真実の行方 3


「びっくりしたわよ。カカシ先生、突然うちに来るなんて言うんだから」
「うん。まぁね・・・」

久々の休日。

サクラはカカシと肩を並べて歩いている。
カカシがこの日サクラの家に赴こうと思ったのは、謝罪をかねて、サクラの両親に彼女との仲を認めてもらうためだ。
彼女の年齢からすぐに籍を入れることは無理だが、いずれはと考えている。
それが、“木ノ葉通信”に載ることを逃れる唯一の手段。
責任さえ取れば、何かしらの罰を受けようとも、罪は軽くなるはずだ。

しかし、覚悟を決めたからといって、サクラの両親に会うことに多少ためらいはある。
カカシはおずおずとサクラを見る。

「・・・あのさぁ、サクラ、子供のこと両親には」
「知ってるわよ。すごい喜んでた!」
サクラはカカシを見上げてさも嬉しげに笑う。

その返答に、カカシは正直驚いた。
なんておおらかな両親なのかと。
娘を傷物にされたあげくに、妊娠発覚などといったら、普通は怒り狂うことだろう。
それを逆に喜んでいるらしい。

 

カカシが首を捻るのと同時に、サクラは喜々とした顔でカカシに訊ねる。
「それでさ、名前、何にしようか。私、いろいろ考えてるんだけど」
「・・・何ての」
「ラッキーとか、ハッピーとか」
「・・・・」
カカシは怪訝な顔でサクラを見下ろしたが、サクラの眼は真剣だ。
「・・・ちょっと派手じゃないか」
「えー、そうかな。普通よ」
サクラは不満気に答える。

木ノ葉の里で、そのような名前の人間がいたら、相当目立つことだろう。
そしてサクラは奇を衒う性格ではなく、いたって真面目な常識人である。
今までの会話の流れから、カカシが何か変だと思い始めたその時、前方を見詰めていたサクラが、唐突に声を出した。

「あ、お母さんだ!待っててくれたのかしら」

 

サクラの声に反応し、カカシは彼女の目線をたどる。
瞬間、カカシは目をむいて「お母さん」を見た。
そのままの表情で、無遠慮に指を差して確認する。
「・・・お、お母さん。あれが?」
「そうよー」
言いながら、サクラは彼女に駆け寄る。
そうして、サクラに近づいてきた彼女を腕に抱え上げた。
「ほら、カカシ先生に挨拶して」
サクラは促すようにして言う。

「・・・こんにちは」
カカシは彼女に先んじて挨拶をする。
顔は平静を装っているが、頭の中は大パニックだ。
サクラの腕の中にいる、「お母さん」。
それは、どう見てもサクラが新年会に連れてきた飼い犬そのものだった。

 

 

「間違いだった?」
「うん。そう」

カカシはアスマに対して、久々に晴れやかな笑みを見せた。
任務報告の帰りに、偶然に建物の廊下で出くわしたのだが、アスマはカカシの悩みが良い方に解決したのだと、すぐに看破した。

「子供が出来たってのは、サクラの犬のことだったんだよ」
「犬?」
「そう。サクラが新年会に連れてきたときに、うちの忍犬の一匹と仲良くなったらしくてね。全く手が早くて。誰に似たんだか」
カカシは笑いながら頭をかく。

そういえば、とアスマは先日講師控え室で紅がサクラの伝言を伝えたときのことを思い出した。
あの時、紅は「ちょっと言葉が足りなかった」と言っていた。
たぶん、「犬に子供が出来た」の「犬」の部分を省いて伝えたことを示していたのだろう。
この一言が抜けただけで、大きな違いだ。

「でも、サクラが言ってた「初めて」ってのは何だったんだよ」
アスマは気付いたように言う。
「ああ、あれね・・・」
カカシは、ふいに視線をそらす。
そこには、非常に言い難い事情があった。
こればかりは、カカシの過失だ。

 

 

新年会の行われた日。

酒を口にしたカカシはすぐにソファで爆睡してしまい、用意した料理等は下忍3人が殆どたいらげた。
あとには、散らかし放題の部屋。
カカシ同様、酒を飲んでへべれけ状態のナルトはサスケに送ってもらい、部屋の後片付けをするためにサクラは一人カカシの家に残った。

「・・・気楽なものよねぇ」
散乱した菓子の袋を手に取りながら、サクラはソファで眠っているカカシを横目で見る。
カカシはすぐに眠ってしまったが、酔っ払ったナルトが暴れて大変だったのだ。
「そりゃ、面白がってナルトがお酒を飲むの止めなかったのは悪かったけど」
サクラはぶつぶつとぼやきながらも、整頓を続ける。
すると、サクラの言葉に反応したわけではないだろうが、カカシがガバリと身体を起こした。

「あれ、先生、起き・・・」
「サクラ、ゲームしよう!」

ずかずかと歩み寄ると、カカシはサクラの腕をがっしりと掴む。
「え、ちょっと、私片付けないと」
「大丈夫。あとで先生が手伝うから。ね、しよ。すぐしよ」
カカシの眼はどう見ても尋常ではない。
まだ酒が残っているのだということがありありと分かる。
そもそもよっぱらいに逆らうという行為そのものが無意味だ。

「・・・ゲームって何よ」
サクラはため息混じりに呟く。
カカシはにやりと笑ってサクラを見た。
「野球拳」

 

