アダルト・ハーフ


「ねぇねぇ、サクラ。今日こそ返事を聞かせてよ」

サクラの後方を歩くカカシが、大きな声で彼女に問い掛ける。
一体、何の冗談なのかしら。
近頃何の臆面もなく自分に接してくるカカシに、サクラは正直戸惑っていた。
任務終了後、片時も離れずサクラを口説いている。
今日は先日申し込んだ“結婚を前提としたお付き合い”の返事を、どうしてもサクラの口から聞きたいらしい。
最初はかるくあしらっていたサクラも、今や抜き差しならないところまで追い込まれている。
はっきりした返答をしないかぎり、カカシが引き下がりそうにないことを悟ると、サクラはおもむろに振り返り、カカシと向き合う。
少しばかりのからかいの気持ちから、サクラは意地悪な笑顔を浮かべて言った。

「じゃあ、土下座してみてよ。ここで」
サクラは足元の地表を指差した。
公衆の面前。
道行く人は、立ち止まっているサクラ達に軽く視線を向けている。
「それなら付き合ってあげてもいいわよ」
やれるものなら、やってみなさいよ。
そんな気持ちのこもった挑発的な声。

だけれど、カカシから返ってきたのは、サクラの予想に反する答えだった。
「何だ。そんなことでいいの」
サクラが驚く間も与えず、カカシはサクラの望み通りの行動を起こす。
膝を突いたカカシは、周囲の人々から好奇心一杯の視線が投げかけられたが、表情一つ変えなかった。
「サクラが好きだからどこにもいかないでください」
ひれ伏して請うカカシに、サクラは耳まで真っ赤になる。

サクラは悲鳴をあげながら、カカシの腕を引っ張った。
「や、やめてよ。分かったから、立ってよ!」
恥ずかしくて、死にそうな気持ちだ。
サクラの泣きが入る懇願に、カカシはようやく顔をあげた。
「サクラ、俺のものになってくれるの」
表情は子供のような笑顔。
純真で、裏表の無い言葉。

カカシの手を離したサクラは、ため息をつくとカカシの傍らに座り込む。
「・・・先生、プライドはないの」
サクラはカカシの顔を覗き込むようにして訊ねた。
普通、そのようなことを言われれば怒る。
だが、困惑した表情のサクラにカカシは笑いながら言った。
「あるよー。木ノ葉岳よりもたかーーいのがね。でもね、サクラのためだったら、そんなものどっかにいっちゃうんだ」
にこにこ顔で自分を見詰めてくるカカシに、サクラは手を上げてバンザイのポーズをする。
「何だか、降参って感じ」

 

次の休み、サクラは長い間音沙汰のなかったアカデミーの友達と会う機会を得た。
男女合わせて10人ほどの集まり。
久々に会ったというのに、サクラは終始男子達の態度に、どこかよそよそしいものを感じていた。
「どうかしたの」
不思議そうに訊ねるサクラに、少年は一定の距離を保ちながら彼女に喋りかける。
「サクラさ、上忍のカカシと付き合ってるって本当なのか」
「え、本当だけど」
瞬間、少年の顔が色をなくす。
「おい、やっぱり噂は本当みたいだぞ!」
彼は他の友人達の元に駆け出した。

『写輪眼のカカシを土下座させた女』。
恐るべき異名が、サクラの知らぬ間に木ノ葉の里に浸透していた。

 

「カカシ先生、何とかしてよ!」
サクラは物凄い剣幕でカカシの家にあがりこむ。
友達と別れた後、さっそくカカシの家に直行したのだ。
「これじゃ、男の子の友達、誰もいなくなっちゃうわ。皆怯えた目で私のこと見てるのよ!」
「いいじゃん、別に。サクラには俺がいれば」
噂を流した張本人が白々しく言い放つ。
捲し立てるサクラと対照的に、カカシの方はどこ吹く風といった様子だ。

愛読書を読んでいたカカシは、サクラに顔を向けるとにこやかに笑った。
「サクラを独り占め〜」
心底嬉しそうに笑いかけられ、サクラの怒りはみるみるうちに収縮していく。
この先生には何を言っても無駄だ。
怒るだけ馬鹿らしい。
それに、こうしたカカシの笑顔はサクラだけに向けられるもの。
そう思うとサクラも何故だか嫌な感じはしない。

「先生って、大人だか子供だか分からないわ」
脱力したサクラはカカシのいるソファに勢いよく座り込む。
再び本に視線を戻したカカシはさらりと言った。
「サクラの前だと子供に戻っちゃうみたいよ、俺」

幼い頃から忍者として優秀な活躍をし、純粋に子供でいられる時間の少なかったカカシにとって、そうした時間はとても貴重なもの。
でも、サクラはそうした事情を全く知らない。
「大きな子供だこと」
肘掛に頬杖を付きながらカカシをちらりと見遣る。
サクラの視線に気付くと、カカシは愛読書を放り出すように机に置いた。
「じゃあ、さしずめサクラは俺のママかな」
言いながら、カカシはサクラの膝を枕にごろりと横になる。
満面の笑みを浮かべて自分を見上げるカカシに、サクラは呆れ顔だ。

カカシの頭を撫でながら、サクラは笑いを含む声で呟いた。
「子供なうえに、甘えん坊だわ」


あとがき??
潔いカカシ先生に、『源氏』の克巳を思い出した。そういえば、あれも彼女の名前、さくらだ。あれ。
イメージはCHARAの「Family」だったんだけど。
“いかないでね ひざまずくよ”のあたり。

『アダルト・ハーフ』は、藤原薫先生の連載作品。
しかし、読んでないので、話はリンクしてません。(だって、掲載誌がマイナーすぎて本屋で見つけられない(泣))
半分大人、半分子供、みたいな意味らしいですね。

『イノセント』は本当はカカサクナルなのですが、今回カカサク中心でナルサク入れられなかったので、別に話を用意します。
ナルサク中心でこの話と対になる話です。ナルトがちょっと可哀相、かな。

『イノセント』に投票してくださって皆様、有難うございました。


駄文に戻る