ずっとあなたが好きだった


中忍になって7班が解散してからだいぶ経つ。
サスケくんやナルトとは部署が違ってしまって、会う機会も減った。
そんなある日、信じられない噂を聞いた。

サスケくんに彼女ができたらしい。

最初は耳を疑った。
私が何度も、何度も、アタックしては見事玉砕しつづけたサスケくん。
昔から彼はよくもてた。
どんな女の子がサスケくんに告白しても、彼は決して振り向くことはなかった。
そのサスケくんに彼女。
サスケくんの隣りに女の子がいる場面を私はどうしても想像できなかった。
噂はただの噂。
まるっきりデマである可能性だってある。

でも、次の休みを利用して私はさっそくサスケくんに会いに行き、噂が紛れもない事実だったことを知ることになった。

 

その人の第一印象は、天使のような人。
屈託の無い明るい笑顔。
彼女は忍者でもないし、とりたてて美人でも、スタイルがいいわけでもなかった。
けれど、彼女にはそんなものは必要ではないと思わせる魅力があった。

彼女がいるだけで、周りはいつも笑い声であふれる。
そして、何よりもサスケくんがとても嬉しそうに笑っている。
今までずっと彼を見つめてきたけど、あんなに朗らかに笑える人だとは思わなかった。
サスケくんは彼女の隣ならあんなふうに笑えるのだ。
私にはどうしても出来なかったことを、彼女はいとも簡単にしてしまう。

私は彼女がとても羨ましいと思ったけど、サスケくんが幸せなら私も嬉しかった。
本当に本当にサスケくんが好きだったから。
いつかこんな日が来るのではないかと内心ではいつも怯えていた。
でも、実際には私の心はそれほど動揺しなかった。
ただ安堵した。
いつも瞳に孤独を湛えていたサスケくんが、ようやく安息の場所を得ることができたのだ。
それが私でなかったことは寂しいけど、それでもいいと思った。
残念というより、彼女が名の通った忍の一族の出身でなかったことが、私はとても嬉しかった。
うちは一族の名前にあれだけこだわっていたサスケくんが選んだのは、忍の世界とは関わりのない民間出身の女の子。
サスケくんは一番大切なものを見つけた。

 

「サクラ」
家路を歩いていると、懐かしい声が背後から聞こえてきた。
私が所属していた7班の担当だったカカシ先生。
今はまた、昔の私達のような下忍の先生をしている。
「久しぶりだな」
カカシ先生は昔のように私の頭に手をおいてポンポンと叩く。
「もー、カカシ先生。いつまでも子供扱いしないでよ。私だって中忍なんだからね」
「ハハハ、悪い悪い。でも俺から見たら、サクラはまだまだ子供だって」
俺から見たらってカカシ先生いくつなのよ、と言おうと思ったけどまともな答えが返ってくるとは思えなかったのでやめた。

私とカカシ先生はあたりさわりのない話をしながら並んで歩く。
そのうち、自然と会話の内容がナルトやサスケくんのことに移ってきた。

「サスケのこと聞いて、様子見に来たんだろ?」
どうして知ってるんだろう。
上忍って、くだらない噂話にも耳が早いのだろうか。
どうやら、私がそう思っていたのが顔に出ていたらしく、カカシ先生は笑いながら言った。
「ナルトがこないだわざわざ家に来て知らせてくれたんだよ」
ナルトならいかにも皆に言いふらしそうだったので、私は納得した。

「で」
「で、って?」
「私のサスケくんに近づかないでよとかなんとか言ってこなかったのか?」
「・・・そんなことしないわよ」

カカシ先生、私のこと誤解してるわ。
どんな彼女なのか確かめに来たのは本当。
でも文句を言おうとか、そういう気持ちじゃなかった。
サスケくんが私以外の人を選んでも、誰かを幸せにしてあげたい、自分も幸せになろうという気持ちを持ってくれれば、それで満足なのだ。
それって、変だろうか。
私は自分の気持ちをそのままカカシ先生に打ち明けてみた。
するとカカシ先生はこう言った。

「サクラは大人だなぁ」
「なによ。さっきは子供扱いしてたくせに」
膨れる私に、カカシ先生は苦笑している。
「そういうところがまだ子供っぽいんだよ。きっとお前のサスケへの気持ちは”好き”じゃなくて、”愛してる”だったんだ」