 

野球拳とは。

ジャンケンに負けた者が着衣を一枚ずつ脱いでいくという、しごくオーソドックスなゲームである。
主に、宴会等で興がのった時に仲間うちで行われる場合が多い。

当然のことに、サクラは抵抗した。
それが功を奏さなかったのは、すでに下着姿にまで追い込まれているサクラを見れば瞭然だ。
サクラの連れてきた犬や忍犬達は、彼らには無関心に部屋の隅でじゃれ合っている。

「これで最後よ!終わったら部屋を片付けるのよ」
「んー、分かった分かった。次の勝負で最後ねー」

意気込むサクラに対して、同じく下着姿なのに、どこか余裕のあるカカシ。
集中すると周りの見えなくなる性分のサクラは、すでに勝負の二文字にのめり込んでいた。
お互いの状況から、次が本当にラストチャンス。
「じゃあ、いくわよ。最初がグー、ジャンケン」
オーバーアクションで振り上げると、二人は同時にを手を出す。

「「ポン!」」

声は見事に重なった。
そして。

崩れ落ちるサクラ。
微笑むカカシ。

勝敗は喫した。

 

「うう。チョキが続いたから、次こそはパーがくると思ったのに・・・」
「甘いねー、サクラ」
悔しげに涙するサクラに合わせて、カカシもしゃがみ込む。
「でも、頑張ったからご褒美」
軽い口調で言うと、カカシは顔を寄せてサクラにキスをした。
サクラの眼が大きく見開かれる。
「これで勘弁してあげる」
顔を離すと、カカシはにっこりと笑って言った。
突然のことにサクラは瞬きすら出来ずに硬直している。

「楽しかったねぇ。じゃ、今日はこのへんで寝ようか」
「・・・・えぇぇ?」
呆けたように声を出すサクラに、カカシはあっさりと言う。
「サクラの片付けは明日手伝うからさ。俺、もう眠くて仕方ないんだー」
欠伸を一つすると、カカシは本当に眠そうに目元を擦った。

 

 

「んで、サクラをベッドに連れこんで熟睡した、らしい。サクラの話によると」

らしいというのは、知ってのとおり、カカシにその辺りの記憶が全く無いからだ。
だが、彼女の話はそのまま信じてしまって良いだろう。
嘘を言ったところで、彼女にはメリットもない。

「初めてってのは、キスのことだったみたいね」
カカシは感慨深げに言う。
サクラくらいの年齢は、キスの一つや二つで大騒ぎするものだと、カカシは初めて知った。
カカシにしてみれば、コミュニケーションの一つとしか思えないのだが。
サクラの過剰な反応に、つい深読みした自分が馬鹿みたいだ。

 

カカシの顔を見ながらアスマはいささか怪訝な表情をする。
「でも、お前何だか落胆してないか」
「あ、分かる?」
カカシは頬に手を当てて答える。
「間違いなら、間違いで、ちょっと残念かなぁ、何て、思ったりして」
へらへらとした笑い顔を見せるカカシに、アスマは開いた口がふさがらない。
それまでの意気消沈振りを知っているだけに、アスマは呆れてしまった。

「・・・それで、結婚を前提にしたお付き合いはやめたんだろ」
「いや。サクラとの交際は真剣に考えてるよ」
とたんに、カカシは真面目な口ぶりになる。
「妊娠が分かったから付き合うっていう過程が、条件付きみたいで嫌だっただけで、サクラのことは好きだし」
「おい」
慌てるアスマに、カカシはにこやかな笑顔を向ける。
「大丈夫だよ。子供出来ないように注意するから。いろいろ心配かけて悪かったな」

それだけ言うと、カカシは踵を返して歩き出した。
足取りは、どこか軽やかだ。
悩み事が解決し、ようやく本調子が出てきたというところか。
だけれど。

 

「俺が言いたいのはそういことじゃなくて」
アスマはすでに遠くにあるカカシの後ろ姿に向かって呟く。
無駄だということは知っているが、言わずにはいられなかった。

「教師と生徒の恋愛はご法度だと言いたかったんだが・・・」


あとがき??
はい。元ネタは『めぞん一刻』です。(笑)ほぼそのまんま。
大体、ベッドの様子とか、身体を見れば、ことがあったのかどうか分かるだろう、ということは言っちゃ駄目!(^▽^;)
こんなお馬鹿な話、長々と。すみません。
でも、ずっと書きたい題材ではあったので、無事に完成して満足です。(これが!?)

サクラが「お母さん」と言っていたのは、「お母さん犬」という意味です。
あと、カカシ先生は写輪眼を持っているので、どうやってもサクラはジャンケンに勝てません。
それを、負けて見せたのは、わざと。
カカシ先生はサクラの一喜一憂振りを楽しんでいたのだと思われます。・・・嫌な人だな。
野球拳の変な歌は面倒なので省く。
どうでもいいけど、カカシ先生どんな下着付けてるんだろう・・・。やはり黒系?

それにしても、自分で考えたとはいえ、あまりの馬鹿さ加減に本気で削除を考えました。(=_=;)
しかし、一応続きを待っている方もいらっしゃると思い(たぶん)掲載を決意。
く、苦情は受け付けてません。すみませんー。


駄文に戻る