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未来の話
カカシ7班が解散してから5年経つ。
下忍達は中忍になり、それぞれ別の部署へ配属されていった。
カカシは元生徒達の情報をたまに風の便りで聞く程度で、全く交流を持っていなかった。その日、カカシがすっかり成長したサクラを、間違いなく彼女だと認識できたのは、その声によるものが大きい。
もし人通りの多い通りですれ違ったとしても、それとはすぐに気付けなかっただろう。
サクラは見違える程の美女に変身していた。
「カカシ先生」
とある飲食店に入ったところで、カカシは客として席に座っていた女性に声をかけられた。
立ち上がってカカシに分かるように手を振った彼女は、すらりとした、しかし胸も腰もしっかりと出っ張った女性として理想的な体型をしていた。
「先生。こっちの席空いてるわよ。どうぞ」
暫し呆けたように佇んでいたカカシは、手招きをされて我に返った。
カカシが促されるままに席まで歩いてくると、彼女はやわらかく微笑んだ。「・・・サクラか」
「そうよ。久しぶりね」
恐る恐るという風に訊ねてくるカカシに、サクラはおかしそうに笑った。
カカシはサクラの向かい側に座った後も、まだしげしげと彼女を見詰めていた。
上から下まで眺めて、カカシはようやくサクラの足元にいる物体に気付く。「サクラ、何か足に引っ付いてるぞ」
「やだ、先生ったら」
サクラは声をたてて笑った。
「これ、私の子。モモちゃんって言うのよー」
自分の足の影に恥ずかしそうに隠れていた子供を、サクラは腕に抱え上げる。
桜色の髪に緑の瞳の、サクラそっくりの幼児。
二重の驚きにカカシは眩暈がするほどの衝撃を覚えた。
サクラが思いがけず自分好みの美人になっていたこと、そしてすでに子持ちであること。
注文したコーヒーが早々とテーブルに置かれたが、今それを手にすれば動揺から手元が震えるということが分かっていたので、カカシはカップを手にする前に訊ねた。「子供の父親ってどんな奴なの」
「父親?」
サクラはきょとんとした顔でカカシを見る。
カカシは平静を装っていたが、胸中では「俺の元生徒に手を出すとは気に食わん野郎だ。一回ぶん殴ってやる」ぐらいの思いが渦巻いていた。
だが、その勢いもサクラの一言で消沈する。「カカシ先生よ」
二人の間に沈黙が続く。
サクラがにこにこと笑うと、カカシは何とか声を絞り出した。
「う、嘘?」
笑顔を見せたサクラがてっきり冗談を言ったのかと思ったのだ。
顔色を白くしたカカシを軽く突付くと、サクラはウフフと笑った。
「身に覚えがないの?先生v」
「いや・・・。すっげーあるんだけど」カカシが指折り数えると、子供はちょうど4歳という計算になる。
サクラのひざの上にいる幼児と年齢的にピッタリと重なる。
声もなく呆然とするカカシに、サクラは更なる打撃を加えた。
「でも先生に会えて丁度良かったわ。私、来月結婚するの」
サクラの言葉に、気持ちを落ち着かせるために飲もうとコーヒーに伸びていたカカシの手が止まる。
「これ招待状。披露宴には来てね」
渡された封筒を開けると、見慣れた二つの名前が並んでいる。
新郎の所に記されていたのは、やはりカカシの元生徒。
「子供のためにも父親がいた方がいいって説得されちゃって。この子もナルトに懐いていたし。それで決めたの」サクラは子供の頭をなでながら明るく笑った。
その笑顔は、挙式を控えた幸せな花嫁そのものといった感じだ。
昔と違い、ナルトのことを憎からず思っているのが伝わってくる。「あ、いけない」
腕時計を目にしたサクラは、慌てて立ち上がる。
「今日、これから式のこといろいろ決めるために会場に行かなきゃならないの。先生、またね」
自分の分の伝票を手に、子供共々席を立とうとするサクラの手を、カカシが掴んだ。
軽くつんのめったサクラは、驚いてカカシを振り返る。「何で言わなかったんだ」
カカシは真剣な表情で問い掛ける。
カカシが何を言いたいのか察したサクラは、薄く微笑みながら言った。
「言ったら先生、何かしてくれた?」
「・・・・」
訊き返され、カカシは押し黙ることしかできない。5年前、カカシとサクラの関係は上司と部下であり、教師と生徒だった。
子供のことが世間に知れたら、たぶん双方何かしらの罰を負っていただろう。
