となとな どもども


「カカシ先生、起きてーー!!」
「うわっ」
サクラがベッドにダイブし、寝起きの悪いカカシもさすがに目を覚ます。
体重の軽いサクラのことだからたいして痛くはなかったが、それでもかなりの衝撃だった。
カカシがもぞもぞと掛け布団から顔を出すと、サクラがすぐ間近でその顔を覗き込んでいる。
「先生、ナルトが待ちくたびれて居眠りしてるわよ」

任務のたびに、ゆうに3時間は遅れて集合場所に現れるカカシに痺れを切らしたサクラは、待ち時間が1時間を過ぎるとカカシの家まで迎えに行くことにしている。
小さな子供じゃあるまいし、とぶつぶつ文句を言いながらも、サクラは毎朝やってくる。
だが、サクラが起こしに来ることが、さらにカカシの寝坊癖に拍車をかけていることをサクラは知らない。
カカシがサクラだけに家の鍵を渡した意味も分かっていないだろう。

「サクラ、おはようー」
「早くないのよ。遅いの!早く支度して、きゃあっ」
サクラの苦情は途中で遮られる。
カカシによってベッドの中に引きずり込まれたからだ。
「先生、遊んでる場合じゃないんだってば」
真っ赤になったサクラが慌てて這い出そうとするが、しっかりと身体を抱きしめられているために全く身動きできない。
動揺するサクラにはかまわず、カカシはいつもののんびりとした口調で話す。
「サクラはやーらかくてあったかいなぁ。一緒にもう一眠りするか」
「冗談じゃないわよー!離してぇ」
足をばたつかせて抗議するサクラに、カカシはにっこり笑って顔を寄せた。
「じゃあね、サクラがキスしてくれたら起きる」
「え、ちょ、ちょっと」

 

「カカシ先生、遅いーーー」
ようやく現れたカカシにナルトは不満をぶつける。
サスケはいい加減慣れたのか、何も言わずにカカシを一瞥しただけだ。
「あれ、先生、顔どうかしたの」
見ると、マスクで隠されていない部分の頬が少し赤くなっている。
「ああ、ちょっと猫にひっかかれちゃって」
「・・・・へぇ」
カカシの隣りで彼を睨んでいるサクラに事情を何となく理解したのか、ナルトはそれ以上追求しなかった。

 

「サクラー。まだ怒ってるのー」
「当たり前でしょ。嫌だって言ったのに」
籠を片手に後ろをついて歩いてくるカカシに、サクラはつっけんどんな返事をかえす。
7班の今日の任務は山での山菜取りだ。
カカシによって作為的にカカシとサクラ、ナルトとサスケ、と作業は分担して行われている。
二人は先ほどから任務そっちのけで痴話喧嘩を続けていた。

「あれからちゃんと急いで支度しただろ。飯抜きで来たってのに」
「当然よ。ただでさえ遅刻してるのに、ご飯作って食べてたりしたら、何時になってたか分からないわよ」
自分の肩に置かれた手を振り払い、サクラは冷たく言い放つ。
直後に、カカシの腹が大きな音で鳴った。
カカシが思わず山菜の入った籠に目をやると、サクラが目くじらを立ててがなりたてた。
「先生、駄目よ!これは依頼した人のためのものなんだから」
まだ何も言ってないのに、とカカシは思ったが、サクラの言葉はカカシの意向をよく読み取った発言だったことは間違いない。

 

午前中のうちに予想以上の収穫を得ることができ、任務は早々に終了となった。
定められた場所で集合した7班は、山を出て次の目的地へと移動を始める。

「じゃあ、あとはこれを依頼人のところに持って行って・・・・」
言葉の途中で、カカシの目はナルトの手元に釘付けになっていた。
ナルトは林檎、らしき果物をかじって嬉しそうに歩いている。
それは大きさや形は林檎そっくりだが、林檎ではありえない水色をした果物だ。

「・・・どうしたの、それ」
「森で見つけたー。依頼内容は山菜だけだから、これは俺が食っても良いんだよね」
ナルトの言うと通り、採取するよう依頼されたのはワラビやゼンマイなどの山菜で、ナルトが果物を食べていても咎められることではない。
だが、「うめー、うめー」と連発するナルトに、カカシはついに我慢できなくなった。
任務終了後にサクラを連れてどこかに食べに行こうと思っていたカカシだが、すでに空腹は限界のところまできている。

「よこせ」
「あああーー」
カカシがナルトの持っていた果物を取り上げると、ナルトはその足元でバタバタと暴れている。
「何するんだってばよ」
カカシはナルトが手の届かない高いところにその果物を掲げて悠然と言った。
「生徒のものは俺のもの。俺のものは俺のものなの」
「横暴だー!」

見たことのない果物だが、食べたナルトが平然としているのだから大丈夫だろうと、カカシはその果物を口に運ぶ。
名も知らぬ果物は、今まで全く感じたことにない新鮮な味がした。
酸味があるのに甘くて、どの果物とも異なった味。
確かに美味い。

どうせならもう2、3個取ってくれば良かったのに。
気が利かない奴だなぁと、カカシが勝手なことを考えていると、ふいに、身体に妙な違和感をかんじた。
それが何なのかはすぐには分からない。
カカシが唐突に襲った眩暈に座り込むと、隣りを歩いていたサクラの叫び声が耳に響いた。
「カカシ先生ー!?」
カカシが感じた眩暈は、視点が急に下がったために起きたもの。

