夢見る魚 T


「魚って、夢見るのかな」

カカシは、また突拍子もなこと言い出した、という顔でサクラを見た。
サクラは優雅に泳ぐ魚を眺めながらテーブルに頬杖をついている。

 

サクラは最初にカカシの家を訪れたとき、大きな水槽を目にして驚きの声をあげた。
「先生、熱帯魚飼うような人だったんだ」
「友達の魚。それの面倒を見てくれってのが、彼の遺言でね。俺が引き取った」
「ふーん」
サクラはリビングで随分と幅を取っている水槽を夢中で眺めている。
白い体に青い瞳の魚が二匹。
サクラは微笑みを浮かべて言った。
「二匹だから寂しくないね」

魚が寂しい?
サクラの言葉に、女の子は変わった見方をするんだな、とカカシは思った。

「この水槽についてる時計みたいの何―?あれ、エサが入ってる」
サクラはすっかり魚に心を奪われた様子で水槽の周りを観察している。
「それはタイマーになっていて、俺がいない時でも自動的にエサを与えてくれるんだ」
「へー。便利ね」
それからカカシは魚の世話について詳しくサクラに説明した。
魚の動きを目で追いながら興味津々で聞いていたサクラは、ふと感じた不安にカカシを仰ぎ見る。

「先生。もしかして、自分のあと私にこの魚の面倒みてもらおうと思ってる?」
図星だったのか、カカシは自分を咎めるように見詰めるサクラに困った顔をした。
返ってこない返事に、サクラの顔が悲しげに曇る。
「もう聞きたくない」
「サクラ」
俯いてしまったサクラに、泣かせてしまったのかとカカシは慌てて言い繕う。
「違うよ。ただ俺が用事で家を留守にする時、サクラに魚の世話をしてもらいたいと思ったんだよ」

冷や汗をかきながらも、カカシは先ほどのサクラの言葉を引用した。
「さ、魚も寂しいだろうし」
ほら、とカカシが家の鍵をサクラに差し出すと、サクラはようやく顔を上げた。

鍵を手ににっこりと笑ったその瞳には、僅かな涙もない。
謀られたか、と思ったが後の祭だ。
嘆息をもらしたものの、カカシは別に怒る気にはならなかった。

 

「魚って、瞼がないから目を瞑れないのよね。でも、ちゃんと休養はとっているらしいし、それなら夢も見てるのかなぁって」
「サクラって、面白いこと考えるよね」
「何よー。暇人だって言いたいの」
サクラはぶーっと頬を膨らませて言った。
その仕草が、子供らしく可愛らしかったから、カカシは苦笑いをしながらサクラの頭をなでた。
「違うよ。だからサクラといると楽しくて良いな、って思うんだよ」
顔を赤くしたサクラが、はにかむように笑った。

サクラの笑顔を見るたびに、カカシは大きな安らぎを感じる。
だが、このような穏やかな時間はそう長く続くものではない。
そのことを、経験上カカシは身をもって知っていた。
忍びである以上、一生危険と隣り合わせの生活を送らなければならないのだ。

泳ぐ魚に視線を向けながら、カカシはその日サクラを呼んだわけを話す。
「サクラ。任務入ったから、明日から魚の世話頼むな」
瞬間、サクラの顔から表情が消えた。
わざわざ言い置くということは、2、3日で帰れる任務ではないということ。
カカシは黙り込んだサクラを振り返った。
「サクラ」
促すように言うと、サクラはようやく返事をかえす。
「はい」
ただ、肯定を意味する言葉。

サクラは一度もカカシを引き止める言葉を言ったことがない。
無理な事だと分かっているから。
そのような事を言えば、カカシが困るだけだと理解しているから。
ただ「いってらっしゃい」と言って、笑う。

本当の気持ちを抑えて微笑むサクラを、そのいじらしさを、カカシは心からいとおしいと思う。
だけれど、カカシは自分の気持ちをサクラに伝えたことはなかった。
サクラがいつでも自分から逃げることができるように。
自分にもしものことがあったとき、サクラを縛るようなことがないように。

 

魚の生命を維持している機械のモーター音だけが静かな部屋に響く。
これが最後かもしれない。
二人の頭にあったのは、任務に向かう忍びが常に心がけている言葉だった。


あとがき??
暗い!!!あの、これ全然続き出来ていないので、Uはちょっと先です。申し訳ない。
任務の内容は次で説明します。書き直しもあるかも。

カカシ先生殺したら苦情くるよね。(小声)


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