天上の恋 地上の愛 U


 

− 十数年前。木ノ葉の里、はるか上空。雲の上 −

 

「まだ仕事をすませてないの。エヴァ」
「うーん」
エヴァは弱い返事をかえす。
彼女は雲の絨毯に座り込んで、切れ間から下界を望んでいる。
自分を全く振り返らないエヴァにため息をつきながら、アダムは彼女の隣りに腰掛ける。
並んで下を眺める二人は、双子の兄妹のように似通った容姿をしていた。

「君は本当に人間界を見るのが好きだね」
「うん」
「でも、仕事はちゃんとしなきゃね」
「うん」
エヴァはアダムの言葉に、前半は明るく、後半は暗く答える。

天使である二人の仕事は、人間の魂の回収。
なかでも彼らは特殊な課に所属していた。
神からの啓示から、将来的に人の世に悪影響を及ぼすであろう人間をピックアップし、抹消する。
寿命に関係なく、その人間が世間に害をなす前に、事故に見せかけて魂を強制的に奪う。

 

仕事につき、エヴァが初めて受け持った人間は、カカシという名の少年だった。
いかにも悪そうな人相の壮年の人間を想像していたエヴァは、意表をつかれた。
上司である大天使は早く仕事をすませろとせっつくのだが、エヴァはのらりくらりとかわしつつ、少年の様子を観察する。

どうやら少年は忍びの世界に生きる者らしい。
エヴァが見ている僅かな間にも、少年の周りでは数々の人が死んだ。
それは少年にとって敵であったり、仲間であったり、境遇はそれぞれだ。
そして死者が誰であれ、少年はその度に心を凍らせていく。

痛ましくて、見ているのが辛い。
されとて、目を離すことができない。
確かに少年の生い立ちは影のあるものだったが、エヴァにはどうしても彼が悪い人間には思えなかった。

少年を救う方法は、死以外ないのか。
天使という存在は神によって生み出されたものだ。
エヴァ達に創造主を非難することはできないが、あまりに無慈悲なのではないかと考えてしまう。
せめて、彼を勇気付けられる言葉をかけることができればと思うが、エヴァが地上に降りたところで、一般の人間には天使の姿を見ることはできない。

考えに考えた末、ついにエヴァの頭に名案が浮かんだ。

 

「人間になるーーーー!!?」

普段温和なイメージのあるアダムも、この時ばかりは大音声をあげた。
エヴァが慌ててその口をふさぐ。
「ちょっと、誰かに聞かれたらどうするのよ!」
アダムを叱咤するその声の方が断然大きかったが、アダムは一応頷いた。

天使が人間になる方法は一つしかない。
人間の女性の身体にもぐりこむのだ。
するとその女性は身ごもったということになり、10ヵ月後に地上に生まれ出ることができる。

「で、それでどうするの」
「あの子が悪の道に走らないように、私が監視するのよ。そうしたら未来は変わるかもしれない。大丈夫だと思ったらすぐ帰ってくるから」
「でも、君は赤子なわけだからすぐには行動できないじゃないか」
「何とかなるわよ。どうせちょっとの間だし、見逃してよ。ね」

エヴァの「ちょっとの間」という言葉は確かだ。
天上での十日は、地上での十年。
それくらいの間だったら、エヴァの不在を上司の大天使にも隠しておけるだろう。
後から何かしらの罰を負うが。

真剣な眼差しのエヴァに、アダムはため息をつく。
「本当にちょっとだからね」
「有難う。アダム、大好きよ!」
エヴァはアダムに飛びついて頬に感謝のキスをした。

 

そしてこの会話以来、アダムとエヴァの交信は全く途絶えていたのだ。

 

「思い出した?」
「まあね。でもちょっと、強引よね」
サクラは少しふてくされたように答える。
「そう?でもこの場所に連れて来るのが一番手っ取り早かったし。地上での器があると元天使といえど、ここまで上ってこれないからね」
サクラとアダムは以前のように、雲の上で座り込んでいる。

人として過ごした時間があまりに幸せだったから、サクラは全てを忘れてしまっていた。
いや、故意に記憶から抹消していたのかもしれない。
優しい両親に、仲の良い友達。
地上での出来事は天上では経験できないものばかりだった。
それでも忍びという職業を選んだのは、本来の目的が頭の片隅に残っていたからだ。

「で、何。大天使様に私のことがばれたの?」
「それが、間違いだったんだ。あのカカシという人間の未来は犯罪者じゃなかった」
驚きに目を見張ったサクラの顔が、明るく輝く。
アダムの肩をつかんで強く確認した。
「本当!?」
「本当、本当。君がいなくなった後いろいろ調べてみたんだけど、人違いだったみたい。彼を殺す必要はなくなったんだよ」

人の生き死にが関係している問題に、そう簡単に誤りがあっていいものかと思ったが、サクラは素直に良かったと思った。
だが、喜びもつかの間、サクラはすぐに気付く。
エヴァはカカシの監視と更正のために地上におりた。
それが、間違いだったと分かった今、“サクラ”という存在は無用ということだ。

 

「もしかして、このまま地上には戻れないの?」
不安げな表情をするサクラに、アダムは笑顔で答えた。
「だから僕がわざわざ迎えに行ったんじゃないか。“サクラ”の本体である君が天上に来ちゃったから、きっと地上での身体はもう機能を停止してるよ」


 あとがき??
カ、カカシ先生が出てこない。(汗)
次は、次は出てくるので!
エヴァと同じような方法で地上に生まれたお方がいらっしゃいますよね。聖書に。ゴホゴホ。
女性が未婚の方だったら大変なことになると思いますが。

ここまで書いてまだ一番書きたい台詞を書いてない・・・。
サクラにその言葉を言わせたいがためにこの話を書いたのに。(泣)


駄文に戻る