年上の彼氏によろしく
サクラと付き合いだして、まだ1ヶ月ちょっと。
そのくらいの期間だと、普通は互いに始終一緒にいたいと思う時期だろう。
そのはずなのに、サクラは思いのほかドライな性格だった。「サクラ、次の日曜日、一緒に映画観に行こう!」
うきうき気分の自分とは反対に、振り向いたサクラは渋い顔。
「ごめんなさい。日曜日はちょっと用事があるの」
無理強いはしたくないけれど、その返答にちょっとガッカリする。
「何、どんな用事?」
「・・・ちょっとね」
別に、恋人同士だからといって、何でもかんでも報告しろとは言っていない。
だけれど。
「あんな風に意味ありげに顔背けなくたっていいじゃないか」
ぶつぶつとぼやきながら町中を歩く。
結局サクラからはっきりとした返事はもらえず、もやもやした気持ちだけが残った。
今日は久々の休日だというのに、全く心が晴れない。「気晴らしに本屋でイチャパラシリーズの最新刊でも・・・」
買おうかな、と続く言葉は途中で止まってしまった。
視界に、思いも寄らない人物が入ったからだ。サクラ。
と、見知らぬ男。その二人連れは俺のいる方角へは目もくれず、親しげな様子で通り過ぎていく。
思わず、彼らのあとをつけてしまった自分を、誰が責められよう。
こっちの気も知らず、前を行く二人はいちゃいちゃと睦まじく談笑している。
サクラが彼の腕にしっかりと手を絡ませているのも、気になるところだ。
彼らの周りには、誰も入り込めない、バリアーのようなものすら張り巡らされているように感じる。
これは恋人同士にだけ許された空間じゃないのか。
俺はイラつく気持ちを何とか押さえて、二人の監視を続けた。相手の男。
自分とそう変わらない年齢と思われる彼は、黒髪に緑の瞳のなかなかの男振り。
そして、優しげな笑顔をサクラに向けている。
その微笑は、はたから見てもはっきりと分かるほど、サクラに対する愛情であふれている。
対するサクラも、よほど心を許しているのか、俺にすら滅多に見せない極上の笑顔だ。
これだけで、二人の関係が知れようというもの。
萎えてしまう心を何とか叱咤して、彼らの尾行を続ける。そうして、転機は思いのほか早く訪れた。
俺が道の端にあった空き缶を、蹴飛ばしてしまったのだ。
おかげで、大きな音が鳴った。
普段なら、絶対にやらないミス。
自らの動揺ぶりが窺い知れる。
当然、サクラ達も俺のいる方を振り返った。
「か、カカシ先生!?」
驚いた様子のサクラは、目を丸くして俺を見る。
「どうして、いるの?」
駆け寄ったサクラは怪訝な表情をして訊く。
俺は汗をかきながらも、必死に言い繕った。
「どうして、ってたまたま通っただけだけど・・・」「サクラ?」
サクラの後ろからついてきた男が不思議そうにサクラに問い掛ける。
サクラはハッとした様子で、その男と俺を見比べた。「え、えーと、ミキヒサさん、こちらは私の担任の先生。カカシ先生って言うのよ」
サクラは心なし、“担任の先生”の部分を強調しながら言った。
そのことに、俺は少なからずショックを受ける。
期待していた“サクラの恋人”という紹介ではなかったからだ。だが、ミキヒサという名前らしい彼は、サクラの言葉に顔を綻ばせた。
「どうも。サクラがいつもお世話になってます」
丁寧にお辞儀をされる。
別に、あんたにお礼を言われる筋合いはない、と思いつつも、礼儀正しい相手に合わせて、こちらも返礼した。「カカシ先生、ミキヒサさんは私の・・・」
「あ、サクラ!」
唐突に大きな声を出し、ミキヒサは街頭にある大時計を指し示す。
「もう4時過ぎてるよ」
「え、本当だー!!!大変だわ!カカシ先生、ごめんなさい。また来週ね」
叫び声をあげたサクラがミキヒサの手を引き、彼らは慌しい様子で俺の前から退散する。
あとに残された自分はこう、呟くしかなかった。「・・・結局、誰なんだよ。あれ」
ぶすっと膨れっ面をして現れた俺に、さしものサクラも気付いたようだ。
「どうしたの、カカシ先生。珍しく早く来たと思ったら、そんな不機嫌そうな顔して」
サクラの言うとおり、時刻は7班の集合時間より、15分も早い。
それもそのはず、昨夜は悩みに悩んで、ついに眠れなかったからだ。
以前なら何日徹夜をしても平気だったが、今では目の下にクマがしっかりとできるようになったしまった。
俺も年ということなのか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
サクラに、どうしても訊かなければならないことがある。「・・・サクラ、あのミキヒサって奴」
