花なのだ。

「とっておきの場所なんだからね。この話をしたのカカシ先生が初めてよ」
ナルト達はカカシが休憩だと言ったのに張り合ってまだ花を捜してる。
おかげで今この場にいるのはサクラとカカシの二人だけだ。
「そいつは光栄だなぁ」
カカシは笑いながらサクラの頭を撫でた。

 

結局探していた花はサスケが発見した。
悔しそうな顔をするナルトの頭に手を置きながら、カカシはいつもの気の抜けた声を出す。
「はい。任務完了〜」

研究所に花を届けた後に、ようやく解散。
午前中で任務は終了し、サクラはいつもは断られると分かっていながらサスケを誘っているが、さすがに泥だらけで疲労困憊のなか、そんな気は起きなかった。
それで、そのまま足を引きずって家に帰って・・・。

 

 

違う。

サクラはもう一度頭の中で丹念に記憶を反芻する。

 

帰り道の途中で誰かに呼ばれたような感じがして、サクラは家のすぐ近くにある建物に足を向けた。
その建物はなにかの工場だったらしいが、もう取り壊す直前で中はがらんどうだった。
ろくな灯りのない工場内は薄暗く、怖かったが勇気を出して中に入った。
暫く歩いていると、後ろで物音がして。
それで。

それで。

 

サクラの記憶が段々曖昧になる。
サクラは何故だか、急に眩暈を覚えた。
記憶のとおりに再現された廃工場で呆然と佇むサクラの肩に、案内人が軽く手を置く。
「思い出してくれたようですね」
案内人が笑顔で言った。

サクラはようやく思い出した。
あの時、振り返ったサクラ目掛けて鉄骨が落ちてきたのだ。
避けようと思ったのに、とっさに足が動かなくて。

夢にしてはつじつまが合いすぎていた。

「えええ!?私本当に死んじゃったってことーーーーー!!!?」

 

頭を抱えたサクラの大音声が、廃工場内に響き渡った。


あとがき??
長い。疲れる。書きたいところはまだまだ先だ。
未完になるかも〜。それは嫌〜。嫌〜〜。

えーと、一ヶ月に一話か二話くらいずつ載せられたらいいなぁというシリーズ。
え、ってことは、このサイトいつまで存在するのかしら。
初めての長編シリーズがパロディってのもなぁ。
映画を観た人は、ざーとらしいくらい伏線が散らばっていて笑える話と思います。ハハハ。
キャスティングは
初子=サクラ、夏山くん=ナルト、津田沼さん=サスケ、カカシ先生該当者なし、って感じで。

元があるんだから駄文にするのは簡単かと思ったら、反対だった。
よけいに時間かかる。
でも、二章はほぼできてるから早くアップできそう。

案内人の格好は趣味です。まじっく快斗みたいだな。(色は黒だけど)
いや、むしろタキシード仮面か??ガーン。
案内人の顔も趣味です。カカシ先生の出番、以後ないから。(って言っちゃっていいのか)


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