昔の偉い人が言ったらしい。
見返りを求めないものが愛なのだと。
愛にはいろいろな種類があって、私にはその区別がまだよくわからない。
でも、憧れから始まった私のサスケくんへの想いは、愛し合っている二人の仲を引き裂いてまで彼を奪う激しさは最初から持てない気持ちだったのかもしれない。

私、いつからサスケくんが好きだったんだっけ。
カカシ先生との会話が途切れたことで、私は自分の過去に思いをはせた。

 

小さい頃から、私はいつも人から良い子だと思われていたくて、仮面をつけていた。
周りの様子を窺って、心の中の声とは正反対の言葉を言う。
勉強だって誉めてもらえるのが嬉しくて、自慢したくてやっていたようなものだ。
でもそのうち成績が下がったら急に見向きもされなくなるかもしれない、と怖くなって必死に勉強するようになった。
毎回試験でトップの成績をとってくだらない優越感に浸っている自分。
そんな自分自身が時々どうしょうもなく嫌になった。
私がサスケくんのことを好きだったのは、私のように必死な様子はないのに、何事も完璧にこなす彼の姿に憧れていたからかもしれない。

でも、そうした私の努力も下忍になったらあまり意味のないものになってしまった。
任務の時に必要なものは、何よりもまず術を維持しつづけることのできる体力。
そして、私のミスで7班は任務の失敗が続いたことがあった。
サスケくんにきつい言葉を言われたこともあって、私は無理な特訓を一人で続けた。

「そこまでしなくてもいいよ。サクラはサクラの出来ることからやれば良いんだから。サクラの知識が役に立つ時は絶対にくるよ」
どうして知ったのか、カカシ先生が特訓を続ける私の前に現れて笑顔でそう言ってくれた。
カカシ先生のその言葉で、何だか張り詰めていた緊張がとけて、とても楽な気持ちになった。
その後泣き出してしまった私を、カカシ先生が優しく抱きしめてくれた。
カカシ先生がとても暖かいと感じたことをよく憶えている。
そして気が付いたのだ。
カカシ先生の前では、ありのままの自分でいることができることに。
あまりに自然に、空気のように傍にいてくれるから、全く気づかなかった。

 

今だってこうして隣にカカシ先生がいるというだけで心が安らいでいる。
他の人では決して得ることのできない安堵感。
私にとって、カカシ先生はとても貴重な人だ。
カカシ先生に愛された人はきっととても幸せになれるだろう。
そんな考えが頭に浮かぶと、私はもういても立ってもいられない気持ちになって、つい言ってしまった。

「カカシ先生」
「ん?」
「私と恋してみない」

カカシ先生はあっけにとられた顔をして自分を見たかと思うと、数秒後には大爆笑した。
顔に手を当てて必死に笑いを止めようとしているらしいけど、それでも止まらない。
カカシ先生がこんなに笑ったのを初めて見たので、私は怒るよりびっくりしてしまった。
何がそんなにおかしいのだろうか。
我ながら恥ずかしい言葉だったと思うが、こんなに凄まじい反応が返ってくるとは思わなかった。
そのうちむせて気持ち悪くなったらしく、座り込んでまだ肩を震わせているカカシ先生の背中をかるくさすってあげる。

「カカシ先生、笑い死になんてしたら恥ずかしいですよ。上忍として」
「ス、スマン」
カカシ先生はまだ荒い呼吸をしながら、なんとか立ち上がる。
「サクラの申し出はとても有難いけど、無理な話だなぁ」
笑いすぎて涙のでた目の端をこすりながらそう答えた。
私は多少がっかりしてカカシ先生を見上げる。
「それはもう彼女がいるから?それとも私に魅力がないから??」

「俺はもうずいぶん前からサクラに恋してるから」
カカシ先生の言葉に、今度は私の方があっけにとられる番だった。


あとがき??
ただ単にサスケに彼女が!!って話を書いてみたかったらしい。そんだけ。
サクラちゃんには悪いけど、恋してみない?なんて真顔で言われたら、私だって笑うかと。
すみません、すみません。
リーくんが言いそうな言葉だなぁ。
タイトルはサクラちゃんのことでもあるし、カカシ先生のことでもある。

サクラちゃんのサスケへの気持ちはとっくに過去のものだったのね。
で、彼女の恋はいつの間にか仲間を思う友愛へと昇華していった様子。
それはカカシ先生の影響が大きかったのだろうけど。
だからショックじゃなかったのか。
ということに人様からの指摘で気づきました。駄目じゃん。(汗)

原作のカカシ先生とサクラちゃんが良い雰囲気になるとしたら、こんな感じかなぁと思った作品。


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