夢見る魚 V


休憩の合間に、和やかな雰囲気で会話を続けていたカカシと中忍だが、かすかな物音にカカシは耳をそばだてる。
微妙な空気の変化を感じ取ることが出来たのは流石に上忍というところだが、いかんせん気付くのが遅すぎた。
カカシがその表情を変えたとき、すでに危うい状況に追い込まれていた。

反火影勢力はたいした武装を持たない烏合の衆だ。
だからこそ中忍の部隊が差し向けられたのだ。
しかし、誤算があった。
彼ら自身に確かに力はなかったが、組織には秘密のパトロンがついていた。
闇ルートから優れた忍びを数多く雇う事が出来る金を所有する、名の通った富豪。
これらのことは、全てのことが終わったあと、詳しい調べで明らかになる。

 

敵の攻撃範囲内に自分とその隣りの中忍がいることはカカシにはすぐに分かった。
カカシ一人なら逃げられた。
だが、カカシは中忍の彼を無意識のうちにかばっていた。
瞬間、強い衝撃にカカシの視界が真っ赤に染まる。

歪む視界に中忍が必死に何かを叫んでいるのが見えた。
だが、不思議なことに、音という音が一切カカシの耳には入らなくなっていた。
「変な写真なんて見せるからだ、この野郎・・・」
弱々しい声で悪態をついたが、カカシの心の中は、これまでになく平静だった。
痛みが度を越してしまったのか、全く身体の感覚がない。
このまま目を瞑れば、二度と目が覚めることはないかもしれない。
分かっていながら、重い瞼をこれ以上開いていることは出来なかった。

深い闇の世界へと、カカシの意識は沈んでいく。

 

夢の中、カカシは再び魚の姿になっていた。
そして、水槽ごしに自分を見詰めるサクラは泣いている。

何があったのだろうと思うが、魚の姿のカカシでは問い掛けることもままならない。
もどかしかった。
すぐ側に涙のサクラがいるのに触れることができないことが。
今までの自分の怠慢を恨めしく思った。
抱きしめるための腕があるのに、思いを告白できる口があるのに、サクラに一言も伝えていない。

涙するサクラの悲しみの理由を知りたい。
涙を拭ってやりたい。

強く、強く、願った。

 

「・・・・シさん、カカシさん!!」

聞こえてきたのは、サクラとは似ても似つかない男の声。
耳鳴りが酷い。
そう、耳の近くで怒鳴るな、と言おうとして、身体に走った激痛に呻き声が出た。
瞼を開けると、任務地へ向かう道中一緒だった中忍の顔。
「お前・・・煩いよ」
「カカシさん、良かった!!!」
煩いと言った直後に、さらに大きな声を出された。
顔をしかめたカカシは、状況を判断しようと首を動かす。
すぐに視界に入った人の足。

「よぅ。生きてたか」
「・・・アスマ」
倒れているカカシを見下ろして、アスマが苦笑している。
「何でお前がいるんだ」
「それが、尋問にかけた敵さんの一人が気になることをもらしてな。この件は根が深いようだから、急遽特Aランクの任務に変更になった。それを伝えるために来たんだよ」
アスマは懐から取り出したタバコに火をつけながら言った。
「恩に着ろよ」

よく見ると、アスマの他に何人もの木ノ葉の忍者達がせわしなく付近を歩いていた。
カカシは傍らにいた中忍の助けをかりて、何とか半身を起こす。
身体のそこかしこに裂傷や打撲のあとがあるが、大きな傷はないようだ。
「それにしても、どうしたんだ。お前がてこずるような相手じゃないだろ」
アスマが顎をしゃくる。
視線の先には、彼にやられたのであろう、傷だらけの敵の忍者が累々と倒れている。
「・・・ああ」
カカシの呟きに、彼を支えていた中忍が、複雑な表情で顔を背けた。
カカシの怪我は自分のせいだと分かっているのだ。
自分の失態を恥じ、苦しげに顔をゆがめている。

カカシはそんな中忍の気持ちを知ってか知らずか、あっさりと告げた。
「ちょっと油断したんだよ」
中忍の顔が驚きのものに変化する。
アスマは何か言いたげな顔をしたが、結局口には出さなかった。
僅かに涙ぐんだ中忍の頭を、カカシが気にするな、というように軽く叩く。

カカシの怪我の手当てを済ませたあと、敵の残した忍具を調べながら、アスマはしみじみと呟いた。
「それにしても、よくそれぐらいの軽症ですんだな」
「・・・そうだな」
行使した術の形跡を見ると、かなりの大技だったことが分かる。
忍びの潜入を察知し、事前に用意していたのかもしれない。
どっちにしろ、命があることが奇跡だ。
「俺も死んだと思ったんだけど」
カカシも首をひねるばかりだ。
いくら考えても理由は分からない。

その後、味方が到着したこともあり、一応怪我人であるカカシは里への帰還を進められ、行き同様、3日の行程で戻ってきた。

 

カカシが自宅の扉を開けると、折りよくサクラがやって来ていた。
だが、その表情は泣き顔だ。
「・・・カカシ先生」
涙のサクラ。
まるで夢を再現したかのように同じ。
「ど、どうしたんだ」
驚くカカシに、サクラが飛びつく。
「ごめんなさい!」

カカシがしゃくりをあげるサクラを何とかなだめると、彼女は水槽の方へと指を向けた。
見ると、水槽にいた二匹の魚が、一匹だけになっている。
サクラの話によると、魚の一匹は3日ほど前に突然原因不明の奇病で死んだらしい。
サクラがエサをやりに来たときには、魚の身体は水に浮かんでいた。

3日前。
ちょうど、自分が死にかけた頃だな、とカカシは思った。
思い出される、夢の情景。
サクラの涙の原因は、魚の死によるものだったのか。

死ぬはずがないのに、死んだ魚。
死ぬはずなのに、生き残ったカカシ。

カカシは、何故か魚が自分の身代わりになってくれたように思えてしかたがなかった。
その前に見た夢も、普段見ることのない、サクラの意外な一面を垣間見させてくれた。
そして、それは自分の決意を促す役目を果たすことになった。
魚のためにも、はっきりとさせなければならない。

「そんなに気にしなくてもいいよ」
「でも・・・」
サクラは後悔から涙が止まらない。
カカシから預かった、亡き友人の大切な魚を死なせてしまった。
それは責任感の強いサクラにとって、とてつもなく衝撃的なことだった。

カカシは涙にくれるサクラの頭に優しく手を置く。
「それよりも、サクラに聞いて欲しいことがあるんだ」
にっこりと笑うカカシに、サクラは涙の残る目をしばたたかせる。
何、というように見詰めてくるサクラに、カカシは一世一代の告白を決行した。

 

以後、カカシの家の水槽には、新たに購入した魚と、以前からいる魚が仲良く並んで泳ぐ姿が見られるようになった。
一匹は白い体に、青い目。
もう一匹は、桃色の体に、緑色の瞳。


あとがき??
済みません。めっちゃ時間をかけたわりに、たいした話じゃないんです。
でもちゃんと最初に考えていた筋書き通りには話が進みました。良かった。
魚って夢を見るのかなぁって考えたところから出来た話。
サクラの疑問は私の疑問でした。

お魚さん、実はサクラちゃんのこと好きだったんです。(裏設定)で、二人の橋渡しをしてくれたんですね。いい奴(?)!!(涙)
どうやって、とかは考えてはいけません。自然の摂理です!(?)
助けがアスマ先生だったのは、単なる私の趣味。(^▽^;)


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