サクラはカカシに迷惑をかけたくない一心で、一人罪をかぶった。「それにカカシ先生、子供嫌いだって私に言ったでしょ。他人の子でも煩わしいのに、自分の子供なんて冗談じゃないって」
カカシはそのことを全く覚えていなかったが、サクラが言うからには事実なのだ。
確かに自分が言いそうなことだとカカシは思った。
それはカカシにとっては何気ない言葉でも、サクラには強く印象に残る言葉だった。「じゃあ先生、元気で」
カカシの手が緩んだところを見計らってサクラは去っていった。
どうしようもなく、やるせない気持ちのカカシを残して。
ため息と同時に俯いたカカシは、静かに瞳を閉じた。
冷め切ったコーヒーに口をつけることも、席から立つことも億劫だった。
カカシの意識が暗く沈んでいく。
頭にあるのは“後悔”の二文字。
サクラのような少女が、子供を一人育てることは、どれほどの苦労だったのか。
決して取り戻すことのできない時間がそこにはある。
できることなら、過去に戻ってやり直したい。
カカシは、強く願った。
「カカシ先生」
自分を呼ぶサクラの声に、カカシは目を開ける。
そこには5年前、そのままの姿のサクラがすぐ間近でカカシの顔を覗き込んでいた。
「・・・サクラ?」
「ごめんね、先生。親戚の叔母さん達が急に来たの。随分待たせちゃったわ」
サクラは必死に頭を下げてカカシに謝っている。先ほどまで店内にいたはずなのに、カカシは太い幹の木の上に身を横たえていた。
半身を起こしてきょろきょろと訝しげに周りを見回すカカシに、サクラは不安な表情だ。
「カカシ先生、怒ってる?」
「・・・いや、そうじゃないよ」
木の枝の根本付近に移動したサクラを見ながら、カカシは答える。今までのことは夢だったのだと分かり、カカシはホッと息をつく。
珍しく待ち合わせに遅れたサクラを待っているうちに、木の上で眠ってしまったのだと、ようやく思い出した。
だが、あまりに生々しい夢に、カカシはまだどちらが夢なのか判断しかねた。
「サクラ」
「何?」
呼ばれてカカシに近づいたサクラは、腕を引かれ悲鳴をあげる。
ただでさえ安定の悪い枝の上で、カカシの支えがなければ落下していたことだろう。
鼓動を早めながら、サクラはカカシにしがみついたまま喚いた。
「先生の馬鹿―!!落ちたらどうするのよ」
「大丈夫。落ちても離さないから」
サクラの温もりと怒鳴り声に、カカシはやっと安堵することができた。自分を抱きしめたまま動きを止めたカカシに、サクラは困惑気味に訊ねる。
「カカシ先生、何かあったの?」
「何でもないよ」
言いながらも、カカシは腕の力を緩めない。
暫らくその体勢のまま木の上にいた二人の耳に、子供の鳴き声が聞こえてきた。
「いけない!!」
サクラは渾身の力を出して、カカシの身体を引き剥がす。
あたふたと木の枝を下るサクラに続いて、カカシも地上に下り立った。駆け寄ったサクラが泣く子供を一生懸命にあやしている。
「ごめんね。一人にして」
サクラの向かい側にいるのは、4,5歳くらいの子供。
ちょうど、夢に出てきたサクラの娘にそっくりだ。驚きに目を見張っているカカシに、サクラが振り向きざまに声をかける。
「実は、叔母さんが連れてきた子供の世話任されちゃって。子守りの隙に家を抜け出してきたの」
サクラが木の上にいる間一人にされた子供はまだぐずって泣いている。
「カカシ先生子供嫌い、だよね」
サクラはカカシを見上げて心配そうに訊いた。
カカシがこの時、サクラに否の返事をしたことは言うまでもない。
さも意外だという顔をした後、サクラは嬉しそうに笑った。
あとがき??
ギャグ、ギャグ、と思って書き始めたのに、途中から暗く!!!あれーー!?
本当にこれギャグを目指した作品なのか??
っていうか、「ジャングルはいつもハレグゥ」自体、本来は暗い話なのよね。
ウェダ、15でハレを生んでるし、おかげで親に勘当されて家追い出されたし。(泣)
というわけで、不本意ながらシリアスになってしまったお話でした。
ハレグゥ2巻のクライヴ先生とウェダの会話をそのまま模しているので、合わせて読むと楽しいかも。モモちゃんの名前は友達の姪の「桃花」ちゃんから。
桃色のモモ。可愛い名前だわ。モモは友達の飼い猫の名前でもあるな。ハッ、ミヤハラさんの名前もモモだ。