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好きの気持ち
「アスマ先生に好きって言われたのー」
「へぇ、良かったわね」日曜日の昼下がり、いのは隣りに歩くサクラに嬉々として告げた。
会話をしたことはないが、サクラの目から見てもアスマは苦みばしった良い男だ。
以前から、いのがアスマに密かに想いを寄せていたことを知っていたサクラは、素直に喜ばしい事だと思った。いのがあの言葉を言うまでは。
「サクラは。サクラはいつ好きって言われたのー」
「・・・・え?」
「え、じゃなくて、あんたもあの上忍の先生と付き合ってるんでしょ。どっちが告白したのよ」
「・・・・・」神妙な顔つきになったサクラは必死に頭を巡らせる。
確かにサクラとカカシは付き合っている。
しかし、どちらかが告白をした、という記憶はついぞなかった。
自然、側にいたら二人は付き合っているということになっていた。
いや、いつから付き合い始めたのか以前に。
サクラはカカシの口から「好き」という言葉を聞いたことが。
ない。
その事実に、サクラは改めて愕然とする。「ちょっと、大丈夫なのー」
立ち止まったかと思うと、青ざめて口元を抑えているサクラに、いのが心配そうに声をかけた。
「何、俺の顔に何かついてる?」
任務中、ずっと自分を睨むようにして見詰めていたサクラに、カカシは不思議そうに訊ねる。
「・・・・別に」
サクラは言葉と共に視線をカカシから外した。任務終了後、サスケの姿はすでにないが、ナルトはいつもどおりサクラにまとわりついている。
「ねーねー、サクラちゃん。ラーメン食べに行こうよ。ラーメン」
「あんたねー、二言目にはラーメン、ラーメンって、他に言うことないの!」
怒鳴り声をあげるサクラに、ナルトはしょんぼりと肩を落とす。
「・・・だって、好きなんだもん。ラーメン」
「そう。私はあんたが嫌いよ」久々に耳にするサクラの「嫌い」の言葉に、ナルトはショックを隠し切れない。
両手を腰においてそっぽを向いているサクラを尻目に、ナルトはカカシに泣きつく。
「カカシ先生―、サクラちゃんが俺のこと嫌いだってーー!!」
「はいはい。可哀想に」
明らかに迷惑そうな声を出しながらも、カカシはナルトの背中を叩く。
カカシはいつから俺は幼稚園の保父さんになったのかと、自問した。「ガガジ先生は俺のごど好ぎーー?」
ナルトは涙でぐしゃぐしゃになった顔でカカシを見上げる。
カカシはあやすようにしてナルトの頭をなでると、軽い口調で言った。
「好き好き。だから泣きやめって。ほら」
手渡されたハンカチを片手に、ナルトがようやく泣き言を止める。そしてサクラは聞き捨てならないカカシの台詞に大仰な動作で振り返った。
つかつかと真っ直ぐにカカシに歩み寄る。
「カカシ先生!」
「な、何だ」
強張った表情のサクラに、カカシは少しぎょっとして答える。
「私は。私のことは」
サクラの真剣な声音とは対照的に、カカシはやんわりと言った。
「サクラは、可愛いよ」ドスッ
間髪いれずにサクラの拳がカカシの腹にめり込み、サイドにいるナルトは口をあんぐりと開けたまま表情を固まらせている。
拳を引くと、サクラは涙をためた瞳でカカシに一瞥を投げた。
「馬鹿!」
吐き捨てるように言って、サクラは全速力で走り去って行く。
暫くしてサクラの後ろ姿が見えなくなると、ナルト小さく呟いた。
「・・・・こえー」
その言葉が全てを物語っている。腹を抱えてうずくまっているカカシを見て、ナルトは眉尻を下げた。
「先生―、何でよけなかったの。上忍なのに」
座り込んだままナルトを振り仰ぐと、カカシは逆に問い掛ける。
「じゃあ、何でお前はいつもサクラの拳骨よけないんだよ」
「それは・・・」
口篭もるナルトにカカシは顔を綻ばせた。
「同じ理由だよ」
夜になってもサクラは昼間のことを思い出し、自室でぷりぷりと怒っていた。
