ちち T
「サクラー、よく来たね。これ見て、これ!」
カカシはその日家に遊びに来たサクラを、満面の笑みで迎えた。
椅子に座るなり、発売されたばかりの『木ノ葉通信 9月号』をサクラに見せる。
「これがどうしたの?」
「いいから、いいから。巻頭ページをめくってみてよ」
手渡された雑誌には、めくりやすいようしるしがつけてある。
サクラは訝りながらも、言われたとおりページを開く。見開きのカラーページに堂々と掲載されているのは、サクラの顔写真。
サクラは可愛らしい笑顔をレンズに向けている。
見出しには《美少女ランキング(下忍編) 結果発表》と大きな飾り文字で書かれていた。「な、な、何これーーー!!!」
「驚いたー?」
大きく目と口を開けたサクラに、カカシは満足そうに笑った。
「驚いた、じゃないわよ。どういうことよ!」
興奮気味のサクラに、カカシはかいつまんで事情を説明する。
「俺が応募したんだ。自薦、推薦、問いませんってあったから」
サクラはいまだに呆然として雑誌を見ている。思い返してみると、確かにカカシが不自然にカメラを持参して任務に赴いたときがあった。
フィルムが余ってるからと適当な理由をつけて下忍達を撮影していたが、これが目的だったのだ。
サクラは呆れてしまって声も出ない。
サクラの隣りに映っているはずのナルトの顔が、途中で切れてしまっているのが何となしに哀れだ。
「ほら、サクラ1位なんだよ」
「え、嘘!?」
驚きのあまり注意して見ていなかったサクラは、カカシに指をさされ順位に目をとおす。
サクラは確かに1位の場所に名前が載っている。
しかし、一人ではなかった。
新人下忍のいのとヒナタの名前も写真付きで同率1位として掲載されていた。
「先生は鼻が高いなぁ。同じ班に下忍一の美少女がいるなんて」
カカシは嬉しそうにサクラの頭を撫でた。顔を赤くしたサクラは雑誌にもう一つ、しるしがついているのを見つける。
「あれ、これは?」
質問と同時にぺらりとページをめくった。
こちらの見出しには《抱かれたい男ランキング(上忍編) 結果発表》とある。
しかも、2位を引き離してぶっちぎりの1位はなんと、今サクラの隣りにいる上忍の先生だ。「こ、こ、これも自薦なの!?」
サクラがどもりながら訊ねると、カカシはサクラの手元のページを見て笑い声をあげた。
「まさかー。こっちのページからは推薦部門。ちなみに俺、5年連続で1位なんだ」
カカシは鼻高々に腰に手を当てている。
「良かったね、サクラ。友達に自慢できるよ」カカシは楽しそうに笑っていたが、サクラの心中は複雑だった。
自分と付き合ってる人間が1位というのは嬉しいと思うが、そこまで人気があると知ると心配でもある。
黙り込んで雑誌を凝視するサクラに、カカシは彼女の心情を読み取ったのか苦笑しながら言った。「何、心配になっちゃった?」
サクラは勢いよく顔をあげると、真っ赤な顔で反論する。
「ち、違うわよ。先生みたいにいいかげんで、ぐうたらで、ろくでなしが女の人にもてるなんて、信じられないだけよ」
「言うねー」
カカシは余裕の表情でにやにやと笑う。
「でも、サクラちゃんはそんなろくでなしの俺が好きなんだよね」カカシの切り替えしに、サクラはぐっと言葉につまった。
カカシは面白そうにサクラを見詰めている。
サクラは雑誌を丸めてゴミ箱に放ると、乱暴に言葉を返す。
「そうよ!!悪い!?」開き直り、大きな声を出したサクラに、カカシは大爆笑したのだった。
『木ノ葉通信』は、木ノ葉の里で刊行され、多くの忍に読まれている大衆紙だ。
ゴシップネタが多いのだが、たまにこうした人気投票を行っている。
サクラはカカシがジュースを取りにキッチンに行った隙に、ゴミ箱を探り再び雑誌を手に取った。
よくよく見ると、美少女人気ランキングには、投票理由も少しばかり載っている。
サクラは写真の隅にあるその小さな文字を丹念に目で追う。(可愛いからだってばよ)
(死ぬまでアナタを守ります!)等々、サクラのスペースにはどこかで見たような口調で書かれたものがある。
しかし、サクラが注目したのは、一番最後に書かれた文。(無い乳もまた魅力の一つ!)
サクラの頭を「ガーーーン!!!」という文字が占める。
ショックなんてものではなかった。
100kgの重りが頭を直撃したのと同じぐらい、サクラは衝撃をうけた。
確かにある方だと思っているわけではないが、胸はサクラにとっておでこ同様コンプレックスの一つだ。
それを活字にされてしまうと、より一層傷口を抉られたような気持ちになる。ふらふらと立ち上がると、サクラは玄関へと向かった。
「あれ、サクラ、もう帰っちゃうの」
キッチンから戻ったカカシは驚いてサクラに声をかける。
振り向いたサクラの瞳が、涙で一杯だったことで、カカシはギョッと目をむく。「・・・・カカシ先生、ごめんなさい」
「は?」
突然謝罪されても、カカシには何のことだかさっぱりだ。
「ごめんなさい」
「・・・・」
更に繰り返されるサクラの言葉にカカシの頭は大混乱に陥る。
呆然とするカカシを尻目に、サクラは踵を返した。
引き止めるカカシの言葉にも耳を貸さず、扉の外へと飛び出したサクラは、自宅までの道を駆け抜ける。
胸がないのは、別にサクラのせいではない。
だが、女性に一番人気らしいカカシの彼女が、このように貧弱な身体なのではまるでつり合わないのでは。
そのような考えがサクラの頭をぐるぐると回る。
いたたまれない気持ちで一杯になり、サクラはすっかり意気消沈していた。
あとがき??
これ、江戸川花火大会に行ったときに考えた話だから、随分時間たってます。(だから『木ノ葉通信』が9月号)
花火見ながら、何考えてるだよ、私。(笑)
この話は、抱かれたい男NO.1に輝いたカカシ先生に「良かったね、自慢できるよー」と言われるサクラ、という意味ありげな場面が書きたかっただけ。
意味深な理由、分かります?(笑)
続き、どうしよう。