忘れられない人 2


「あれ、誰?」

カカシの通夜の席で、その上忍を見つけたナルトがイルカの袖を引いて訊ねた。
火影に付き添うようにして立つ彼の姿に、ナルトは全く見覚えがなかった。
火影の付人には今まで他の上忍が当たっていたはずだ。
告別式には多くの人間が参列するだろうが、まだ通夜の段階である今この場にいるのは、カカシにとってごく親しいものに限られている。
カカシの親しい友人筋だろうか。

「ああ、あの人か」
イルカは彼の姿を確認して声を出す。
「エナガさんっていう名前の上忍だよ」
「エナガ?」
「ああ、この前上忍になったばかりだけど、腕は確かで、難しい任務を次々と成功させてる。カカシさんの最後を見取ったのは、彼だったはずだよ。それで呼ばれたんじゃないかな」

言いながら隣りを見ると、そこにはナルトではなく、サクラがいた。
ナルトはサクラによって視界の隅に押しやられている。
「イルカ先生、それ、本当!?」
イルカの腕を掴み、サクラは大きく声を出した。
詰め寄ったサクラの剣幕に、イルカは僅かに後退る。
長い間俯いて沈黙していた彼女の突然の豹変に、ナルトとサスケも目をむいている。

「あ、ああ。確かだよ・・・」
イルカが言葉を全て言い終える前に、サクラはその場から駆け出した。
「サクラちゃん!?」
ナルトが後ろから呼びかけたが、サクラは気にせず走りつづけた。
彼の元へ。

 

「あの・・・」
火影から離れ場内を歩いていたエナガに、サクラは躊躇いがちに声をかける。
「ん?」
足元のサクラに気付き、エナガは怪訝な顔でサクラを見た。
「誰だ、お前」
「カカシ先生の生徒です。あの、教えて欲しいんです」
サクラは真剣そのものの表情でエナガを見上げた。

「カカシ先生、最後に何か、言い残したりしませんでしたか」
「・・・火影さまに聞いたらいいだろ」
そっけなく、言い返される。
「悪いな。用があるんだよ」
面倒くさそうに言うとエナガはサクラを気にせず歩き出そうとした。

だが、その足は一、二歩も行かにいうちに、止まってしまう。
サクラが、彼の背中の服を引っ張っていたからだ。
「おい・・・」
「お願いします。教えてください」
文句を言うために振り返ったエナガだが、サクラの必死な声音に、口をつぐむ。

サクラの真意を推し量るように、エナガはサクラを見据えた。
サクラも彼の鋭い眼光を真っ直ぐに受け止める。
何としても答えが聞きたいというように。
気迫のこもった瞳で。

 

サクラの気持ちが伝わったのか、エナガはゆっくりと口を開いた。

「・・・何も言わなかった」

情況を思い出すように、エナガは僅かに目を細める。
そうすると、最後に見た、倒れこんだカカシの姿が鮮明に蘇った。
「俺が駆けつけたときはもう虫の息で、声なんて出ない状態だったからな。でも不思議なことに表情は安らかなものだったよ」
言いながら、エナガは額に手をやり何か考え込むような素振りをした。
以後もエナガは言葉を発していたが、サクラはまともに聞いていなかった。

 

自分は一体、何を期待していたのか。

サクラは自らの馬鹿な考えに可笑しさが込み上げる。
そんなはずはないのに。
図書館での、たわいのない約束を、カカシが覚えていたはずがないのに。

「サクラ・・・」
いつの間にか、サクラの背後にいたサスケが心配げに声をかける。
サクラは振り向くことなく言った。
「私、もう帰るね」

そのまま、サクラはひどく惨めな気持ちで通夜の会場をあとにした。

 

 

 

7班の新たな担任が決まるまで、下忍達は自習をすることになった。
彼らは互いに顔を合わせる気持ちになれず、思い思いの場所で特訓を続けた。
カカシの死は彼らの心に、大きな傷となって残った。
7班の仲間を見れば、カカシと過ごした日々を振り返ってしまう。
彼らには、時間が必要だった。
カカシの存在を思い出にできるまでの。

 

図書館で、サクラは毎日何をするでもなく、ただ椅子に座っていた。
いつもの窓際の特等席。
だが、向かいの席に、見慣れた顔はいない。
本を読む気持ちになどならないのに、自然とこの場所に足が向いてしまう。
今にも、カカシがやって来そうな気配なのに。
図書館では、ただ静かに時間が流れている。

窓の外では、日が沈もうとしていた。
サクラは読むことのなかった本を閉じ、立ち上がりかける。
そのとき。

 

「サクラ」

 

背中から、名前を呼ばれた。

即座に。
振り返ることができない。

 

分かっているのに。
期待をしてしまう自分がいる。
そうであればいいと、思ってしまう。

そして、予想通りに。

その場所にいたのは、念願の人ではなかった。
彼女と同じ班の下忍の少年。

 

「捜した」

サスケはサクラが今まで見たことのない、穏やかな表情で言った。


あとがき??
サスサクな話にすることにしました。
本当はナルトの方がしっくりとするんですが、サスケってあんまり書かないので。たまには。
3はサスケが別人です。(すでに?)
勘弁してください。
この話のサスケはサクラのことが好きなのだと思っておいて下さい。
サクラをストレートに名前で呼んで欲しかったのです。
カカシ先生の死因もはっきりとしません。ただの事故ということで。

皆さんの思うとおりのラストですよ。たぶんね。


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