イノセント T


その日7班が向かった先は、木ノ葉の里一番の披露宴会場がある式場。
任務の内容はウエディングケーキの飾りつけだ。
出来合いの型にクリームを塗るものと違い、スポンジから手作りの、かなり本格的なもの。
菓子作りの職人に男性が多いことからも分かるように、意外に体力勝負の仕事だった。

「疲れたってばよーー。俺、もうケーキなんか見たくない」
音を上げたナルトが床に転がる。
4個目のケーキに取り掛かるころには、すでに厨房に入ってから5時間が経過していた。
「んじゃ、ちょっと休憩するか」
ナルトのように口には出さなかったものの、疲労の色の濃い顔をしたサスケとサクラは、カカシの言葉にホッと息をついた。

お茶のコップを片手に、めいめい用意された椅子に腰掛ける。
すでに完成したケーキが会場のセッティングをする人達に運ばれていった。
「忙しそうだなぁ」
カカシはせわしない従業員を横目に呟く。
6月は式場の方もかき入れ時なのか、ひっきりなしに式の開始を知らせる放送が入る。

「でも、今回みたいな任務は良いよね。幸せのお手伝いをしているみたいで」
サクラは嬉しそうに笑って言った。
よくこの状況でそんな余裕のある考えができると、サスケは呆れ顔だ。
「私の従姉が先月結婚したんだけど、彼女はウェディングケーキから、ブーケから全部自分で作ったのよ。私の時も同じように、自分で作りたいな」
サクラが両手を合わせて、夢見る眼差しでうっとりと告げた。

「へー。凄いねぇ」
「でしょ。でもね、旦那さんも手伝ってくれて、全然大変じゃなかったって。良いわよね」
素直に感心して相槌をうつナルトに、サクラは嬉々として話を続ける。
「じゃあさ、俺も手伝ってあげるから、サクラちゃん俺と結婚してよ」
調子にのったナルトがサクラの片手を握って熱を入れて言った。

ナルトのその告白を、年中振れられてるのによく続くなぁ、とカカシは苦笑混じりに聞いていた。
もちろん、ナルトがいつものようにサクラに拳骨をくらうと予想してのことだ。
そしてサクラはお茶のコップを口から放すと、あっさりと答えた。

「いいわよ」

水を打った静けさというのはこういうことか。
カカシとサスケ、そして告白をした本人であるナルトもサクラの手を握ったまま硬直している。

「えええええええーーーー!!!!」
ナルトの叫び声で再び厨房内の時間が動き出した。
とっさにサクラの手を離したナルトは真っ赤な顔で椅子から立ち上がる。
「ちょっと、大丈夫。あんた、顔破裂するんじゃないの」
サクラは心配そうにナルトを見上げた。

「サクラ!!!」
カカシはナルトを押しのけてサクラに詰め寄る。
「気は確かか!相手はナルトだぞ。サスケじゃないんだぞ」
必死に問い詰めるカカシに、サクラはムッとした表情をする。
「分かってるわよ。失礼ね」
自分の両肩を掴んでいるカカシの手をサクラは不機嫌そのものの表情で払いのける。

「別に今すぐ式をしようってわけじゃないでしょ。先のことなんて分からないし、ナルトはそう悪い相手じゃないわよ」
「サ、サクラちゃん」
きっぱりと宣言するサクラを、ナルトは目を潤ませて見詰めている。
だが、カカシは諦めることなく、サクラに諭すように語り掛けた。
「だからって、ナルトじゃなくてもいいだろ。俺はどうだ。俺は」

思いがけない発言に、ナルトとサスケは目を丸くしてカカシを見た。
サクラも怪訝な顔で眉を寄せる。
そしてそのままの表情ではっきりと言い切った。

「何、馬鹿なこと言ってるのよ。私と先生じゃ恋愛になるわけないじゃない」
心なしか「馬鹿」のところにアクセントがついている。
サクラはすっかりカカシが『上司』であるということを失念していた。

「そろそろ作業を続けるぞ」
我関せずといったサスケの一言で、その場はなんとか収集される。
抜け殻のように白くなったカカシは椅子から立ち上がることはなかった。

 

「おい。何だあれは」
「よく分からないけど、さっきからああやってずっとぶつぶつと何か言ってるのよ」
アスマの問い掛けに紅は困ったように答えた。
二人の視線の先には、職員室の隅で座り込んでしくしくと泣くカカシの姿があった。
「うっとおしいから、ちょっと家まで送ってやってよ」
「えー。俺が?」
「私これから報告書作らなきゃならないのよ。あなたもう帰るだけでしょ」
紅の言葉に、アスマは渋々頷く。
「じゃあ、お願いね」

カカシはアスマに引きずられるようにして歩いていた。
「ほら、ちゃんと歩けよ」
アスマは幾度も発破をかけたが、あまり通じない。
「どうせ、サクラからしてみれば俺なんておじさんなんだよ。眼中にもないんだよ。ゴミ同然なんだよ」
「はいはい」
カカシの呟きに適当に答えながらアスマはため息をつく。
これが同じ上忍かと思うと心底情けなかった。

街の人通りの多い道に出たところで、アスマは何かに気付いたように声を出す。
「サクラだ」
カカシは即座に反応して顔をあげる。
商店街の雑貨屋の前に、確かにサクラの姿があった。
そしてサクラには連れがいた。

「カカシ先生」
カカシに気付いたナルトが駆け寄ってくる。
「大丈夫?今日は任務中から様子が変だったけど」
「・・・・平気平気」
全然平気とは思えない虚ろな表情でカカシは笑った。
「お前ら、こんな遅くにどこに行くんだ」
アスマが訊くと、ナルトの傍らのサクラが即答した。
「ナルトの家。今日は泊まる予定なんだけど」

 

「おい、カカシ!!しっかりしろ」
倒れこんだカカシに、アスマが強く呼びかける。
この世に神も仏もあるもんか。
カカシはその時強く思ったという。


あとがき??
『赤ずきんチャチャ』の単行本が出てきました。そして気付きました。
リーヤくんは私のイメージするナルトそっくりだということに。(お馬鹿なところが)
え、じゃあ、サクラちゃんはチャチャ?(いや、むしろドロシーちゃんか。負けず嫌いで頑張りや)
するとセラヴィー先生はカカシ先生。(飄々としていて無敵(ドロシーちゃん以外に))
ポピィくんはサスケ。(クールだし。ポピィくんの弟の名前って「なると」なんだよね(笑))
しいねちゃんはシカマル。(抜け毛が気になりそうなところ(失礼)とボケにたいするつっこみが)
マリンはいの。(強引な性格が)
おりんちゃんはヒナタ。(引っ込み思案なところが)

ああ、きりがない。って、これはあとがきじゃない。ガーン。

真面目にあとがき。この話はコメディーです。ナルト、いい子だなぁ。
えーと、後編。カカシ先生が・・・・。馬鹿としか言いようのない話になってしまう。オロオロ。
続き、当分、先・・・。

イノセントは、innocent=罪のない、無邪気[単純]な、純真な。
今のところ、意味のないタイトル。後半がね。いろいろ。(汗)


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