プラトニック・ラブ


金曜日の午後8時頃、浮気がばれました。
口紅のついた歯ブラシを見て、彼女は出て行きました。

 

「で、お前はこんなところで飲んだくれてるわけ」
「だってしょうがないだろうー」
酒の入ったコップを片手にカカシはすっかりやさぐれている。
「俺は健康的な若者なんだから。サクラに夜の相手させるわけにいかないしー」
次第にカカシの声は涙まじりのものになってくる。
屋台で飲んでいる客はカカシとアスマの二人だけだが、泣き言をいっているのが上忍のカカシだと分かれば驚く者もいるだろう。
それほど今のカカシは力のない、沈み込んだ表情をしていた。

「大体、浮気なんだからいいじゃないか。本気じゃないんだから」
「いや、そういう問題ではないと思うが」
アスマの的確な突っ込みも聞こえていない様子で、カカシは独り言のように呟いている。
「あーあ。あと10年、いや、せめて5年、後に出会ってたらなぁ」
サクラは今でも十分可愛いけれど、5年もすればさぞや美人くの一になることだろう。
カカシは試しに5年後のサクラを想像してみた。
胸も腰もふくよかになった、匂い立つばかりの美しさを備えたサクラ。

「・・・5年かぁ」
「おい。もうそろそろ帰った方がいいんじゃないか」
意味不明なことをぶつぶつと言ってにやけているカカシは、アスマの目に相当不気味に映っているらしい。
怯えた瞳で自分を見るアスマに、カカシは溜め息をつく。
「わかったよー」

 

「酷いでしょー。これで何度目だと思っているのよ、あの人は!」
「はいはい」
サクラの言葉に、いのは適当に相槌をうつ。
いきなり家に押しかけて来たと思ったらずっとカカシに対する愚痴を聞かされて、いのはかなり迷惑している状況だ。
「そりゃ私は子供だし、胸だって全然なくて人一倍なのはこのおでこだけだけど、こう何度も何度も浮気することないじゃないのよ」
「そーねー」
「それにね、私のことはあと5年もすれば解決する問題だと思うのよ」
「そーねー」
いのの返事もすでにおざなりだ。

「ちょっと聞いてるの」
サクラはムッとした表情でいのに詰め寄る。
「聞いてるってば。それよりそろそろ帰らないと親心配してるんじゃないのー」
サクラが時計に目を向けると、すでに深夜とよべる時間になってた。
頭に血が上っていたサクラは時の経過も忘れるくらい熱弁していたらしい。
いくらいのの家にいるから遅くなると連絡してあるとはいえ、心配していることだろう。

「・・・帰る」
サクラはやおら立ち上がると、元気のない声で言った。
「一人で大丈夫―」
サクラはいのの言葉に「平気平気」と返事をしながら、彼女の家を後にした。
サクラの家は、いのの家から目と鼻の先だ。
サクラも一応忍びなのだし滅多なことはないだろうと思いながら、いのは夜の闇に消えていくサクラの後姿を見送った。

 

小さな灯りのともる人気のない街路を、サクラは足元の小石を蹴りながら歩く。
空には満天の星が煌いている。

冷静になってみると、自分の行動は関係のないいのに不満をぶつけていただけだ。
誰かの悪口を聞かされて良い気分になる人間はいない。
反省したサクラは肩を落としてうなだれた。
再度小石を蹴り上げながら考える。
カカシが浮気を繰り返すのはやはり自分に魅力がないからなのだろうかと、サクラはさらに気分を暗くした。

「・・・5年かぁ」
サクラの口から出た呟きは図らずも、カカシがアスマの前で漏らした言葉と全く同じものだった。

 

サクラとカカシは時と場所を違えながらも、お互い共通の想いを胸に抱いた。

5年後ならば、理想的な関係。
外見的には、付き合っていたとしてもおかしくない。
人目をはばかって会う必要もなくて、自分達の関係を公にできる。
それはそれは素敵なことだ。

でも。

5年後に出会えたとしても、果たして自分達は恋人同士になれただろうか。
もしかしたら、今よりもっと障害が多くなっているかもしれない。
なにより5年もあの人に会えないで過ごす人生なんて、もう想像できない。