唖然とする下忍達の視線は、自分達とそう変わらない、いや、さらに小さい子供の姿になったカカシに集中していた。

 

「そういえば聞いたことがあるわ。この山の森、奥深く、『となとなの実』と『どもどもの実』と呼ばれる悪魔の実が自生してるって」
「悪魔の実?」
初めて聞く単語に、ナルトは興味津々な瞳でサクラを見た。
ショックから未だ立ち直れないものの、カカシはサクラの話を珍しく真顔で聞いている。
その服は袖と裾の部分を捲くっているだけの、かなり不恰好な様子だ。

「それを食べると身体がいろいろと変化する不思議な実なのよ」
「でも、俺はなんともなかったけど」
「たぶん、あの果物は『どもどもの実』の方ね。食べると子供の姿になっちゃうの。どれくらい小さくなるかは個人差があるし、ナルトはもともと子供で小さいから分からなかったのね」
納得しつつも、ナルトは「小さい」と言われたことに口を尖らせている。

「逆に『となとなの実』を食べると大人の姿になるみたいよ」
「そんなことはどうでもいいから、この実の効力はいつまで続くんだ」
サクラの薀蓄を遮り、カカシは頭を抱えながら訊ねる。
サクラは笑顔で速答した。

「一生」

 

「おい」
倒れこんだまま動かないカカシを横目にサスケがサクラに声をかける。
するとサクラはサスケに目配せして沈黙を促した。
その顔は笑いを噛み殺している表情だ。
サスケは腕を組むと、嘆息して地表に転がるカカシに視線を向けた。
そんな二人のやり取りは、真っ青な顔をして落ち込んでいるカカシには全く気付かれていない。
下忍の中でナルトだけが親身になって、カカシに慰めの言葉をかけている。

「カカシ先生、別に命に別状はないんだし、立ち上がってよ」
「・・・・無理。俺はこのまま死ぬ」
「先生―」
いつまでたってもその場を動こうとしないカカシをナルトがゆする。

「一生子供の姿のままだなんて、あんまりだ・・・」
しくしくと涙するカカシにサクラが近づいた。
「カカシ先生、大丈夫よ」
サクラの呼びかけにカカシはようやく顔をあげる。
「カカシ先生がずっと子供のままでも、見捨てたりしないわよ。ね、ナルト」
「そうだよ。どんな姿でも先生は先生だってばよ」
サクラとナルトの言葉にカカシは感涙している。
「お前達・・・」

カカシは二人を抱きしめようとしたが、いつもとは勝手が違う。
ただ二人にしがみついているような格好だ。
カカシが格好悪いなぁと一層しょげかえっていると、その身に再び変化が起きた。
先ほどと同じような眩暈。
カカシは倒れそうになるのを何とか堪えて額を押さえた。

 

「あれ、一生戻らないんじゃなかったの」
「嘘に決ってるだろう」
元に戻ったカカシを見て驚いているナルトに、サスケは呆れた顔をする。
「そんな危険な実があるのなら、もっと里の人間に警戒されてる。すぐに戻るからあまり知られていないんだ」
すっかり気抜けしてぼんやりしているカカシにサクラは無邪気な笑顔で言った。
「えへへ。朝のお返しー」

 

 

次の日の任務はよくある迷い犬捜し。
7班は個別に森を探索していたが、今回の手柄はナルトだった。
すでに集合場所にはサクラ以外の全員が揃っている。

犬を抱えるナルトのポケットが大きく膨らんでいることに気付いたカカシは、何とはなしに訊ねた。
「それ、何入れてるんだ」
「ああ、また美味しそうなもの見つけたんだってばよ」
犬を下におろすと、ナルトはポケットの中身をおもむろに取り出した。
それは、林檎とよく似た橙色の果物。

沈黙したカカシとサスケはナルトの手の上の果物を凝視する。
色は違うが、昨日目にした『どもどもの実』にそっくりだ。
ということは。

「何処へ行く」
ナルトから奪った実を手に退散しようとするカカシの腕を掴み、サスケが誰何した。
「お前、何か良くないことを企んでいるだろう」
「え、ただちょっとこれをサクラに食べさせてみようと思っただけだよ。『となとなの実』だったら、ラッキー、サクラにいたずらしよー、とか全然考えてないよ」

 

暫くして集合場所に現れたサクラは、ぎゃあぎゃあと騒がしく取っ組み合いをしている三人に呆然として呟いた。

「皆、何してるのよ・・・」


あとがき??
なんだかエロくさい・・・。
カカシ先生、朝、チューだけで満足したんだろうか、とよけいなことを考えたりして。(ゲホゲホ)
でも、あのサクラちゃんの怒りようからすると、やはり・・・。
いえ、何でもないです。(=_=;)

そして、悪魔の実が登場。(笑)
すぐ治るみたいなので、ワンピに出てくる悪魔の実とは別物ですね。
カカシ先生、大人気ないです。どこのガキ大将でしょう。(汗)

リクエストは「何のはずみか子供になってしまったカカシと驚きつつも何となく優越感なサクラのお話」。
ちょっと違うかなぁ。申し訳ない。

5800HIT、ためぞう様、有難うございました。


駄文に戻る