ナルトにはあっさりと「好き」と言ったのに、自分には言ってくれなかったカカシに。「何よ。私は先生にとってナルト以下だっていうの」
サクラは自らもらしたその言葉に、気分を滅入らせる。
側にいて自分はとても楽しかったけれど、カカシ先生にとっては態の良い暇つぶしでしかなかったのかもしれない。
そう思うと、とたんに瞳に涙がにじんだ。
サクラは涙を隠すようにクッション顔にのせると、ベッドに寝転がりながら考える。
自分の気持ちを全く理解してくれないカカシが腹立たしかったが、あれはやりすぎだっただろうかと少しだけ反省する。罪悪感がめばえてくると、サクラは急にカカシの顔が見たくなった。
包容力のあるカカシの腕が懐かしい。
ナルトやサスケのような少年らしい細さを残した腕では決して感じることのない安堵感。
あの腕に抱きしめられると、サクラは他のどんな時よりも安心できるのだ。知らぬ間にうとうとしていたのか、ふいに聞こえた物音にサクラは目をぱちくりと瞬かせた。
窓ガラスを誰かが叩いている。
サクラの部屋は二階である。
夜中に自分の窓を叩くような非常識な人間はあの人しかいないだろうと思いながらも、サクラは警戒して窓に目をやった。
そこには案の定、サクラがよく見知った人物がいた。「別れましょう」
窓が開かれて即言われたその言葉に、カカシは心底困った表情をしてサクラを見た。
「絶対別れないよ」
「なら言ってよ。一言でいいんだから!」
「嫌」
二人の押し問答はかれこれ1時間は続いている。サクラはあれからはっきりと言った。
「好きと言ってくれなければ別れる」
対してカカシの答えは
「サクラにだけは一生言わない」
というものだった。
その直後、カカシは怒り心頭のサクラによって再び殴られている。以後、二人の会話はどこまでいっても平行線だった。
「どーして言ってくれないのよ!」
ついに涙を落とし始めたサクラはヒステリックな声をあげる。
「私のこと嫌いなの」
濡れた瞳を自分に向けるサクラに、カカシは頭をかきながらため息をついた。
「・・・反対」
すっかり観念した様子で両手を上にあげて降参のポーズをすると、カカシはサクラを見詰めながら言った。
「人は嘘をつく生き物だから」
瞬間、カカシの瞳に暗い影がよぎったのを、サクラは見逃さなかった。
「本当に大切な人が出来たら、気持ちは言葉じゃなくて態度で表そうって決めてたんだ」
長い間忍びの世界で生きてきたカカシは、人の言葉に欺かれた経験など数え切れない。
またカカシも、いくつもの嘘を重ねて生きてきた。
言葉がどれだけ信用できないかは、身にしみて分かっている。
だからこそ。
カカシはサクラを想う気持ちを、言葉などで表現したくないと思っていた。
言葉にすると、純粋な想いも俗物的なものに変化してしまうような気がする。
それに言葉にしなくても伝わる、大事なものは必ずあるはずだから。
「サクラなら分かってくれてると思ってたんだけど」
サクラの頭をなでると、カカシは屈んで彼女の顔を覗きこむ。
「まだ俺の愛情足りないかなぁ」
二人きりの時にしか聴けない、優しい声。サクラは唇を噛み締めて俯いた。
身近にいて安心できたのは、きっと愛されていたから。
ようやく、そう理解する。
同時に、あさはかだった自分に、サクラは身を隠したいほど恥ずかしい気持ちになった。サクラにだけは一生言わない。
先ほどのカカシの言葉がサクラの胸に染み込んでくる。
自分を包んでくれる暖かい腕。
それが一生自分のものになるのなら、言葉なんていらないかもしれない。
「・・・ごめんなさい」
小さく呟くサクラに、カカシは微笑して手を差し出す。
その腕の中に収まると、サクラはどこか満ち足りた気分でカカシの胸に頬を寄せた。
あとがき??
『TOOCA』を読んだら書きたくなった。そのまんま。
好きという言葉を使わない好きもいいかなぁと。
なんだか、当然のようにアスいのが入ってる。(笑)