イノセント U


「何だ。イルカ先生も一緒だったんですか」

食材を片手に店から出てきたイルカを見て、カカシは安心して笑った。
元々はイルカが得意料理のエビグラタンをナルトの家に作りに行くという話だったのだ。
それを聞きつけたサクラが自分も行くと言い、いつの間にか泊まりに行くという話まで発展した。
事情を聞いて少し元気を取り戻したカカシはナルトの家に向かう三人と共に歩いている。
アスマはもう用なしとばかりにさっさと姿を消していた。

「俺に急な仕事が入って、こんな時間になってしまったんですよ。悪かったな。腹へっただろ」
カカシと会話していたイルカは、後半の言葉を、後ろを歩いているナルト達に向けて言った。
「全然大丈夫だってばよ」
「先生の料理、楽しみよ」
ナルトとサクラは口をそろえて嬉しそうに笑った。
顔を見合わせてにこにことしているナルトとサクラにカカシは鋭い視線を向ける。

二人共、随分仲が良さそうだ。
それに、サクラもナルトもカカシといる時より、イルカといる方が楽しそうに見える。
嫉妬の感情から、カカシの眼が段々と据わってきた。
だが鈍いイルカはそのことに全く気付かずカカシに話し掛けていた。

 

「じゃあ、この道を行けばもうナルトの家なんで」
「カカシ先生、バイバイー」
「また、明日。遅刻しないようにしてね」
「・・・・・」

別れの言葉をかける三人に、カカシはただ無言でイルカを見詰めた。
その眼は何かを訴えている。
ナルト達は目線が違うため、無言の重圧がイルカ一人に圧し掛かった。

これはもしかして、あれだろうか。
さすがに空気を察したイルカは額に汗をにじませながら頭の中で考えをまとめる。

「あの・・・ご一緒しませんか」
「そうですか。悪いですね」
イルカの誘いに、カカシはようやく表情をやわらげてにっこりとした。

 

「サクラさ、本当にナルトが好きなの」
「何よ。薮から棒に」
ナルトの家につき、サクラが洗面所で一人になったところを見計らってカカシはさっそく問い掛けた。
キッチンではおそろいのエプロンをつけたイルカとナルトが料理に取り掛かっている。

「恋愛感情とはちょっと違うかもしれないけど、ナルトのことは可愛いと思うわよ」
サクラの曖昧な答えに、カカシは喜んでいいのか、そうでないのか、微妙な表情をした。
「ナルトといると、こう、温かい気持ちになって和むのよ。これね、ナルトが私に取ってきてくれたの」
サクラは手にしたコップをカカシに見せた。
水に浸かっているのは、野草と一緒に生えている貧相な花だ。
だけれどサクラは嬉しそうに顔を綻ばせている。

「お金を出せばもっと良い花は買えるだろうけど、私のために花をつみに行ってくれるその気持ちが嬉しくて」
「サクラちゃん、サクラちゃん」
サクラの言葉が終わらないうちに、ナルトがキッチンから飛び出してきた。
「これ、俺が作ったんだ。食べてみて」
にこにこ顔のナルトが小皿を片手に駆けて来る。
その様はすっかり主人になつく仔犬だ。
「ね、可愛いでしょ」
カカシを仰ぎ見たサクラは優しい微笑みを浮かべていた。

 

次の日、『はたけカカシ失踪』の報が里を駆け巡った。

あの写輪眼のカカシ行方不明。
曲者が侵入したのではと、木ノ葉の里は騒然となる。
だが、カカシの住居に荒らされた形跡はなく、忍び達は更に混乱した。

「まぁ、あいつのことだから、数日したらひょっこり戻ってくるだろうさ」

火影様のその言葉から、捜索隊が出されることはなかった。
そして、数日後。
カカシは本当にひょっこり姿を現したのである。
サクラの前に。

「か、か、カカシ先生―――!?」
「よぅ」
「よぅ、じゃないわよーーー!!!どこに行っていたのよ。心配したんだからね!」
ずかずかと足を踏み鳴らしてカカシに近づいたサクラは、カカシのいでたちにぎょっとして足を止める。
そしておずおずと声を出した。

「あの、先生、何だか傷だらけなんだけど」
「ああ。ちょっとね」
カかシは軽い口調で返事をしたが、その姿は満身創痍。
そこかしこに巻かれた包帯は痛々しく、よく見れば傷口から血がにじんでいた。

「はい、これサクラにお土産」
言葉と共に差し出された一輪の花。
サクラは眼を見張る。
「・・・先生もしかして、これを取りに木ノ葉岳に」
「そう」

サクラがカカシに手渡されたのは、木ノ葉桜と呼ばれる小さな花だ。
木ノ葉桜は、木ノ葉の里でも登頂に成功したものは数名しかいないという険しい木ノ葉岳、その山頂にしか自生していない幻の花。
サクラも図鑑でその存在は知っていたが、実際目にするのは初めてだ。

「・・・木ノ葉岳って、凶暴な獣が沢山いるって」
「そう。おかげでこの様だよ」
ははは、と笑うカカシにサクラは呆れてものが言えなかった。
木ノ葉桜を握り締めて立ち尽くす。

本当に、馬鹿じゃないだろうか、この人は。

カカシが知ったら再起不能になるであろうことを考え、サクラは呆然となる。
たった一輪の花を捜すためだけに危険な山に行くなど、優秀な忍びとは思えない行動だ。
「サクラ、嬉しい?」
サクラの心中を知らず、カカシが期待を込めた瞳で彼女を見詰める。

ここで否定の言葉を言ったら、この人きっと死んでしまう。
サクラは緊張のために少し青ざめた顔を、何とか綻ばせる。
唾を飲み込んだ喉がごくりと音を立てた。

「あ、有難う。嬉しいわ」
多少声は震えたが、サクラは上手く感謝の言葉を述べた。
とたんに、カカシの顔がぱっと顔を輝く。
その嬉しそうなカカシの顔を見た瞬間、サクラは先ほどまでとは違った意味で途方くれた。

 

どうしよう。
ナルト以上に気になる人、もとい、放っておけない人ができてしまった。

自分より随分年上のカカシを、可愛いと思ってしまった自分に、サクラは正直戸惑っていた。


あとがき??
ハコベさんのリクエストをまとめますと、

1. ナルト→サクラ←カカシの三角関係なお話
2. ラブコメ
3. 年甲斐もなくサクラちゃんに余裕のないカカシ先生(ナルトと同じ精神年齢)

ということで、このような話になりました。(^_^;)
コメディー、コメディーと考えながら書いていたら、カカシ先生が狂言回しになってしまいました。
済みません、済みません。(平謝り)
きっと、ナルトの花を喜ぶサクラちゃんに、変に勘違いしてしまったのですね。カカシ先生ったら・・・。

結局のところ、しっかりもので面倒見の良いサクラちゃんは、実はああいう母性本能をくすぐるタイプに弱いのではと思いまして。
ハッ、それでは『ドラえもん』でしずかちゃんがのび太と結婚した時の理由と一緒だ!

7777HIT、ハコベ様、有難うございました。


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