幸せのカテゴリー T


傍にいれば。
分かるのだと思っていた。
カカシ先生のこと。
もっと、もっと近くにいれば、それだけ先生のことを理解できるのだと。

でも。
それは大きな思い違いだった。

傍にいればいるほど、分からなくなった。

 

 

「・・・何してるの」

先生は不思議そうに声を出す。
先生の胸に片手を当てて、凝固している私。
ちょうど、先生の心の臓の上。
トクントクンと一定のリズム。
先生の心臓が脈打っているのが分かる。

「先生のなかに入れるかと思って」

見上げると、予想通りの表情。
困った顔の先生。
言葉の真意を見抜けず、困惑気味。

でも、分からなくて、当然。
他人なんだもの。
同じ人じゃないんだもの。
カカシ先生だけじゃなくて、私の方だって分からないんだもの。

 

「ごめんさい」

その瞳を見詰めているうちに、自然にもれた、謝罪の言葉。
カカシ先生はさらに困り顔になる。

「どうして謝るの」
「うん」

会話にならない会話。
これ以上何も訊かれたくなくて、そのまま先生の胸に顔を押し当てた。
手に力を強くこめて、抱きしめる。
カカシ先生は、黙って私を受け止めている。

 

こういうとき。

私はとても寂しいと感じる。
一人でいるときより、二人でいるときの方が、ずっと寂しいと感じる。
私達は異質なものだと、分かってしまうから。

性別も外見も生い立ちも思考も、似たところなんて、一つもない二人。
そんな私達を繋げているのは、ただ、“好き”という気持ちだけ。
互いの心から、それが無くなってしまえば、終わりの関係。

頑張って先生との共通点を探したけど、何も見つからなかった。

 

 

「私、カカシ先生になりたい」

カカシ先生の胸の中で、ぽつりと呟く。
「サクラは、サクラだろ?」
カカシ先生は私の表情を覗き込もうとするけど、私は顔を上げない。
その身長差から、先生から私の顔は見えない。
「でも、先生になりたいの」

先生のなかに入ることができれば。
先生になれれば。
少しは先生の気持ちが分かるかしら。

 

人見知りしないカカシ先生は、友達が多い。
誰に対しても、すぐに打ち解けて、平等の笑顔を見せる。
そんな中。

時折垣間見せる、暗い表情。
寂しげで、不安げな。
注意して見ていないと気付かない。

私がどんなに頑張っても、カカシ先生は、ふとしたときに、そうした表情を見せる。
むしろ、私と付き合うようになってから、回数が増えた。
カカシ先生の記憶の何が、彼にそんな顔をさせるのか。
その気持ちを理解できないことが、無性に腹立たしい。

そして、申し訳ない気持ちで一杯になる。

私には、何も出来ない。
何か、苦しんでいるようなのに、救ってあげることが出来ない。
理解すらしてあげられない。

 

「カカシ先生、それか、カカシ先生のお母さんになりたかった」
「お母さん?」
「うん。お母さんが駄目なら、お姉さん。妹でもいいや。とにかく、先生の家族」

血を分けた家族。
それならば、カカシ先生の心情を少しは理解できたかもしれない。
そして。
血の連なる者なら、仲たがいをしても、その繋がりは消えない。

たとえ、他にカカシ先生を幸せにできる人が現れても。
近くの存在でいられる。

 

 

「何、じゃあ、結婚でもする?」
家族という言葉を、曲解したのか。
可笑しそうに笑って言うカカシ先生に、私は少し怒った声を出す。
「そういう意味じゃないわよ」
口を尖らせる私に、カカシ先生はなおも笑う。
「でも、サクラが肉親だったら、俺困っちゃうよ。だって、こういうこと出来ないじゃん」

言いながら、カカシ先生は少し屈んで私に唇を寄せてきた。
優しく、唇を合わせる。
呼吸すら許されないほどの、甘いキス。
長い時間口を塞がれ、頭の芯がくらくらとする。
ようやく顔を離したカカシ先生は、私と目線を合わせたまま言った。

 

「俺は、ずっとサクラと一緒に歩いていきたいと思ってるよ」

私の不安を見抜いたかと思えるその言動に、私はびくりと身体を反応させる。
知らずに、目が潤んだ。
嫌なのに。
カカシ先生にそんな弱いところを見せるのは。

「分からないじゃない。そんなの」
わざと刺のある声で言ったけれど、カカシ先生は全く動じなかった。
笑顔のまま、私を見詰め返す。
「でも、俺は好きでいるよ。だから、サクラ、傍にいてくれる?」

 

カカシ先生といると、苦しい。
毎日、いろいろな感情が生まれる。
楽しい感情ばかりではないけれど。
だけれど、離れることなんて、もう考えられない。

別々の人間。
考え方の違う人。
似たところの一つもない人。

でも、その気持ちを確かめ合う方法はいくらでもある。

 

「分からないままでいいならね」

カカシ先生に飛びついて、私はその方法の一つを実行した。


あとがき??
続きはカカシバージョン。わけ分からない。さらにどす暗いし・・・。


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