賢者の贈り物


「1、2、・・・ああー!!」

折り目良く数字を数えていたサクラは、唐突に悲鳴をあげる。
「やっぱり目一つとばしてるー」
サクラは嘆きながらもその場所まで、毛糸を解き始めた。
手元には、編み棒とピンクの毛糸の玉、そして、作りかけのマフラー。
今年のバレンタイン、意中の人へのプレゼントだ。

時期的に、すでに寒は明けてしまっている。
しかし、しょうがないのだ。
これは本当はクリスマスプレゼントになる予定のものだった。
それが生来の不器用さがたたり、このような時期までずれ込んでしまった。
いわば、これがラストチャンスといって良い。
駄目なら、来年。
サクラは冬の間の苦労をなんとか形にしようと躍起になっていた。

 

そして、2月の14日。

ちょうど良い事に、この日は7班の仕事は休みだ。
なんとか完成したマフラーとチョコを携え、サクラは約束どおりに彼の家を訪れた。
「カカシ先生―」
サクラは呼び鈴を押すと、待ちきれずに大きく声を出す。

サクラの呼びかけに応え、すぐにも扉は開いた。
「いらっしゃい」
にこにこ顔のカカシは、寒さに鼻の頭を赤くして現れたサクラを優しく抱き寄せる。
余裕で懐に収まるサクラを、ぎゅっと抱きしめた。
「よく来たね」
「・・・先生、苦しい」
口では不平をもらしながら、サクラも嬉しげな笑みを浮かべていた。

 

 

「これ、全部カカシ先生が作ったの?」
「他の誰が作るのよ」
唖然とするサクラに、カカシは苦笑ぎみに答える。
テーブルには、美味しそうな料理がところせましと並んでいる。
「サクラが来るから、ちょっと頑張ってみました」
まだ目を丸くしているサクラに、カカシはおかしそうに笑って言う。
「じゃあ、まずお茶入れようか」

浮かれているカカシとは反対に、サクラの表情は何故か陰っていく。
どうしてか、非常に嫌な予感がするのだ。
サクラは傍らにいるカカシをちらりと横目で見る。

「ねぇ、先生」
「ん、何」
「さっきから気になってたんだけど、そのセーター」
「これ?」
カカシはサクラが凝視していることに気付き、身につけているセーターに視線を落とす。

サーモンピンクのセーター。

複雑な模様の織り込まれたそれは、カカシによく似合っている。
明るい色合いのせいか、随分と若々しく見えた。
問題はそのことではなく、それが手編みの物の可能性が高いということだ。
しかも、色がサクラの編み終えたマフラーとうり二つ。
まさか自分以外に、カカシに手編みのものをプレゼントする女性がいるのだろうか。
サクラは恐る恐る声を出す。

「それ、誰かの手編みなの?」
「ピンポーン」
サクラの疑いを知りもせず、カカシは軽快な声で返事をする。
そして、続くカカシの言葉はさらにサクラの度肝を抜くこととなった。
「俺のお手製」
「ええー、嘘!?」

即座に決めつけたサクラに、カカシは不満そうに声を出す。
「嘘ついてどうするの。サクラのも作ったんだよ」
てくてくと洋服ダンスのある部屋へ行くと、カカシは同じ色、小さめのセーターを持って戻ってきた。
「ね、おそろい」
セーターを広げて笑うカカシに、サクラは呆然となった。

 

女性からのプレゼントではなかったことは救いだが、全く喜べない。
カカシの方が自分より器用とは、どういうことだろう。
よりにもよって、同じ色で。

「何、そんなに嬉しいの」
驚きのあまり固まっているサクラに、カカシは笑顔で見当違いなことを言い出す。
「今度のデートはこれ着て会おうな。せっかくおそろいで作ったんだし」
「・・・あはは」
楽しげに笑うカカシに、サクラは力無い笑顔を返す。
これは、絶対に自分の下手な手編みなど見せられない。

と、サクラが思うより早く、カカシはめざとくもその包みを発見した。
「ところでサクラ、さっきから大事そうに抱えてるそれ、何なの?」
サクラは心の中で叫び声をあげながらバッグと共に小脇に抱えていた包みを背中に隠す。
「な、な、なんでもないわよ。ゴミなの、ゴミ」
「なんだ。そうなの」
意外にもあっさりとカカシはひいた。

ホッと息を付いたのも束の間、カカシはサクラの気が緩んだ隙を逃さずその包みをかすめとる。
「ぎゃー!!ちょっと、先生、返してよーー!」
サクラは必死に取り戻そうとするが、なにぶん、並々ならぬ慎重差がある二人だ。
サクラの頭上高く手を伸ばしているカカシに、届くはずもない。
「やーっぱり俺に持ってきたんだろ。何で隠すの」
言いながら、カカシはがさがさと紙袋を開いていく。
その間もサクラはぴょんぴょんと飛び跳ねているが、無駄な努力だった。
「あれ?」
言葉と同時に首を傾げたカカシの手には、サクラの奮闘むなしく、所々編み目のとんだ丈の短いマフラー。

 

サクラの顔はみるみるうちに真っ赤になる。
恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
料理、そして手芸に関し見事な手並みを見せたカカシに、どの面を下げてこのマフラーをしてくれと言えるのか。

そして、顔を伏せたまま落ち込むサクラに、カカシの第一声。
「これ、サクラの手編みなの!嬉しいなぁ」
サクラは驚いて顔を上げたが、その声音同様、カカシは弾けんばかりの明るい笑顔を見せていた。
常に身近にいるサクラには分かる。
全く嘘偽りなく、真からのカカシの笑顔。
ここまで朗らかに笑うカカシを見たのは、初めてかもしれない。

「しかも同じ色だなんて、考えること一緒なんだな。相性もばっちりだね」
優しく頭をなでてくるカカシに、サクラは声をつまらせながらも言い返す。
「む、無理しなくて良いわよ」
「え、何が?」
「だって」
サクラは言いにくそうに続けた。
「・・・そんなに下手なの、先生恥ずかしいでしょ」

 

泣きそうな顔で言うサクラに、カカシはようやくサクラの言いたいことを理解する。
同時に、カカシは盛大に吹き出した。
「何言ってるんだか、この子は」
そのまま声を立てて笑う。

すねるように口をとがらせたサクラに、カカシはまだ薄い笑いを浮かべながら言った。
「サクラが俺のために一生懸命作ってくれたってことが大事なんでしょ」
目を見開いたサクラに、カカシはにっこりと笑いかける。
「有難うな。大切にするよ」

カカシのその言葉と笑顔だけで、サクラは連日の徹夜疲れも吹き飛んでしまった。
天にものぼる気持ちというのは、こういうことだろうか。
そして、また来年。
もっともっと良いものを作ってカカシ先生に贈りたいとサクラは強く思った。


あとがき??
思いついて、その日(14日)のうちに即行で書き上げたので、何のひねりもない話です。
とにかく、恥ずかしいー。ラブラブです!
穴があったら入りたいーー!!ひー!!!死にそう。今すぐ、穴掘りたいです。(泣)
・・・まぁ、バレンタインということで。(=_=;)
カカシ先生が「大切にする」と言ったのは、サクラのことですよ。(マフラーもだけど)

プレゼントは気持ちが大事ということ。
好きな人がくれると、何でも嬉しいのよね。


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