「うん」
「お前の大事な人なのか」
俺と目線を合わせると、サクラはあっさりと頷いた。
「うん」
ショックが波の様に押し寄せたが、俺は何とか持ちこたえる。
「俺とどっちが大事?」その問い掛けに、サクラは一瞬きょとんとした顔になる。
まじまじと俺の顔を見ると、少し間を空けて、サクラは吹き出して笑い出した。
そのまま、大爆笑だ。「な、何が可笑しいんだよ!!」
「だって・・・」
腹を抱えたまま、サクラは苦しげに声を出す。
「自分の父親と彼氏、天秤にかけられるわけないじゃない。先生、何とちくるってるのよー」
アハハ、とサクラはなおも笑っている。
父親と彼氏。
頭を混乱させた俺は、何とかサクラの言葉を整理する。
彼氏というのは、自分のことだ。
絶対に。
ということは、父親というのは・・・。「あのミキヒサって、サクラのお父さんなのか!!?」
大きく声を出した俺に、サクラな目元の涙を拭いながら笑顔で頷いた。
「な、何で父親を名前でなんて呼んでるんだよ」
「お母さんがそう呼んでたから、小さい頃に私もそう覚えちゃったの。だからうちでは“お父さん”は“ミキヒサさん”なのよ」
サクラの答えに、暫し呆然とする。
先ほどまでは頭がカーッと熱くなっていたから気付かなかったけれど、今思うと、確かに思い至ることがあった。
ミキヒサの緑の瞳。
誰かに似ていると思ったら、サクラ自身に似ていたのだ。「じゃあ、俺のこと先生としか紹介しなかったのは」
「だって、彼氏だなんて言ったら、ミキヒサさんがうるさいと思って」
一般的に、娘の彼氏は父親の最大の天敵だ。
しかも、自分達には大きな年齢差がある。
サクラの最もな言い分に、俺も納得するしかない。
ただ一つ、疑問なこと。
「でも、何でお父さんと出かけること、内緒にしてたの」
「そ、それは・・・」
サクラはここに来て、何故か言いよどむ。
答えを待つ自分に、サクラはさも言い難そうに、ぼそぼそとした声を出した。「・・・・に行く約束してたから」
「え?」
小声のサクラに、その内容を聞き取ることができない。
「何って言った?」
「・・・り」
「え?」
もう一度、サクラに耳を近づけて訊き返す。
サクラは息を吸い込み、今までで一番大きな声を出した。「磯釣りが私とミキヒサさん共通の趣味なのよ!!」
友達に「じじくさい趣味」だと馬鹿にされた経験から、サクラはそのことを誰にも内緒にしていたらしい。
それで、昨日は全然釣れなかったから、代わりの魚をお店で買いに行く途中だった。
急いでいたのは、行き着けの魚屋が4時で閉店するせいだったそうだ。「でも、釣竿とか、道具持ってなかったじゃない」
「昨日はちょっと場所が遠かったから、向こうの釣り舟でレンタルしたのよ。釣れなかったのは、使い慣れてない道具だったせいだと思うわ」
サクラはそれから延々と釣りに関する口上を始めた。
おかげで、サクラの趣味が釣りだということは、はっきりと証明された。
ナルトとサスケがやってきたことで、釣りの話題から逃れられたことは幸いだったと言っていい。
ルアーの大きさがどうとか言われても、こっちはちんぷんかんぷんだ。
「俺もさ、釣りに興味あるから、サクラ今度一から教えてよ」
隙を見て、ナルト達に気付かれないよう耳打ちすると、サクラは嬉しそうに頷いた。
これは良いチャンスだ。
釣りをダシにサクラの父親と親しくなっておくことは、後々のためにも、大きくプラスになる。それにしても。
サクラの父親と自分が2つ3つばかりしか年齢が違わないことは、ちょっとショックなことだった。
あとがき??
サクラはミキヒサさんが18のときに出来た子供だから、カカシ先生と年齢近いのですね。(うちのカカシ先生27、8歳)
ちなみに、名前はマンキンの葉パパから。(笑)
磯釣りは、私のハニーちゃん、ロスユニのミリィの趣味。
皆が海水浴で楽しむなか、一人磯釣りを楽しむミリィ。若いのに、渋い趣味だなぁと思った記憶が。
ミリィ、すんごい好きだった。今でもラブ!!(もちろん、カップリングはケイン×ミリィでした)しかし、ミキヒサパパと友好関係を築こうというカカシ先生の目論見はかなり外れます。
今回書けなかったですが、ミキヒサさん子煩悩パパなので。
サクラとラブラブです。お風呂も一緒に入ってます。(!!)
大きな障害として、カカシ先生の前に立ちはだかります。
頑張れ、カカシ先生!・・・続き書きたいなぁ。
ああ、タイトルは大江千里の曲。(最近聴いてないけど)
サクラの彼氏=ミキヒサさんとカカシ先生ね。