君は僕の宝物


任務終了後の帰り道。
二人並んで歩く、いつもの光景。

会話の途切れた少しの合間、カカシは出し抜けに問い掛ける。

「サクラ、この手は何のためにあると思う」
「手―?」
サクラは自分の手を見詰めて語尾をあげる。
軽く握ったり、開いたりと繰り返した後、彼女はカカシを見上げて答える。
「物を取るため」
「ブー」
「・・・何よ」
即座に否定され、サクラは膨れ面だ。
その素直な反応に、カカシは忍び笑いをもらす。

「俺の手はね・・・」
言いながら、カカシはサクラに向かって手を差し出した。
手招きをされ、サクラは自然にその手に自分の手を重ねる。
「サクラと手を繋ぐためにあるんだよ」
サクラの手を握ると、カカシはにこやかに笑った。

カカシの眼差しはどこまでも温かく、言葉はサクラの心に深く染み入る。

「足はね、サクラと一緒に歩くためにあるの。口はサクラと会話するためにあるし、目はサクラの日々変わっていく姿を見守るためにある。ほら」
カカシは少しだけサクラの手を引く。
「ぜーんぶサクラのだよ。嬉しい?」
満面の笑みを浮かべるカカシに、サクラは僅かに目線をそらした。

「・・・先生って、馬鹿ね」
「馬鹿だよ。馬鹿は馬鹿でも、サクラ馬鹿。嬉しい?」
どうやら、サクラの口からその一言を聞きたいらしい。
大人気なく、カカシは再び繰り返す。

サクラは面白くなさそうに口をとがらせた。
何とか誤魔化そうとしているが、その頬はうっすらと赤らんでいる。
「・・・ずるい」
「え?」
「カカシ先生はずるい!!」
「何でよ」
サクラの突然の物言いに、カカシは心外だとばかりにふてくされた声を出す。
だが、サクラは気にもとめず主張を続けた。
「だって、いっつも私がドキドキするようなことばかり言うんだもの。私だって、気の利いた台詞の一つも言ってみたいわ!」

目をむいたカカシは、思わずといった風に吹き出す。
「笑いごとじゃないの!」
サクラはカカシを睨みつけると、怒り顔で握りこぶしを作る。
「このままじゃ私ばかりカカシ先生のこと好きになって、不公平でしょ」

カカシはサクラより長く生きている分、人生経験が豊富だ。
だから、サクラを喜ばせる言葉もすぐに出てくる。
それをサクラは嬉しいと思う反面、悔しいと感じるのだ。
サクラには胸のうちをダイレクトに伝えるしか能がない。
カカシにも、自分といるときにもっともっとドキドキしてもらいたいと思うのに。

 

「ああ、こんなことならもっと恋愛小説でも読んでおくんだったわ。教科書にはそんなこと書いてないもの」
いつまでもぶつぶつと考え込んでいる様子のサクラに、カカシは再び訊ねた。
「サクラ、俺のこと好き?」
「好きよ」
臆面もなくすんなりと口にできる言葉。
「サクラがそう言ってくれるだけで、俺は天にものぼるほど幸せなんだけど。駄目?」
愛情あふれる笑顔を向けられ、サクラは押し黙る。

「・・・でも、「好き」だけなら動物にも友達にも言うし、単純だわ」
と、呟いた瞬間、サクラの頭に妙案が浮かぶ。
「そうだ!」
サクラは先ほどまでの浮かない表情を一変させる。
立ち止まったサクラは、興奮の面持ちでカカシの両手を取った。

「カカシ先生に、私の「好き」を全部あげる」

驚いているカカシに、サクラは楽しげな笑みを浮かべた。
「私、これから先生以外の人に「好き」って言わない。だから、私の一生分の「好き」は先生のものよ」
力強く宣言すると、サクラは好奇心一杯の瞳でカカシを見詰めてくる。
「先生、どう?どう?」
「・・・うん」
カカシは珍しく言葉をつまらせながら言う。

「すごくドキドキした」

 

その可愛らしい提案はもちろんだけれど。
なによりも。
サクラのくるくるとよく変わる表情と、はじけんばかりの明るい笑顔に。


あとがき??
・・・路線変更?
久々に頭に浮かんだカカサクネタがこれですか。馬鹿は私だよ。ゲフッ。(吐血)
ストーリー性のないらぶらぶ話はなるべく書かないと決めていたのに。
当初は、もっと暗めの話にしようかと思ったのだけれど。あれ?

とどのつまり、カカシ先生はサクラちゃんと手を繋ぎたかったんです。前振り長すぎ。
私だったら、引いちゃうけどなぁ。
とにかくバカップルが書きたくて書いたので、これはこれで満足です。


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