鬼ごっこ 壱


ターゲット捕捉。

奴を仕留めれば、締めて100人目。
これで今月のNO.1はうちの班に決まりだな。

 

カカシは目標物を遠目にほくそえんだ。
一桁での僅差なのだが、最近どうにも他班にトップの座を持っていかれている。
暗部の内部では上下関係が厳しく、年若いというだけで差別的な指示をされることが多々ある。
だが、いい成績さえ出せば、年長者に先輩面をされずにすむのだ。

ターゲットのすぐ側に、なにやら別の生き物の気配を感じたが、カカシはさして気にしなかった。
ごく微力なものだし、ターゲットのように怯えた気を発しているわけでもない。
森に住む小動物かなにかだろう。
単純にそう思った。
しかし、そうした油断が、後々までカカシの足を引っ張る結果になろうとはこのときは思いも寄らなかった。

 

「見―つけた」

息を切らして木の幹に寄りかかっていたターゲットの男が、びくりと身体を震わせた。
中忍程度の実力しかない彼が、暗部の手から逃れるために森を走り回り、随分体力を消耗したのであろう。
カカシの姿が視界に入っても、彼はすでに逃げる様相を見せなかった。
「いや、感心感心。最初から素直に降参してくれれば楽だったのにねぇ。ま、すぐすむから」
喋りながら、わざとゆっくりと歩み寄る。
恐怖に顔を引きつらせる男に、カカシはにやにやと意地悪く笑った。
「してみる?抵抗。痛いだけだよ」

カカシの頭の中は、すでにターゲットの殺傷法についてで一杯だ。
てこずらせてもらったぶん、少し苦しんでもらおうか。
それとも、もたもたしているとすぐに他の班が追いついてくるだろうから、さっさとすませるか。
どっちにしろ、洗濯が面倒だから血が派手に出るやり方は好ましくない。
カカシはそんなことを考えながら、額の位置にずらしていた仮面を顔に装着した。

この面は暗部が仕事をする際、必須なものであり、任務中に外すべきものではない。
素顔を知られては、何かと動きにくい場合があるからだ。
暗部の人間がその顔を見られたとき、何らかの処罰を受けることになっている。
だがカカシは獲物を狩るとき、どうせ殺す相手だからと面を外していることが多かった。

 

相手に動きがないことを見て、カカシはゆるゆると言葉を続ける。
「さて、じゃあ、おしゃべりにも飽きたし」
カカシの声のトーンは日常会話と変わらない穏やかなもの。
おそらく、面に隠された顔にもたいして表情はないことだろう。
寒くはないのに、ターゲットの男の身体が震えだす。
この場所だけが極寒の地になったかのように、凍てついた空気が流れている。
男は無意識のうちに瞳を閉じた。
「バイバイ」
別れの言葉を冷酷につむぎ、手にしたクナイが急所目掛けて投げられる。

これにて任務終了。
あとは死体処理班を呼ぶだけだ。
カカシの班は見事NO.1の地位を手にし、他のどの班にも大きな顔をすることができる。

はずだった。

 

カカシがターゲットにクナイを向ける直前、あらぬ方角から人の声が聞こえた。
「ひ・・・」
それは、目の前にいる男の声ではない。
ターゲットはすでに死の恐怖に気絶せんばかりに硬直している。
「ひ?」
クナイを握ったまま思わず声のした方を振り返ると、いつからいたのか小さな子供がカカシ達を見詰めている。
子供は驚いている表情だったが、カカシも負けずに驚いていた。
民間人が、どうしてこの森の中に。
抜け忍が森に入り込んだという報を受け、付近の住人には避難勧告が出ていたはずだ。

混乱するカカシに、何を思ったのかその子供は突進してきた。
「げっ!」
青くなったカカシによける暇も与えず、子供は勢いよくタックルする。
恐るべきスピードだ。
「人がいたーーー!!!」
子供はカカシにぶつかるのと同時に叫び声をあげた。

おそらく、全体重をかけていたのだろう。
何の用意もせずに飛びつかれ、カカシはその場にひっくり返る。
「何すんだ、このガキはー!」
素早く起き上がろうとしたが、子供はがっしりとカカシの身体を押さえ込んでいる。
「嬉しいよー!!」
子供は目に一杯の涙をためて大声をあげて泣き出した。
至近距離での子供の泣き顔に、理由が分からないなりに、カカシはギョッと目をむく。

そして、こうしたハプニングをターゲットが見逃すはずはない。
暫らく呆然と様子を見ていた彼だが、我に返ると素早く身を返した。
「あ、こら、待て!逃げるな!!」
カカシが静止の声をかけたが、もちろん、殺されると分かっていてすんなりと聞く馬鹿はいない。
子供がカカシにしがみついているのを幸いに、ターゲットの姿がみるみるうちに遠ざかっていく。

カカシは子供の頭を押さえつけるようにして怒鳴った。
「離せ、このクソチビ!」
「離すもんですか!!ようやく、ようやく人に会えたのに!今まで一人でどんなに怖かったと思ってるのよ!」
「そんなの俺が知るか!」
ターゲットに向けて伸びたカカシの手が虚しく空を掴む。
「俺のNO.1がーーー!!」
「逃がさないわよーーー!!」

 

「・・・・何やってんの」
もみ合う二人に冷静な声がかけられる。
同時に見上げると、カカシと同じ班に所属する忍があきれ返った顔で二人を見ていた。


あとがき??
・・・済みません。言い訳は後半に書きます。
後半、ほぼ出来ているので、近いうちに。(汗汗)
うちの暗部はスリーマンセルで活動しているみたいです。


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