 

そう考えたら、なんだかとてもあの人に会いたくなった。
5年後ではなく、今出会えたことも、きっと運命。
今の自分達にしかできないことがあるはずだから。

 

 

「サクラ」
玄関で自宅のチャイムを鳴らす前に、呼び止められる。
その声から、すぐに誰なのか分かった。
サクラは振り向く前に、表情を作るため顔を軽くなでた。
浮気したことをまだ怒っているのに、その顔を見たとたんに笑顔になってしまいそうだったから。
会いたいと思っていた人物が目の前にいるのに、笑うなという方が難しい。

「何しに来たのよ」
振り返ったサクラは表情を強張らせながら言い放つ。
その厳しい声音に、カカシは少なからず動揺した。
これまでのサクラだったら怒るだけ怒ったら、次に会った時には渋々ながら自分を受け入れてくれた。
もしかして、別れ話を持ち出されたりするのだろうか。
最悪の事態が頭をよぎり、カカシはよけいに落ち着かない気持ちになった。
とにかく、言い訳の言葉を聞くこともなく部屋を飛び出していったサクラに、カカシはあらためて謝罪する。

「悪かったよ。もうしないから」
「この前もそう言った。全然反省してないじゃない!」
言葉につまるカカシに、サクラはさらに続ける。
「先生は私みたいな子供の相手してるより、美人のお姉さんといた方が楽しいんでしょ。それなら最初から私と付き合ったりしなければいいじゃないのよ。どうせ私のことなんて大事じゃないんだから」
感情のまま金切り声をあげていたサクラだが、声のテンポは段々と緩やかになる。
「だから・・・・」
後はもう声にならなかった。
サクラは俯いたまま嗚咽している。

怒っていたはずなのに、涙がとめどなく流れてくる。
カカシが何度浮気をしても、サクラの頭に「別れる」という単語が浮かんだことはない。
それでもそばにいたい。
いつの間にこんなにカカシ先生のことが好きになっていたのかと、サクラは悔しくなった。
カカシ先生は浮気をしているのに、自分ばかりが好きだなんて、理不尽だ。

 

興奮して真っ赤な顔になりながら手で頬の涙をこするサクラに、カカシは途方に暮れて立ち尽くす。
目の前のいとおしい人を悲しませている自分は、この世で一番罪深い人間だと感じた。
なにより大切なのに、いつも泣かせてばかりだ。

カカシが手を伸ばすと、サクラは抗議の声をあげながら暴れだす。
「先生、お酒くさいー。離れてよ」
カカシは自分を押しのけようとするサクラに全くかまわず、彼女を抱きしめて言った。
「本当にごめん。5年は無理だけど頑張ってもう少し辛抱するから、早く大きくなってね」

 

・・・辛抱って、何をだろう。

サクラは疑問に思ったが、カカシのその切実さを含んだ声にどうしてか言葉が出なかった。


あとがき??
冒頭は大江千里の歌っぽいです。歌詞ちょっと違うけど。ああ、曲名ど忘れ。(それでもファンか)
大江千里ってもうドラマ出ないのかしらね。
『十年愛』は忘れられない。
大江千里がメリーゴーラウンドで事故死した伝説のドラマ。「まさみー」って感じで。
メリーゴーラウンドでどうやったら死ねるんだ。お子様の安全な乗り物なのに。お笑いじゃないんだから。
最初はトラックにひかれるとかいうまとも(?)な設定だったのに。(泣)
あら、内容と全然関係ない話を。失礼。

冒頭の部分を使いたかっただけな話。
サクラちゃんを大切にしてるからこそ、浮気しちゃうカカシ先生。なんか矛盾してるなぁ。
まぁ、あと2、3年は頑張って耐えてくれ。
その前に、家の前でいちゃこいてて、サクラの両親飛び出してきたりしないのかしら。(笑)
よく考えたら、お子様にはよく分からない内容の話のような。あれ?
今回の被害者は10班の人達でした。
ちなみに、途中のモノローグは2人の気持ち。(分かりにくい話書くなって)

暗い部屋ではいろいろ書いちゃってますが、私、カカシ先生にはもう暫らく耐えて欲しいのですよ!!(力説)


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