彼女


上忍同士の飲み会の帰り道、仲間と分かれて二人きりになったところでアスマはカカシに誘いの言葉をかけた。
「カカシ、例の店に寄ってみないか」
例の店とは、詳しくは説明しないが綺麗なお姉さんが沢山いる店ということだけを述べておこう。
アスマもカカシも独身なので、外でどんなに遊んでもとがめられる事はない。
ことに忍びはそのような店では非常にもてるのだ。
調子に乗ってありもしない武勇伝を語るような者もたまにいる。

アスマはカカシがいつものように二つ返事で誘いにのると思ったが、そうではなかった。
「んー。やめとく」
カカシは気乗りしない顔で頭をかきながら答える。
「なんだ、お前らしくないなぁ」
アスマはさも意外だというような声を出した。
事実、これまでのカカシだったら喜々として「行く」と言っただろう。

「彼女にばれるとまずいからね。女って時々妙に勘が鋭いでしょ」
アスマは隣に歩くカカシの顔をまじまじと見た。
「新手の冗談か」
「マジ」
カカシの顔はこれ以上ないほど真顔だった。

アスマはカカシとは結構長い付き合いになるが、カカシの口から「彼女」という言葉を聞いたのは初めてだった。
忍びの世界は死亡率が高い。
そして、どうせ悲しませるだけだからという刹那的な考えから、あえて特定の恋人をつくらない者が多いのだ。
てっきり、カカシも同じような手合いだと思い込んでいたアスマは驚いた。
「お前に彼女がいるとは初耳だな」
「だって言ってないもん」
「どんな女なんだ」
「どんなって」
カカシは少し考えるような顔をしたかと思うと
「メチャメチャ可愛い」
まるで子供のような笑顔で答えた。

「可愛いだけじゃなくて、純粋で、心がすごく綺麗なんだ。でもちょっと我が侭で、そこがまた可愛くて、それで」
「十分分かった」
放っておくといつまでも続きそうなのろけ話にアスマが大きな声でストップをかける。
言葉を途中で切られたカカシは不満顔だ。
「なんだよ。お前が訊いたんだろ」
「もう訊かないよ」
結局カカシの話を聞いた後一人でその店に行く気がしなかったアスマは、暫らくの間カカシと並んで歩いた。
「俺明日の休日彼女とデートだから、もう帰るって寝るわ。じゃーなー」
スキップでもしそうな勢いで帰路につくカカシの後ろ姿を眺めながら、アスマは寂しそうに呟いた。
「俺も彼女つくるかなぁ」

 

次の日はアスマも仕事が休みだった。
アスマは休みの日は大抵一日家にいるのだが、あまりに良い天気だったので散歩がてら外に出てみようという気になった。
ぶらぶらと街中を歩いていると、同じように暇を持て余している上忍仲間が向こうから歩いてくる。
「そういやお前も彼女いなかったよな」
アスマがすれ違いざまに声をかけると、相手の表情が曇った。
「ほっとけ」
ぶっきらぼうに答えた後、睨むようにしていたその上忍の視線が、ふいにアスマから外れる。
「おい、あそこにいるのカカシじゃないか」

アスマは振り返り相手の指差した方向を見た。
道路の向こう側を歩いていたのは、確かにカカシだった。
「あいつが女連れとは珍しい」
上忍仲間は、感心したように言った。

カカシの隣にいたのはまだ女と呼ぶには早い、年端のいかない少女。
それでも数年後が楽しみな顔の造作をしているのは確かだ。
艶やかな桜色の髪に、綺麗な翡翠の瞳、その頭にはヘアバンドのようにつけられた木ノ葉の忍びの証である額当てがあった。
手をつないで嬉しそうに歩いている二人の様子は、周りから見ても微笑ましい情景だ。
はたから見ると仲の良い教師と生徒、または年の離れた兄妹といったところか。

「カカシがあんな風に笑える奴とは思わなかったよ。あれ、カカシの生徒かな」
「いや」
アスマはカカシのあの表情を一度見たことがある。
無防備で安心しきった、心からの幸せそうな笑顔。
昨日とある話をした時にしていた顔と一緒だ。
「生徒かもしれないが、あれはカカシの彼女だよ」
「えー?」
アスマの言葉を冗談だと思ったのか、上忍仲間は軽く驚きの声をあげて笑った。


あとがき??
なんでアスマ先生主観の話なんて書いてるんだ、私は。
第三者から見たサクラちゃんといる時のカカシ先生が書きたかったのかな。
なんだかアスマ→カカシちっく?おろおろ。

実は続きがあったり。アスマ先生といのがメインの。
でも、アスいのというよりは、いのサクかな??


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