恋のうしろ姿 T


サスケが集合場所に赴いたとき、サクラはすでに姿を見せていた。
何かの書物を読んでいたサクラは、歩み寄るサスケの気配に気付いて顔を上げた。
微笑みながら、朝の挨拶をする。

「おはよう」
「ああ」

短い会話のあと、二人は互いに無言になった。
サクラは書物を閉じて鞄にしまっている。
カカシはいつものこととしても、ナルトも最近時間に遅れることが多い。
担任のカカシが毎回時間どおりに現れないのが分かっているのだから当然かもしれないが。

待ち合わせ場所の橋の上は、朝早いということもあり人通りは少ない。
サスケとサクラの間に沈黙が続いた。
暫らくの時間が経過し、サスケはようやく気付く。
サクラの様子がいつもと違うことに。

まず、普段はサクラが一方的にサスケに話し掛けるのだが、今日はそれがない。
よくよく注意して見ると、サクラの顔色が悪いようにも思える。
サクラは俯いたまま、橋の欄干にもたれていた。

「サクラ。お前体調悪いのか」
サスケの言葉に、サクラは一瞬驚いた表情をしたがすぐに笑顔で返事をした。
「大丈夫よ。有難う」

元々素直でない性格のサスケだ。
そう言われると、いくら気になっても次の言葉が続けられなくなる。
無理をして倒れられたりしたらことだ。
どう言えばサクラを自宅に帰すことができるかとサスケが思案していたとき、信じられないことに7班の担任のカカシが現れた。
今までにカカシが時間どおりに来たことなど皆無だっただけに、サスケもサクラも目を丸くして彼を見ている。

「よー。今日はちゃんと時間どおりだろー」
「10分遅刻よ」
手を振りながら言うカカシに、サクラは時計を見ながら言った。
「細かいこと言うなよ」

苦笑しながらサクラの頭を撫でたカカシは、彼女の顔を見てすぐに表情を変えた。
その額に手を当てて問い掛ける。
「サクラ、大丈夫か」
屈みこんだカカシは心配そうにサクラを見詰める。

その真剣な眼差しに、サクラは気恥ずかしそうに目線を下げる。
「うん。少しだけ熱があるの。でも、先生の手冷たいから気持ち良い」
目を閉じるとサクラは少し口の端を綻ばせた。
「そうか」
サクラの言葉にカカシはほっと息をつく。
「サクラ、今日は帰れ。一人で帰れるだろ」
「はい」
カカシがサクラの頬をぺたぺたと数回叩くと、彼女は素直に頷いた。
サクラはゆっくりとした足取りだが、しっかりと自宅へと続く道を帰っていく。
サクラの姿が小さくなるまで見送っているカカシを、サスケは訝しげに見た。

 

二人の様子を間近で見ていたサスケは妙な違和感を感じた。

サクラの僅かな変調を一目で看破したカカシ。
サスケの言葉を否定したのに、カカシが訊ねたときは正直に答えたサクラ。
そして、二人の間の親密な空気。
サスケが全く口をはさめない雰囲気だった。
あれは教師と生徒というより、むしろ・・・。

サスケが、まさかと思いつつカカシをじっと見詰めていると、その視線に気付いたカカシが振り向いた。
「何?」
訊ねられても、自分の推測を言うことのできないサスケはうろたえながら返事をする。
「きょ、今日の任務は何だ」
「今日はね、迷子のペット捜し。またナルトが煩いこと言うよな」
カカシは笑いながら頭をかいた。
すると話題になっていたから、というわけではないだろうが、当の本人が大急ぎで駆けて来るのが見えた。
「遅いぞー」
「ええー。何でカカシ先生がいるのーー」
カかシが発破をかけるとナルトが遠くから大きく声を返した。

 

「サクラちゃんのお見舞いに行くってばよ」

次の日の任務終了後、ナルトはサスケに誘いの言葉をかけて花屋に向かった。
サスケは渋々付き合っているという風だったが、花を選ぶナルトに意見を求められたときにはきちんと返事をかえしていた。
二人は、フラワーアレンジメントされた花を片手に、サクラの家にたどり着く。

部屋に通されると、彼女は思いのほか元気そうだった。
「明日にはもう任務に向かえるわよ」
「良かったー」
嬉しそうな声を出すナルトを横目に、サスケは部屋を一瞥する。
サクラの部屋は、年頃の女の子の部屋のわりには、質素だった。
鏡台にタンスにベッド、少しの小物。
そして、机の片隅に置かれた花瓶。
そこにはピンクのガーベラがいけてある。

サスケは何故かそれが気になった。
「誰か来たのか」
サクラはサスケの視線の先にあるその花を見ると、少しだけ頬を赤くした。
「うん」
「えっ、俺達より先に来た奴がいるの。誰、誰?」
ナルトも興味津々で訊いてくる。
二人の視線が集中し、サクラは戸惑い気味に呟いた。
「・・・秘密」

はにかむように笑うその顔は、サクラが今までナルト達に見せた中でも、一番に愛らしいと思えるものだった。
ナルトだけでなく、サスケも一瞬目を奪われる。
「ナルトもサスケくんも、今日は有難うね」
サクラはまさに花のような、と称せる笑顔で二人に感謝の言葉を述べた。


あとがき??
す、済みません。終わりませんでした。ちょっと(だいぶ)スランプ気味でして。(汗)
続きは近日中に。サスケくんが結構可哀相・・・。


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