恋のうしろ姿 U


サクラの家に行った帰り道、二人は偶然にも仕事帰りのイルカに出くわした。
ナルトはこれ幸いとばかりに、「ラーメン、ラーメン」とイルカにたかっている。
「しょうがない奴だなぁ」
根負けしたイルカがサスケに向かって言った。
「サスケも食いに行くか」
おごりと聞いて断る理由もなかったサスケは、素直に二人の後をついて“一楽”へ歩き出した。

「お前らの班の任務って、最近大変なのか?」
注文した品々がくる間、イルカはナルトに訊いた。
「え、別にいつも通り、迷い犬捜しとか、雑用だけど」
「そうか。おっかしいなぁ」
イルカはしきりに首を傾げている。
「どうしてだ」
サスケの言葉に、イルカはなお不思議そうな顔をして話す。
「それが、昨日も今日もカカシ先生が任務の報告書持ってくる時間遅くて、火影様に大目玉食らってたからさ。忙しくて遅れちゃったのかと思ったんだけど。ただどっかに寄り道してただけなのかなぁ」

瞬間、サスケの脳裏をかすめたガーベラの花。

あの花を持ってきたのはカカシではないのかとサスケは思った。
また、それはすでに確信に近いものだった。
花の持ってきた人物を訊ねたとき、「秘密」だと答えたサクラの笑顔が、近頃カカシに向けられているものと一緒だったから。

 

「サスケくん、また女の子に告白されたんだってね」

任務のない休日、街に向かうサスケの前に待ち伏せしていたのかサクラが立ちふさがった。
面白そうに笑いながら言うサクラに、サスケは無視して通り過ぎようとする。
「あ、ちょっと待ってよ」
サクラが追いすがるようにして後をついて歩く。
「サスケくんの好きな子って、誰なの」

サスケが女子に告白されるのは日常茶飯事だ。
サスケがそっけなく断ることも。
だが、今回の話はいつもと違う部分があった。
サスケの返事が「他に気になる奴がいる」というものだったのだ。
アカデミーの同級生だった女子の話題は、そのことで持ちきりだ。
サスケと同じ班で行動しているサクラは、友達から調査を依頼されたことで、サスケに必死に食い下がっている。

「ねぇ、教えてよ。誰にも言わないから」
これはもちろん嘘なのだが、サスケは振り返ることなく黙々と歩いている。
いくら待っても返事がなく、サクラはため息をついた。
期待はしていなかったが、やはり駄目かとサクラが諦めかけたとき、サスケが言葉を発した。
「そんなに気になるのか」
反応を示したサスケに、サクラは嬉しげに声を出す。
「うん。だって、サスケくんは私が好きだった人だもの」

足を止めたサスケに合わせて、サクラも立ち止まった。

無言で佇むサスケに、サクラも黙ってサスケの様子を窺った。
「過去形か」
「え?」
小さな声はサクラには届かない。
戸惑い気味に自分を見るサクラに、サスケは問い掛けた。

「人に訊くなら自分のことをまず言え。お前の方はどうなんだ」
厳しい声音にサクラは狼狽する。
「え、わ、私?」
「好きな奴はいるのか」
サスケは変わらずきつい口調だ。
何か怒らせるようなことを言ったのかと思ったが、見当がつかない。
サクラは問われるままに答えた。
「いる、けど」

 

分かっていたとはいえ、胸が痛んだ。

サスケをどこまでも追いかけていたサクラ。
だが、いつしかサクラは自分に向けて差し伸べられている手に気付いてしまった。
振り向く事のない冷たい人間より、自分を慈しんでくれる人間になびくのは当然のことだ。
だけれど、もし。

もし振り返って優しい言葉をかけいたなら、状況は変わっていただろうか。
サクラは、カカシに対するように笑ってくれただろうか。

いくら推測しても、それは憶測の域を出ない。
今さらながら後悔している自分に気付き、サスケは自嘲気味に笑った。
過去に思いをはせたところで、時間は決して戻らない。
全ては遅すぎた。

 

 

「先生―」
「何、なんか悩み事」
「んー。そんなんじゃないんだけど」
カカシの家にやってきたサクラは、浮かない顔でカカシに寄りかかった。
カカシは居間のクッションに座り込んで愛読書を読んでいる。
サクラは同じくクッションを敷き、カカシと背中合わせに座っている格好だ。

「サスケくんに好きな女の子が出来たんだって」
ページをめくっていたカカシの指が止まった。
「誰?」
「それが分からないのよ。訊いたんだけど、何だか変な返事がかえってきたし」
「変な返事って」
「私に好きな人はいるのかって。私の質問と関係ないじゃないのよね。何だかはぐらかされた感じ」

カカシはその会話だけで、あらかたのことを理解した。
だが、鈍いサクラはサスケの気持ちに全く気付いていなかった。
そして、カカシも事実をサクラに知らせる義理はない。
「いきなり走り出してどっか行っちゃうし。友達になんて報告すればいいのかしら」
まだ口を尖らせてとぶつぶつ文句を言っているサクラをよそに、カカシは再び書物に目を落とす。

結局、一度も自分を振り返ることのなかったサスケに、サクラは暗い気持ちになる。
同じ班になって親しくなれたと思っていたのは、勘違いだった。
片思いをしていた頃から、見慣れているサスケの背中。
いつもと同じだけれど。
今日は微妙に違った。

何が、というのではない。
前を歩くサスケがどこか寂しげに見えた。
果たして、彼はどんな顔をしていたのだろう。
もしかしたら、苦しい片恋をしているのかもしれない。
そして。

切ない気持ちは伝染する。

「サクラ?」
考え込んでいる様子のサクラにカカシは不安を感じたが、それは杞憂だった。
カカシの背にしがみついたサクラは甘えるような声を出す。
「カカシ先生、ずっとそばにいてね」
その言葉に、カカシは嬉しそうに微笑する。
願ってもない提案だ。
「いいよ」
「ずっと、ずっとよ」
「うん。一生サクラと一緒にいるよ」
サクラは一層力を強くしてカカシを抱きしめた。
「約束ね」


あとがき??
ヤバイです。リクエストは「カカサク←サスの三角関係の明るめのSS(サスケ君大ショック)」だったのですが、く、暗い?
おまけに、カカサクというより、サス→サクの方がメインになってます。
サスケ視点のカカサク!!
書くのにやけに時間がかかった作品。(のわりに、たいした内容ではない(−_−;))

ラスト、ラブラブカカサクを久々に書いたので、死にそうになりました。
私、ラブラブ、駄目。恥ずかしくて・・・・。助けてーー。でも、カカサク好きvv(^▽^;)

8833HIT、秋夏様、有難うございました。


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